宮城大学 事業構想学部 徳永研究室 研究紹介


交通と土地利用の長期的変化

 地下鉄など交通施設整備は採算性だけで議論してよいのでしょうか.交通施設の整備は,単に手段や経路の選択といった交通の面だけでなく,住宅立地や商業立地など土地利用にも大きな影響を与えます.その結果として人々の交通の使い方も変わってきます.10年ごとに行われるパーソントリップ調査データ等の分析を通して,交通と土地利用の関係を長期的な視点で捉えて行きます.

住民タイプ別地下鉄利用者数の変化  右図は,地下鉄利用者数の長期的な変化を表したものです.従来のモデルでは,開業後の需要増加は沿線人口の伸びでしか説明されませんでした.しかし,開業前からの居住者は車に依存した生活を送っており,地下鉄への転換がほとんど見られなかったのに対し,開業後に新たに通勤を始めるようになった若い人や開業後に転居してきた人は地下鉄をよく利用しています.これらの傾向は地下鉄からの距離や団地の開発時期によって異なることも明らかになっています.

都市部における交通環境改善

 「朝夕の交通混雑や地下鉄やバスの使いにくさをどうにかして欲しい」と思っている人も多いはず.それには,利用者の視点に立った利用しやすい交通システムの計画が必要です.もちろん採算性も考慮しなくてはなりません.このような視点から,交通特性の詳細な分析を通してよりよい交通システムの提案を行います.

バスレーン導入による所要時間変化  右図は,バスレーン導入による所要時間の変化の分布を計算したものです.バスレーンの長さが十分にないとバスもバスレーン手前で渋滞に巻き込まれ,かえって悪化してしまいます.十分な長さをとれば所要時間が短縮される範囲が広がりますが,地区によっては悪化しています.このような状況でどのように合意形成を図っていくのかということも今後の研究課題です.

地方部におけるモビリティ確保

 地方部においては,モータリゼーションの進展とともにバスサービスは低下の一途を辿り,2002年のバス事業に関する規制緩和もあって,民間バス事業者の撤退や補助金の投入など,自治体が関与する部分が大きくなっています.しかし,近年の財政難もあり,全ての地区に高いサービスレベルを提供することは困難であり,効率的な運行形態を考えるとともに,どの程度のサービスを提供すればよいのかという判断基準が求められています.

格差の捉え方  右図は,車を自由に使える人とそうでない人の格差の捉え方を表したものです.従来は,生活ニーズや移動ニーズには違いがないものとして,行動格差あるいは顕在需要格差で捉えていました.しかしこのような捉え方では,顕在需要には大きな格差がみられず,少ない移動で満足しているという結果しか得られませんでした.これに対して,そもそも移動ニーズに大きな格差があることを問題視し,この潜在需要格差を計測することを試みます.