【低血圧とは何か】

 

1. 定義・概念

 全身動脈圧の低下を低血圧という。低血圧の明確な定義はないが、収縮期血圧100mmHg以下を指し、拡張期血圧は通常考慮しない。低血圧の基準を満たしていても、愁訴や症状のない場合は体質性低血圧として区別され、病気とはみなされない。また、色々な病態や疾患で低血圧が見られるので、その鑑別診断は重要である。

 

2.  分類

 病因、発症および経過、起立性血圧の変化の有無、愁訴の有無などによって分類される。臨床的には基礎疾患の有無から、本態制低血圧症と症候性(二次性)低血圧に分類される。

急性低血圧 … 通常ショックを意味する。

一過性低血圧… 起立性、食後、運動後などがあり、特に高齢者で頻度が高い。

 

3. 病因・病態生理

 本態性低血圧症の病因は明らかではない。血圧は常に低いレベルにあり、ストレスなどにより昇圧を示さず、日内変動あるいは季節変動を認めない場合が多い。本性の発症機序は単一ではなく、本態性高血圧症の病因と同様に種々の因子が複雑に組み合わさって病態が形成されていると考えられている。同一家系内に出現することから遺伝性素因を有するなどの特徴を示す。加えて、神経・体液性因子の失調を生ずることが本症の病因と推定されている。

 

4. 臨床症状

@ 自覚症状
 愁訴が多彩で、一定の臓器や器官に集中していないのが特徴である。倦怠感、脱力感、熱感などの全身症状、めまい、頭痛、不眠、肩凝り、耳鳴り、などの精神症状、動悸、胸痛、息切れなどの循環器症状、食欲不振、腹部膨満感などの消化器症状などが主なものである。起立性低血圧では、起立時の血圧低下とともに眼前暗黒感、めまい、失神、動悸、悪心などの症状をきたす。

A 他覚症状・検査所見
 本症では無力体質、痩せ型、神経症的傾向の強いものが多いとされるが、特徴的なものはない。心拍数は徐脈の傾向を、心電図は垂直位を示す傾向にある。また、内分泌検査や自律神経検査で異常を示し、特に血中のカテコールアミンや血漿レニン活性の低値がしばしばみられる。

 

5. 診断

 器質的な疾患を除外し、多彩な愁訴や臓器の低灌流状態に基づいた症状を呈し、収縮期血圧が100mmHg以下のものを本態性低血圧症と診断する。年齢などを考慮して収縮期血圧110mmHg以下や拡張期血圧値を基準とする考えもある。本態性低血圧症の診断は、二次性に低血圧をきたす病態や疾患を除外した上でなされる。類似の不定愁訴を呈する精神疾患を鑑別する必要がある。また、起立性低血圧の有無を評価するために臥位や立位での血圧測定も必要である。

 

6. 予後

 本態性低血圧症は高血圧の場合と異なり、生命に関する予後は良好である。しかし、多彩な愁訴や症状の為に日常生活活動を制限される場合もみられる。したがって、QOLの観点からは良好とはいいがたい。起立性低血圧の場合も同様である。二次性低血圧症は、いずれの場合であってもその予後は基礎疾患と、その程度によって規定される。

 

7. 治療

 二次性低血圧症の治療は基礎疾患の治療が第一となる。症状は必ずしも低血圧と因果関係が明らかでないことをよく説明し、不安を取り除くことと、一般療法が重要である。その主体は生活指導と食事療法である。朝、起床しにくいことを考慮した規則正しい生活を励行し、適当な運動と休養を取り入れることが必要である。さらに偏食を避け、塩分をひかえた食事をとる。日常生活では皮膚の乾布摩擦や冷水摩擦、入浴、シャワーなども有功とされている。また、起立性低血圧が重度な場合には体位変換の指導を行う。就寝時の頭部の挙上(枕を高くするなど)や下半身に弾力性のある衣類を装着することが有効である場合もある。
 一般療法に抵抗性で、しかも愁訴や症状の強いものに対しては薬物療法を行う。昇圧剤としては交感神経刺激薬が用いられる。また、神経症的傾向が強い場合に、不定愁訴の改善を目的として精神安定薬を用いる。

 

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