動物生殖学研究室

小林 仁(ファームビジネス学科/教授)

家畜の受胎率の低下している

家畜改良事業団では、牛の受胎調査成績を毎年発表しています。それによると乳用牛と肉用牛の受胎率が長期にわたって減少を続けていることが分かります。特に、乳牛が顕著で、過去20年間で約20%も受胎率が低下しました。家畜のような経済動物では、妊娠しなければ淘汰されます。現在、牛乳の生涯産子数は3.4産(乳用牛群能力検定成績 平成25年度)と大変短くなっています。乳用牛の乳量のピークは3,4産目ですから、泌乳量の最も多い時期に淘汰しなければいけない状況です。このため乳用牛や肉用牛の繁殖能力の向上が緊急の課題となっています。

加齢による卵胞数の変動と卵巣中の遺伝子発現

加齢によって繁殖能力が低下することはよく知られています。繁殖能力に影響する要因を調べるために、加齢した卵巣中の原始卵胞数と遺伝子発現に注目しました。ウシはライフサイクルが長く頭数確保も難しいためモデル動物として加齢したマウスを用い、原始卵胞の活性化や卵胞発育に関与する遺伝子についてマイクロアレイ法およびPCR法を用いて検討を行いました。これまでのところ、加齢した卵巣では原始卵胞や一次卵胞とともに二次卵胞以降の卵胞数の減少が認められ、二次卵胞の顆粒膜細胞から発現するする複数の遺伝子に発現の減少が認められました。また、原始卵胞の活性化に関与するとされる遺伝子に、若齢区と差は認められませんでした。現在、加齢マウスの遺伝子発現について、マイクロアレイで解析中です。

卵巣の活性化とウシの生殖寿命の延長

加齢した卵巣では、途中で卵胞発育を停止する卵胞が増えることがウシで報告されています。加齢した卵巣の組織標本を観察すると、原始卵胞が減少する中、移行型の原始卵胞や一次卵胞数が増加していることがわかります。卵胞発育が正常に進行していれば原始卵胞数の減少だけが起きるはずですが、加齢によって卵胞発育が停止したり減速したりするために特定のステージの卵胞が増えるのです。この加齢による卵胞発育の停滞を抑え、卵胞発育をスムーズに進行させる卵胞活性化法を検討することで、余分な卵胞の減少を抑え原始卵胞を温存して繁殖寿命の延長が図れないかと考えました。卵胞の活性化はHippo シグナルを低下させることで休眠中の卵胞を活性化できるとしたヒトでの先行研究があります(Kawamura et al., 2013, Cheng et al., 2015)。現在、それらの方法を基にウシ卵巣の活性化について、聖マリアンナ医科大学と秋田県立大学との共同研究を行っています。

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