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26.07.15

学長特別対談 MYU✕QuizKnock

「やりたい」を社会へつなぐ場に
伊沢拓司さんと「実学」を問い直す


YouTube動画などを通して「学び」のきっかけを提供している知的エンタメ集団「QuizKnock」を率いる伊沢拓司さんが宮城大学に来訪した。学内の様子や学生の活動を視察した後、佐々木啓一学長と対談し、これからの学びの在り方について対談。教育現場の現状や大学の役割を踏まえながら、「やりたい」という情熱が持つ力や、それを社会につなげるために必要な環境について語り合った。伊沢さん自身が「やりたい」を軸に進路を切り開いた経験や、学びの入り口を設計するQuizKnockの考え方にも話が及び、「実学」の意味を問い直す時間となった。

「やりたい」と「やらなきゃ」の間で


佐々木 本日はお越しいただきありがとうございます。伊沢さんとは5年ほどのご縁になりますが、宮城大学の学生や先生たちがどんな面白いことをやっているのか、元気のいいところを伊沢さんに紹介したいと思い、お招きしました。

伊沢 こちらこそありがとうございます。昨年QuizKnockを運営するbaton社の10周年パーティーに来ていただいて、それ以来ですね。今日はよろしくお願いします。

佐々木 QuizKnockはもともと教育を一番のターゲットに活動していますよね。本当にたくさんの取り組みをしている中で、学校教育についても力を入れていらっしゃいます。その中で、今の日本の教育についてどんなことを思っているのか、まずそこをお聞きしたいなと思います。

伊沢 ありがたいことに、いろんな現場にお邪魔させていただいていまして、中高を中心に100校ぐらいは行っていると思います。現場で見ると、学力関係なく昨今の生徒さんたちは真面目な方が多く 、先生たちも情熱があると感じています。

ただ、それはずっと押し通せるものではなく、社会からの要請だったり、受験だったり、親のニーズだったり、いろいろなものがあって、「やりたい」よりも「やらなきゃ」が勝ってしまう瞬間があります。それ自体は悪いことではなくて、「やらなきゃ」から「やりたい」が生まれることもあるんですが、「やりたい」と思ったままやれる環境は必要だと考えています。

 日本は国の政策として実用を重視していた時期が長くあって、それももちろん大事なんですが、最初のモチベーションである「やりたい」とか、もしくは経済の論理の外にあるけれど大切なものが失われていくのはもったいないなと。ですので、小中高大、それ以外の教育機関も含めて、「やりたい」を一貫して支えられる仕組みがあったらいいなと思います。

伊沢拓司

社会とつながる力を育てるために


佐々木 私はずっと大学で教えてきた立場ですが、その中で感じていたのは、大学に先端的な研究や技術を生み出す力があっても、それを社会とつないでいくには、また別の力が必要だということです。社会とつながる人をしっかり育てておかないと、社会は動かない。そう考えた時に、より社会に近いところで教育をして人を育てたいと思って、今宮城大学にいるというのが正直なところです。

伊沢 先生は以前からそういうことをおっしゃっていましたよね。

佐々木 その点では、ご覧いただいたように宮城大学は地に足を着けてやれていると思いますし、それが学生にも伝わっていると感じています。みんなちゃんと地面の上に立って活動しているので、こういうところから、社会の中でしっかり活動できる人が育っていけばいいなと。

伊沢 「社会とつながる」と言うと、社会の役に立つ人材をつくる、実用重視の教育と誤解されがちですが、先生がおっしゃっているのはそういうことではないんですよね。実際、これまでの教育では、汎用的な人材、どこに行っても70点が取れる人材を育てるという方向が強かったと思うんですが、それでは社会の中で長続きしない。

佐々木 世の中を動かす原動力にもなりにくい。

伊沢 はい。時代的にもそうした人材が求められなくなってきている中で、むしろ社会とつながる人材というのは、自分なりの「とんがり」や、自分のモチベーションをしっかり持っている人だと思うんです。だから僕は「やりたい」にフォーカスしていますし、その「やりたい」を世の中とつなげるのは教育機関や行政の役割だと考えています。

今日一日見せていただいた中で、宮城大学にはモチベーションが世の中とつながる仕組みがあると感じました。「やりたい」と思った時に、すぐに駆け込める場所がある。僕が大学にいた時は、それを見つけるのが難しかった 。何かやりたいという思いがあっても形にする場所がなく、手段も知らなかった。それを助けてくれる人や頼れる仕組みが大学の中にあるというのは、非常に価値があると感じます。

佐々木 ありがとうございます。私自身がどこまでそれに貢献できているかは分かりませんが、宮城大学は創立以来、実践知を重視して教育を行ってきたという背景があります。それが先生たちにも伝わっていて、学生と先生の垣根が低いんですよね。

伊沢 それは感じました。学生の皆さんが学長に話しかけているのを見て、距離がすごく近いなと。

佐々木 どの先生に対してもそうなんですよ。そのおかげで、学生が「やりたい」と思っていることを阻害はしていないと思うんです。その傍らでは、もちろん専門の勉強もする。それを社会とつながらないところでやっていても、どう使ったらいいか分からない。今までの一般的な大学を出た学生はそうなりがちですが、そこは変えられているのかなと。

