贈る言葉ー令和2年度入学を祝福してー

学長 川上 伸昭

(平成31年度入学式の写真)

令和2年度を迎えました。今年度は446名の学群新入学生および37名の大学院新入学生を本学に迎えることができました。入学おめでとうございます。宮城大学は,皆さんを歓迎し,これからともに歩む日々に期待しています。本来であれば,入学式を挙行し,その場で皆さんの入学を祝福するものですが,新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により,これを行うことができない状況にあることは大変残念です。そこで,替わりに書面をもって祝意を表すことにいたしました。

東日本大震災から9年の歳月が刻まれ,宮城県内各地の復興は一歩一歩前進してきました。そのような中で昨年は台風19号による甚だしい水害が発生し,そして,本年は新型コロナウイルス感染症の蔓延という新たな災厄に見舞われています。

皆さんは,「レジリエンス」(resilience)という言葉を知っていますか。この言葉は社会でそれほど頻繁に使われる言葉ではないのかもしれませんが,本学の学群新入学生のほとんどが受験した2020年の大学入試センター試験国語の第一問に主題として取り上げられたことから,大いに認知度が高まっているものと思います。設問では,レジリエンスという概念が時代とともに多くの分野に拡大されてきたとされていましたが,東日本大震災の経験を経て,災害分野においても,レジリエンスは重要な概念として取り入れられてきています。災害分野におけるレジリエンスの概念は,日本学術会議の提言では「想定を超える極端現象に遭遇してもできるだけ平常の営みを損なわない,また被害が避けられない場合でもそれを極力抑え,被害を乗り越え復活する力」(2014年9月22日日本学術会議東日本大震災復興支援委員会「提言 災害に対するレジリエンスの向上に向けて」要旨より引用)と説明されています。

今,新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延は想定を超えた災害といえるものであり,まさに社会はレジリエンスを問われる時にあります。皆さんは社会の一員として,社会がレジリエンスを発揮することのできるように心がけて,考え,行動することが求められています。また,本学自身も社会の一員です。今,大学を閉鎖すれば,大学を通した感染の拡大の可能性を無くすことができます。しかし,それでは大学の活動も大きく損なわれてしまいます。大学の活動をできるだけ保ちながら,感染症を大学に持ち込まない,これを教職員,学生が一丸となって取り組むこと,そのような文脈でのレジリエンスの発揮が必要とされています。このため,今,大学として遠隔授業の導入などの準備を進めています。皆さん一人ひとりの知恵と責任ある行動を求めます。

さて,大和キャンパスでは新棟の建設が進み,6月の完成が見込まれています。この施設ではデザインを中心とした活動を行っていきます。「デザイン」というカタカナ語は,必ずしも概念が統一されていない言葉です。商品デザインのように単体のモノが顧客に好まれ喜びを与えるようにするのがデザインであるという理解から,システムデザインのように組み合わせによってサービスを生み出みだし顧客の満足を得るもの,そして最近は,ソーシャルデザインのように社会が抱える問題を解決する道筋を描くことまでも,「デザイン」と呼ばれるようになってきています。こう見るとデザインという言葉はとらえどころがないもののように見えますが,これらのいずれもが,ヒトが中心にいる,ヒトに向かった活動といえます。グッドデザイン賞を運営する日本デザイン振興会は『「常にヒトを中心に考え,目的を見出し,その目的を達成する計画を行い実現化する。」この一連のプロセス』(日本デザイン振興会webサイト)がデザインであると定義しています。

前段で述べた災害は社会を変容させます。レジリエンスの定義にある「被害を乗り越え復活する力」は,決して社会を災害の前の元通りの姿に戻すことを指すものではありません。災害を通して人間は多くの新しい知識を得ます。復活はこういった知識を活用して行われていきます。知識を適用し,人間を中心に置いた社会となるように計画化して実現していくプロセスもデザインであると言えます。

宮城大学は,開学時から「ホスピタリティ精神とアメニティ感覚にあふれる社会の形成」を目指すこと,すなわち人間を中心とした温かい社会をデザインすることを追及してきました。今,社会が,直面する複雑な課題に対する解決の道筋を求める時代となり,本学は,看護,事業構想,食産業全体において改めてデザイン重視の姿勢を顕わしていきます。

皆さんはこれからの学生生活で学修の進展とともに,現実の課題を目前に,その解決策をデザインするという実践的な教育を受けることになります。社会の課題は様々で,教科書に解答は書かれていません。自分で考え回答を作ることが求められます。このため,学士課程4年間の最初に基盤教育となる「フレッシュマンコア」プログラムが3学群共通で用意されています。ここでは,「主体的に考える力」を身につけることが目的とされます。また,これからの社会は,グローバルな競争の下,急速に変化していくことが予想され,これに伴い,社会人に求められる能力はこれまで以上の速度で変化していくものと予想されます。生涯を通じた学びによって変化を乗り越えることのできる力を持った人材を育てること,これもフレッシュマンコアの眼目です。

新入学生の皆さんは,今学んでいることを,過去に生み出された知識として記憶するだけではなく,生涯にわたる学びを通して応用していけるものとして身につけてもらいたいと思います。

最後に,改めて新入学生の皆さんにお祝いを申し上げるとともに,学生一人ひとりにとって,宮城大学におけるこれからの日々が充実したものとなることを祈念して,歓迎の言葉とします。

令和2年4月3日
宮城大学長
川上 伸昭

 

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