【高血圧とは何か】


1. 高血圧の疫学

 先進国では人口の2割が高血圧症となる。日本では約2600万人であるが、実際に治療を受けているのは2000万人以下だろう。年齢とともに収縮期血圧が上昇する。これは血管の動脈硬化の影響と考えられる(Windkessel理論 Franks 1926 風の部屋)。高血圧症はなぜ病気として扱われるか?高血圧を放置すると、脳、心、腎などの重要臓器障害が生じる。これら高血圧によって障害が生じる臓器を高血圧症の標的器官(target organ)という。九州の久山町で、40歳以上の住民全員の死因をフォローしている研究があるが、それによると収縮期血圧、拡張期血圧のどちらが上昇しても生存率が低下する。動脈硬化も高血圧によって生じる。高血圧症の治療とは、血圧を下げることではない。血圧をコントロールして臓器障害を防ぐこと、つまり脳、心、腎を守ることである。高血圧症の検査とは、単なる血圧の測定ではなく、高血圧の原因を精査し臓器障害の有無と障害があればその程度を把握し、どのような方法で血圧を下げるか、そしてどこまで血圧を下げるかを設定することである。


2. 高血圧の定義

 高血圧の定義は年とともに変化する。なぜ、変化するのかそれは最新の予後調査の結果を取り入れるからである。evidence-based medichineという言葉が医学界で流行している。これは確証のある医療という概念であり、例えば収縮期血圧が140mmHgならば20年後に脳卒中になる確率が120mmHgのひとより1.55倍高いという研究調査結果が明らかとなれば(これは例であって実際のデータではない)、脳卒中を防ぐためにもっと降圧(血圧を下げる)させるべきとなる。よって、このような調査データが出れば、高血圧の定義もどんどん変化するわけである。
 一般的に使われるのは、WHO1993)の定義である。
正常血圧は収縮期140未満かつ拡張期90未満
境界域高血圧は収縮期140以上160未満かつ/また拡張期90以上95未満
それ以上を高血圧とする。
 一般的にはこのような高血圧の定義を使っているが、米国合同委員会では定期的にもっと細かい血圧値の分類を発表している。現在は第6次の血圧値の分類を発表してる。この第6次では、evidence-based medicineという考え方をいっそう強調している。

3. 高血圧の分類

 高血圧の分類には以下のような分類が用いられることが多い。ここで、本態性高血圧症というのは一次性高血圧症のことであり、原因のわからない高血圧症の総称と言える。二次性高血圧症とは原因がわかっているものである。もっとも原因がわかっているから直せるとは限らない。糖尿病と同様に高血圧も直らない病気であり、基本的にはコントロールする病気である。二次性高血圧症のうち腎血管性高血圧や内分泌性高血圧では直せる高血圧症として、Curable Hypertension (治療可能な高血圧)とも言ったりする。

@ 本態性高血圧症

 本態性高血圧症は原因がわからない高血圧症とは言われているが、その多くは腎臓の電解質水調節機能異常から発症しているのではないかと考えられてる。そのなかでも最も重要なものは生理学者のGuytonらの pressure natriuresis(圧依存性利尿)理論から生まれた圧利尿曲線の右方変移説である。もともと腎臓は血圧が高まればNa排泄能が増加する。動脈圧依存性のNa排泄能が高血圧領域に変移してないかぎり持続性の高血圧は生じないというものである。この腎臓の調節機能異常以外にも色々な高血圧発症機序が出されており、実際には複合した原因で結果として高血圧症になっているものと考えられている(モザイク説)。また、高血圧症の発症原因がなんであれ、最終像は抹消血管抵抗の上昇という結果になる。

A 二次性高血圧症

 二次性高血圧症のなかで最も多いのは腎性高血圧症である。腎実質性の病変の結果として高血圧症が生じるものであり、基本的には本態性高血圧症の発症メカニズムそのももで生じるのではないかと思われる。よって、高血圧症の検査の中で尿検査が大切となるわけである。同じ腎性のなかでも腎血管性高血圧症は特異的な高血圧症であり、Curable Hypertensionの代表でもある。
 これは腎動脈が狹窄を起こして狭くなり、腎臓が虚血状態となると腎臓からレニンが分泌されてこれによってアンギオテンシンというホルモンが産生され、このホルモンは血管を強力に収縮させるもので血圧が上昇する。さらにアンギオテンシンはアルドステロンというホルモンの分泌を促進するが、このアルドステロンは腎臓尿細管に働いてナトリウムの貯溜を促す。すなわちナトリウム貯留によっても高血圧の発症を促進するものである。このレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系というのは内分泌学的に非常に重要な考え方である。このため腎血管性高血圧症は手術的にあるいはカテーテルによって腎血管を開けば、高血圧は直るのである。ところで、腎血管性高血圧症では腎動脈に狹窄部位があるのであるから、患者の腹部をよく聴診すると血管雑音が聞こえることが多い。高血圧症の診断と言えども腹部の聴診は非常に重要である
 腎性高血圧症の多くは慢性糸球体腎炎が占める。その次は腎血管性高血圧であり、その次が内分泌性高血圧症である。特殊なものとして心・大血管異常がある。さらに最近では医原性の高血圧として薬剤によるものがある。また、女性では問題となるのは妊娠に伴う高血圧である。

