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20.11.19

新型コロナウイルス感染症の“後遺症”に対する治療法を発見/看護学群・風間逸郎教授

看護学群に所属する風間逸郎教授は,病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており,また内科の医師としても,現在も患者さんの診療に携わっています。このたび,これまでの自身の研究成果をもとに“新型コロナ回復後の後遺症”に対する治療法の鍵となる重要な知見を,英文雑誌に報告しました。

本報告内容については,10月29日付けで, 英文雑誌(Drug Discoveries & Therapeutics, 風間教授が単独著者)にAdvance Publicationとして掲載されました。

新型コロナ回復後も感染者を苦しめる“後遺症”/「肺の線維化」に焦点

【図1】新型コロナ回復後の主な症状(2020年10月15日,読売新聞記事より引用)

現在,患者数とともに回復する人の数も増えている新型コロナウイルス感染症の“後遺症”,そこに焦点を当て,その治療法にまで言及した報告は世界初のものです。新型コロナウイルスの感染者が回復し検査で陰性となった後にも,息切れ,胸痛,全身倦怠感,頭痛などといった症状に長く悩まされる事例が国内外で相次いでいます【図1】。

高齢者だけでなく,重症化のリスクが低いとされる若い人たちでもこれらの症状が長引くことが分かってきましたが,根本的な治療法は見つかっていません。

最近,新型コロナウイルスに感染後,肺の細胞が炎症で傷ついて硬くなる“線維化”がおきており,新型コロナ回復後におきる後遺症の原因ではないかと考えられるようになりました。本研究は,風間教授によるこれまでの研究成果をもとに,新型コロナ回復後の後遺症の原因となる “肺の線維化”を改善する可能性を明らかにしたものです。

“肥満細胞”の過活動をヒントに「肺の線維化」を抑え込む薬の候補を発見

“肥満細胞”とは,アレルギー反応をおこす主役となる細胞で,ヒトの血液中や,鼻などの粘膜に広く分布しています。そして,ひとたびハチ毒や食べ物,薬などの刺激が加わると,ヒスタミンを含んだ大量の分泌顆粒を細胞外に放出する状態に変容します。この現象は脱顆粒現象(エキソサイトーシス)と呼ばれます【図2】。風間教授はこの“肥満細胞”の病的・治療的な意義について数多くの研究報告をしてきました。例えば,腎臓病モデルラットの腹膜では肥満細胞が増殖し,その活動性が異常に高くなることにより,線維化が起きていることを発見しています【図3】。“肥満細胞”は,アレルギー反応だけでなく,肺をはじめとする臓器の線維化にも深くかかっているのです。

【図2】肥満細胞の活性化と肺の線維化との関係
(文献:Kazama I. Drug Discov Ther 2020より引用)

【図3】腎不全モデルにおける腹膜の線維化(上段,青)と肥満細胞の増殖(下段,紺)
(文献:Kazama I. et al. Nephrology 2015より引用)

【図4】オロパタジン(抗アレルギー薬)による肥満細胞活性の抑制
(文献:Kazama I. et al. Cell Physiol Biochem 2015より引用)

風間教授は,肥満細胞の脱顆粒現象(エキソサイトーシス)を電気生理学的な膜容量の増加として捉え,それを抑える薬の作用を明らかにする独自の手法を開発してきました。これにより,日常診療の中で多くの患者さんたちに使われている抗アレルギー薬(オロパタジンなど)や抗生物質(クラリスロマイシンなど),ステロイド薬(デキサメタゾンなど)の中に,強力に肥満細胞の活動性を抑える薬があることを発見してきました【図4】。これらの薬は,安全性が十分に確かめられているので,副作用を心配することなく,今後,実臨床への応用が期待できる可能性があります。

今回の報告は,これまで風間教授が明らかにしてきた自身の研究成果をもとに,肺の線維化が原因とされる新型コロナ後遺症に対する治療法について,重要な知見を明らかにしたものであるといえます。また今後,新型コロナウイルス感染者数の増加とともに,その回復後に後遺症で苦しむ患者さんの数も,老若男女を問わず増えていくことが予想されます。今回の風間教授の発見は,社会的な観点からも貢献度が高く,非常にインパクトのある内容です。

風間教授は今後も,臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし,日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも,風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は,是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。
( kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)


研究成果の詳細について

なお,本研究報告は,10月29日付けで英文雑誌(Drug Discoveries & Therapeutics, 風間教授が単独著者)に論文(Advance Publication)として掲載されています。また,風間教授がこれまでに発表してきた,本報告に関連する主な研究成果についても,別の英文雑誌に掲載されています。(いずれも風間教授がCorresponding author)

Targeting lymphocyte Kv1.3-channels to suppress cytokine storm in severe COVID-19: Can it be a novel therapeutic strategy?
α 1-Adrenergic Receptor Blockade by Prazosin Synergistically Stabilizes Rat Peritoneal Mast Cells
Anti-Allergic Drugs Tranilast and Ketotifen Dose-Dependently Exert Mast Cell-Stabilizing Properties
Hydrocortisone and dexamethasone dose-dependently stabilize mast cells derived from rat peritoneum
Clarithromycin Dose-Dependently Stabilizes Rat Peritoneal Mast Cells
Olopatadine inhibits exocytosis in rat peritoneal mast cells by counteracting membrane surface deformation
Mast cell involvement in the progression of peritoneal fibrosis in rats with chronic renal failure


研究者プロフィール

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