あらかじめ与えたゴールやタスク (あるいはその達成度を表わす評価関数) をロボットに探索・学習させ,そのアルゴリズムや効率を問うだけでは,ロボットを〈発達〉させているとは言えません.〈発達〉の本質は,何かを求めて外に向かおうとする力が,未知環境とぶつかり,絶え間なく自分自身を変えていくプロセスにあります.そもそも環境や身体は不変なものではなく,自然現象や社会活動,あるいは個体の成長や疾病によって,つねに変化していきます.したがって〈発達〉にアプリオリなゴールを与えることは意味をなしません.高等動物 (とくにヒト) の〈発達〉は「何かを求めて外に向かおうとする力 (=自発性)」によって駆動された open-ended なプロセスとしてモデル化されるべきであり,ロボットの〈発達〉もそうあるべきでしょう.
〈発達〉の原動力となる「何かを求めて外に向かおうとする力」とは一体何でしょうか.この問いへの一般解が「内発的動機づけ (intrinsic motivation)」です.内発的動機づけとは,それ自体が内的報酬となるような活動への動機──内から外に向かう原動力──のことです.たとえば「新奇性 (novelty)」や「学習の進み (learning progress)」への方向づけは内発的動機づけの好例です.これらは大脳基底核でのドーパミン系の働きとアナロジーがとれると言われています.ゆえに,強化学習との相性もよいようです.(ちなみに「外発的動機づけ (extrinsic motivation)」とは,外的報酬 (例:ボーナス) を得るためや罰 (例:罰金) をさけるための動機づけのことです.身体内部のホメオスタシスによる動機づけ (例:摂食・睡眠) も含まれます.) 内発的動機づけをもったロボットは,未知環境のなかで自発的に活動し,自分自身を適応的に変化させていくことで,open-ended な〈発達〉を実現できるでしょう.
(初出:人工知能学会誌 Vol.20, No.4,「会議報告」;抜粋・一部改変)
人間を理解する方法のひとつとして,人間の身体や行動を外から分析することが考えられます.人間という研究対象を要素に分解していき,要素ごとの機能を調べます.そして,各要素の機能を組み合わせることで,全体の機能を説明しようというものです.科学研究の多くは,このような〈還元論 (reductionism)〉にもとづく〈分析的 (analytic)〉なアプローチによるものでしょう.しかし実際には,要素に切り刻むことで対象の重要な性質が失われることが多く,一般に『Σ要素 < 全体』となってしまいます.小さな要素に切り刻むほど,扱いやすい研究対象になっていきますが,物理的・社会的環境のなかで生きている人間とはかけ離れたものになりがちです.たとえば,単独の神経細胞を詳しく調べても,心の働きを理解することは難しいでしょう.
人間を理解するためのもうひとつの方法として,知覚・運動・思考などの機能を統合した〈行動主体〉=ロボットをデザインしていくことが考えられます.人間の行動を再現・説明するために,どのような機能が必要なのかを推定し,ひとつの(ひとりの)まとまりある〈行動主体〉に仕立てていきます.いわば〈全体論 (holism)〉にもとづく〈統合的 (synthetic)〉なアプローチです.また,実際の物理的・社会的環境のなかでロボットを動作させ,その機能を実証・評価し,デザインに反映させていきます.実環境(世界)が審査員となるわけです.〈人間を理解すること〉と〈人間のようなロボットをつくること〉──これらを行き来することで,人間に対するより深い理解が得られることを期待します.