4. 高血圧を放置していけないわけ

@ 寿命を縮める事になる。
−血圧が高いと、脳の血管や心臓、腎臓などに障害が起きやすくなる。高血圧の寿命に及ぼす影響から、ある調査の統計から
40最大では、高血圧でない人に比べて死亡率は4倍、50代で3倍、60代で2倍、70を超えると1.3~1.4倍となる。しかし、高血圧が直接の死因となる事はない。高血圧があると、心臓に負担がかかり、血管が障害されて動脈硬化が進む。その結果、脳卒中や心臓病が起こって亡くなる。また、脳卒中や心臓病の促進因子は、高血圧だけでなく、高脂血症や、糖尿病、肥満、喫煙なども促進因子である。したがって、脳卒中や心臓病を防ぐためには高血圧の治療だけでなく、他の促進因子のも一緒に治療しないと、効果が上がらない。脳卒中や心臓病の促進因子は、ひとつひとつバラバラに考えるのではなくて、総合的にコントロールしないと、それらを予防する目的は十分果たせない。

A 血圧が高いうえにほかの危険因子が重なるほど、心筋梗塞などの冠動脈疾患が発生する頻度も高くなる。
−高血圧の人で、コレステロール値も高く、糖尿病の危険因子でもある耐糖能異常があり、喫煙習慣があり、高血圧のために心肥大が起きている人は、そうでない人の
10倍以上も、心筋梗塞になる可能性が高い。

B 高血圧が続くと脳動脈硬化が進んで脳の血管が硬くなってしまい、脳出血や脳梗塞を起こしたりする。

C 高血圧から心肥大やうっ血性心不全へ
−血圧の流れの圧力が高じてくると、それに打ち勝つために心臓はどんどん血液を送り出さなければならず、その結果心臓はどんどん肥大していく(心肥大)。そして、この高血圧と心肥大が長い間続くと、ついには心臓が音を上げてしまい、この状態がうっ血心不全である。

D 冠動脈への影響
高血圧が続いたり、動脈硬化が促進されたりすると、冠動脈の流れが悪くなって、心臓の筋肉に酸素が行き渡らなくなる。そして起こってくるのが狭心症で、それが更に進んで血管が破けたり、完全に詰まってしまうのが心筋梗塞である。

E 腎臓への影響
腎臓は血液を濾過して尿をつくる働きをしており、腎臓の血管も高血圧によって動脈硬化が起こってくる。そして、どんどん悪くなると、尿が作られなくなる腎不全になり、そのためからだの中に老廃物や窒素化合物が溜まってしまい、人工透析しないと最終的には尿毒症に至る。

F 閉塞性動脈炎という病気が発症した場合、少し歩くと足がしびれたり、痛みが起きてくる。

 

5. 高血圧症の治療

 高血圧症の治療については、最近かなり新しい知見が出てきている。すでに、高血圧症(特に本態性高血圧)については生活習慣病という概念でとらえており、ライフスタイルの改善が第一である。すなわち、適正体重、睡眠時間の確保、継続的な有酸素運動、アルコールを控えめにし、禁煙、減塩、カリウムやカルシウムに富む食品を摂るなどが重要となる。このようなライフスタイルの改善を非薬物療法というが、この非薬物療法でも降圧しない場合には、薬物療法へと進む。
 降圧薬の使い方は、一種類の薬で降圧が見れない場合には一種類の薬の多く使うのではなく、作用機序の異なる薬を多種使うのが基本となる。これによって一種類の薬を多く使うことによって副作用が出ることを防ぎ、かつ作用機序の異なる薬を使うことによって効果的な降圧を導くことができる。

[降圧薬の例]

@ 利尿薬     サイアザイド、カリウム保存性利尿薬
A 交感神経抑制薬 メチルドパ、クロニジン、レセルピン、
βブロッカーαブロッカー
B血管拡張薬    ヒドララジン、カルシウム拮抗薬
CACE阻害薬

 

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