小嶋秀樹 | 授業情報 | 研究室
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実学とアナログ感覚 (2010年3月15日)

豆電球を電池につなげば点灯し,模型用モータをつなげば回りだします.当たり前のことですが,携帯電話やパソコンがネット世界への「窓」として日常に埋め込まれてしまった今日,多くの学生は,テクノロジーを裏で支える諸要素について,知識としては知っていても,身体をとおして経験したことは少ないでしょう.

モノやサービスを企画・開発する能力は,宮城大学が重視する教育目標のひとつです.本学が掲げる実学の観点から言い換えれば,それは知識に裏打ちされた「現場感覚」であり,生活者のリアリティを捉える「身体感覚」でしょう.知識としてのテクノロジーだけでなく,これら感覚 ー まとめて「アナログ感覚」と呼びます ー に根ざした想像力と行動力が,モノやサービスをデザインする人間の備えるべき資質なのではないでしょうか.

かつての日本は「アナログ感覚」に満ち,活気に溢れていました.ところが最近はリアリティから乖離し,さまざまな努力が空回りしているようです.地に足をつけ,また力強く前進していくためには,何よりもこの「アナログ感覚」を取り戻す教育が必要なのです.

(初出:宮城大学後援会報, Vol.31,「教員からの一言」;一部改変)

ロボットからみた子どもたち (2006年1月1日)

私は人工知能やロボットを専門とする技術屋です.この2年間,同僚とともに,発達に遅れやつまずきをもつ子どもたち(就学前)の療育施設に通っています.子どもたちに,私が作ったロボットと遊んでもらうためです.

そのロボットは,まるで小さな雪ダルマのようですが,両眼にビデオカメラ,鼻にはマイクが仕込まれていて,あたりをキョロキョロしては子どもとアイコンタクトをとったり,楽しさや興奮などを身ぶりで表現することができます.

子どもたちは,プレイルームに置かれたロボットと,さまざまな形で遊んでくれます.ときには,他人に(お母さんにも)あまり見せたことのない表情や,帽子をかぶせてあげる・食べ物をたべさせる(ふりをする)といった行為を見せてくれるのです.人でもオモチャでもないロボットだからこそ,そして視線と感情を表出するだけのシンプルなロボットだからこそ,対人コミュニケーションを苦手とする子どもたちも,安心感と好奇心をもって,ロボットとのやりとり遊びに入っていけるのでしょう.

ロボットへの関わり方とその長期的な変化は十人十色ですが,診断名では捉えきれない〈その子らしさ〉や〈その子の発達の道すじ〉を物語ってくれます.現在,ロボットの眼からみた子どもたちひとり一人の〈物語〉を,ビデオとして,保護者の方々・保育士の先生方にフィードバックすることを進めています.そこには,子どもたちの生き生きした姿が,また,子どもたちからのシグナルを待ち,それに応答し,日常的な実践のなかで意味づけていく先生方・保護者の方々の姿が凝縮されています.

このような活動をとおして,私たちは,ロボットで何ができるのかを模索してきました.まだ結論は出ていませんが,テクノロジーを押し売りするのではなく,子どもたちの育つ力,大人たちの支える力,これらが噛みあい回りだすきっかけ作りを,ロボットを使ってお手伝いできればと願っています.

(初出:LD & ADHD, Vol.4, No.1,「Essay」;一部改変)

発達の本質とは何か (2005年10月1日)

あらかじめ与えたゴールやタスク (あるいはその達成度を表わす評価関数) をロボットに探索・学習させ,そのアルゴリズムや効率を問うだけでは,ロボットを〈発達〉させているとは言えません.〈発達〉の本質は,何かを求めて外に向かおうとする力が,未知環境とぶつかり,絶え間なく自分自身を変えていくプロセスにあります.そもそも環境や身体は不変なものではなく,自然現象や社会活動,あるいは個体の成長や疾病によって,つねに変化していきます.したがって〈発達〉にアプリオリなゴールを与えることは意味をなしません.高等動物 (とくにヒト) の〈発達〉は「何かを求めて外に向かおうとする力 (=自発性)」によって駆動された open-ended なプロセスとしてモデル化されるべきであり,ロボットの〈発達〉もそうあるべきでしょう.

〈発達〉の原動力となる「何かを求めて外に向かおうとする力」とは一体何でしょうか.この問いへの一般解が「内発的動機づけ (intrinsic motivation)」です.内発的動機づけとは,それ自体が内的報酬となるような活動への動機──内から外に向かう原動力──のことです.たとえば「新奇性 (novelty)」や「学習の進み (learning progress)」への方向づけは内発的動機づけの好例です.これらは大脳基底核でのドーパミン系の働きとアナロジーがとれると言われています.ゆえに,強化学習との相性もよいようです.(ちなみに「外発的動機づけ (extrinsic motivation)」とは,外的報酬 (例:ボーナス) を得るためや罰 (例:罰金) をさけるための動機づけのことです.身体内部のホメオスタシスによる動機づけ (例:摂食・睡眠) も含まれます.) 内発的動機づけをもったロボットは,未知環境のなかで自発的に活動し,自分自身を適応的に変化させていくことで,open-ended な〈発達〉を実現できるでしょう.

(初出:人工知能学会誌, Vol.20, No.4,「会議報告」;抜粋・一部改変)

なぜロボットなのか (2005年9月15日)

人間を理解する方法のひとつとして,人間の身体や行動を外から分析することが考えられます.人間という研究対象を要素に分解していき,要素ごとの機能を調べます.そして,各要素の機能を組み合わせることで,全体の機能を説明しようというものです.科学研究の多くは,このような〈還元論 (reductionism)〉にもとづく〈分析的 (analytic)〉なアプローチによるものでしょう.しかし実際には,要素に切り刻むことで対象の重要な性質が失われることが多く,一般に『Σ要素 < 全体』となってしまいます.小さな要素に切り刻むほど,扱いやすい研究対象になっていきますが,物理的・社会的環境のなかで生きている人間とはかけ離れたものになりがちです.たとえば,単独の神経細胞を詳しく調べても,心の働きを理解することは難しいでしょう.

人間を理解するためのもうひとつの方法として,知覚・運動・思考などの機能を統合した〈行動主体〉=ロボットをデザインしていくことが考えられます.人間の行動を再現・説明するために,どのような機能が必要なのかを推定し,ひとつの(ひとりの)まとまりある〈行動主体〉に仕立てていきます.いわば〈全体論 (holism)〉にもとづく〈統合的 (synthetic)〉なアプローチです.また,実際の物理的・社会的環境のなかでロボットを動作させ,その機能を実証・評価し,デザインに反映させていきます.実環境(世界)が審査員となるわけです.〈人間を理解すること〉と〈人間のようなロボットをつくること〉──これらを行き来することで,人間に対するより深い理解が得られることを期待します.

(未発表)