佐々木 啓一

「やりたい」の着地点を見つける力


伊沢 小中高大の教育は、必ずしもつながっているわけではないですよね。近年は探究学習なども進化していますけど、それでも高校と大学の学問に断絶を感じる部分は少なくない 。さらに、大学で新しいことをやったとしても、それが社会人になった自分とどう関わってくるのか見えづらい 。一方で、求められることだけに応えていると、長くは続かない。だからこそ、自分の「やりたい」が社会の中でどういう着地点を持つのか、いざ「やりたい」が芽生えたときにそこまでを把握できる視座が必要になります 。その部分まで含めて指導できる体制が宮城大学にあると感じました。

佐々木 今おっしゃったことはすごく大切なところで、学生たちは今、自分のやりたいことと、それを実現する力を身に付けている段階にあると思うんですが、それが実際に社会で活かせる場所がどのくらいあるのかという点については、少し心配な部分があります。ただ、世の中も変わってきていますし、受け入れる場も増えてきているし、自分でやっていくことも可能になってきている。過渡期ではありますが、ここが頑張りどころだと感じています。

伊沢 僕も、クイズと教育を繋げるという現在の仕事は 、YouTubeというフォーマットがあって、通信環境が整っていて、誰もが動画を見られる環境があるからこそできることなんですよね。もし自分が5年早く生まれていたら、やっていなかったと思います。世の中がつながり始めたことで、皆さんの「やりたい」が社会の中に居場所をつくれる可能性は明らかに広がってきていると感じています。

一方で、僕たちはモチベーションをつくることはできても、それを具体的に社会とどうつなげるかまではできていないとも感じています。飛び道具的なコンテンツにはやはり限界があって、だからこそ、 普段いる場所としての大学の意味がある。長い時間をかけて学べるし、知識のある先生がいて、たくさんの資料があり、産業とのつながりもある。そういったことができるのは、大学という重厚な組織ならではだと思いますね。

佐々木 伊沢さんは、いわゆるエリートと呼ばれるグループにいる方だと思いますが、その中にいながら、ある意味ではそこからはみ出して、別の道を選んで今に至っている。そのあたりはどういうモチベーションだったんですか。

伊沢 僕自身は、最初はプレーヤーでありたかったんです。学術研究のプレーヤーでありたくて大学院に進学しましたが、実際に行ってみて、これはちょっとかなわないなと。周りのレベルが高すぎるなと感じてしまった。努力の量も足りていなかったと思いますし、大学院1年生の時点でモラトリアムを迎えてしまったんですよね。

その時、QuizKnockをすでに始めてはいたんですけど、人気もなかったですし、正直遊び感覚で、仕事にしようなんて全く思っていませんでした。周りも誰も仕事だとは認識していなかったと思います。でも、ある時「学術のプレーヤーではなく、彼らの応援者であることもまた社会に必要な仕事だ」と思い、仕事としての意識が芽生えました 。それに気付いたのは、動画のコメント欄だったんです。

「この動画をきっかけに、大学進学を決意しました 」とか、学びへのポジティブな意識が生まれたというコメントが多くて 、自分たちが想定していなかった形で、誰かのモチベーションになっている。これこそが 、自分の「やりたい」が社会の中に居場所を見つけた瞬間だったんです。

今日は学生の皆さんに活動内容をプレゼンしていただきましたが、その中にミッション・ビジョン・バリューが入っていました。あれは、自分たちが社会の中でどう存在するかという宣言だと思っています。僕の場合は、最初からそれを明確に持っていたわけではなくて、視聴者の方々に教えてもらって、「あ、自分たちはこういう存在なんだ」と分かっていった。学生の皆さんも、他の人の力も頼りながら、自分の「やりたい」と社会との接点を見つけていくといいのかなと思います。

佐々木 「自分のため」と「人のため」が一緒になるというのが、生きていく上では重要ですね。

伊沢 そうですね。「人のため」だけではなかなか難しいと思います。大学においても、自分のための「やりたい」と、人のためとなる社会の接点を見つけていくプロセスを4年間しっかり使って経験することが重要です。その結果として、いわゆる就活テクニックに頼らなくても自分の行き先を見つけられるようになるのが理想的ですね。

学びは「必要」から始まってもいい


佐々木 客観的に学生たちを見ていると、リベラルアーツの部分も、必要になる中で自然に学んでいるような印象を受けます。ミッション・ビジョン・バリューという考え方も授業の中でやっていることですし、この大学の特徴として、学生がやりたいことと授業の中身が結び付いているのかもしれません。

伊沢 僕の周りでも、音楽をやりたくて海外のソフトを使う必要があって、英語を学んだという人がいます。やっぱり「やりたい」が先にあると、それに必要なツールとして勉強するようになるんです。リベラルアーツは専門教育に先立つという考え方もありますけど、後から必要に応じて学ぶ形でもいいんじゃないかなと思っています。

佐々木 私もそう思いますね。決まったステップで進まなくてもいいというか、型にはまった教育の在り方ではなく、長いスパンの中でいろいろな学び方があっていい。4年間でそれが完成するわけではないですけど、成長していければいい。

伊沢 かつてリベラルアーツは「自由七科」と呼ばれていて、全ての人が身に付けるべき基礎とされていましたけど、今は全員が同じように修める時代ではないと思っていますし、その7科目は数値化して測れるものでもない。だからこそ、自分の「やりたい」というモチベーションを起点にして、必要な学びを後から深めていくような形が理想的な教育であり、偏差値教育的なものから脱する学び方になるのかなと思います。もちろん、あとからリベラルアーツの重要性にも気づけますしね。

佐々木 QuizKnockがやっていることの価値観と宮城大学が持っている価値観は似ていると思っています。大学が、生涯を通しての学びの場になれればいい。それこそが本来の姿で、昔のヨーロッパの大学などはそうだったと思うんです。

伊沢 学寮的 だったんでしょうね。地元の王侯貴族からの支援などもあって、もちろん自由七科を学んだんでしょうけど、それとは別に地元とのつながりとか、地元のためにみたいな気持ちがないわけでもないかもしれない 。

佐々木 宮城大学の学生が一番たたき込まれているのは、社会の課題を見つけること。課題を見つけたら、それに対してどうやって挑戦していくか。その時にどうやって自分の学問を使うか。それが学びの正しい姿ではないかなと思います。

実用から実学、実のある学びに


伊沢 まさしくQuizKnockは「楽しいから始まる学び」をコンセプトにしていて、まずはモチベーションなんですよね。たくさん楽しい動画を見てもらっていろいろな知識に触れてもらい、そのうちの一つでも「面白いな」と思うものがあれば、そこから検索すると学びの入り口が開きます。

0から1の入り口をたくさん用意しているというイメージですね。その中の一つが刺さって、1が2、2が3と広がっていく体験をしてもらうことで、「自ら学びに踏み出すのって意外と楽しいんだな」と多くの方に思ってもらえるといいなと考えながら、動画を作っています。

佐々木 みんなそれにうまく乗せられているんですね(笑)。

伊沢 そうなんです。われわれは巧妙に皆さんをだましているんです(笑)。実は動画の半分ぐらいは、学びを得るという視点のみから見れば無駄でもある 。正解してガッツポーズ、負けたら悔しがる、最終問題の点数を100万点にしてくれと言う。でも、その無駄がすごく大事で、楽しい時間じゃないと出合えないことがいっぱいある。何を楽しいと感じるかは人それぞれなので、たくさん触れる中でランダムの出合いを大事にしています。

勉強って、音楽みたいにすぐ楽しいと感じられるものではなくて、少し続けてみないと面白さが分からないことも多いですよね。誰かに付き合わされて始める形でもいいし、たまたま触れる形でもいいし、きっかけが必要だと思っています。そういう意味では、カリキュラムという形で、 やらざるを得ない状況をつくってくれる教育機関、特に大学は、学びのきっかけを与える装置として意味があると思います。

QuizKnockはあくまできっかけまでしか与えられないので、その先を用意できる大学や教育機関はうらやましい存在です。こうして宮城大学に来て皆さんとお話しさせてもらうのも、僕たちにないものを実際にやられていて、でも思想的にはつながっていることがあるので、僕自身が学びに来たという側面もあります。

宮城大学が実践の場になっているのは今日見せていただきましたので、あとは実学という言葉が、誰かが求めているからやるとか、ニーズ=用があるからやるという「実用」ではなくて、「実質」や本質につながる「実」であったらうれしいなと思います。そして、学生の皆さんにとって「実のある」という意味の「実」になってほしいなと思います。

佐々木 そうすると、QuizKnockが考えている教育の理念と、宮城大学の教育の理念というのは一致するんですね、という締めでよろしいでしょうか(笑)。

伊沢 はい、間違いないです。


プロフィール

伊沢拓司

QuizKnock 伊沢拓司

1994年生まれ。東京大学経済学部卒業。『高校生クイズ』で史上初の個人2連覇を達成。2016年に知的エンタメ集団・QuizKnockを立ち上げ、現在YouTubeチャンネルは登録者数250万人を突破。2019年に株式会社QuizKnockを設立し、CEOに就任。これまで『東大王』『冒険少年』など多くのテレビ番組に出演してきたほか、全国の学校を無償で訪問するプロジェクト「QK GO」は47都道府県訪問を達成するなど、幅広く活動中。

宮城大学 学長 佐々木 啓一

昭和60年3月 東北大学大学院歯学研究科歯科学専攻修了 博士(歯学)取得
平成12年2月 東北大学教授(歯学部)
平成12年4月 東北大学大学院教授(歯学研究科)
平成22年4月 東北大学大学院歯学研究科長・歯学部長
令和02年4月 国立大学法人東北大学副理事(事業創造担当)、東北大学共創戦略センター長
令和02年9月 東北大学副学長(共創戦略担当)
令和03年4月 国立大学法人東北大学理事・東北大学副学長(共創戦略・復興新生担当)グリーン未来創造機構長
令和05年4月 宮城大学学長、公立大学法人宮城大学副理事長 東北大学 参与・名誉教授

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