2017年度(平成29年度)入学式式辞

北上する桜前線の便りに接する中、平成29年のこの良き日を無事に迎えることができました。ただいま紹介された学群の新入学生、学部への編入学生ならびに大学院への進学学生の皆さん、おめでとうございます。

今年は、米国でトランプ大統領が誕生し、これまでグローバル化によって発展してきた世界が、「一国主義」の嵐に席巻されてしまうのではないかという懸念を抱くときを迎えています。わずか一年あまり前、気候変動を抑制することを目的として、二大二酸化炭素排出国である中国と米国が参加して歴史的合意となった「パリ条約」が作られたばかりですが、トランプ政権は、すでに人為的な温暖化に懐疑的な態度を現しつつあります。桜が咲くこの季節は、気候変動問題に敏感になる時期です。今年の開花は去年より早いのか、平年より何日早いのか、ということに想いを巡らすとき、春の訪れの喜びを感じるだけではなく、気候変動に関わる世界情勢を考察し、自らの生活態度を振り返る機会としていかなければなりません。

さて、東日本大震災から6年が過ぎたわけですが、岩手・宮城・福島の沿岸部の復興は、なお道半ばです。また、福島の原子力発電所事故は、国難として立ちはだかり、いまだ廃炉への道筋が見えていません。このような状況の下で受験に臨み、合格された皆さんの努力に、深く敬意を表します。また、今日お集まりのご家族の皆さまのお慶びもいかばかりかと拝察し、お祝いを申し上げる次第です。

今日は新年度の仕事始めを明日に控えた日曜日、ご来賓の皆さま方には無理をお願いしてご臨席を賜りました。宮城大学の設置者として、常日頃から本学の教育環境の維持向上に多大な心遣いをいただいております、村井嘉浩宮城県知事ならびに中島源陽県議会議長。宮城大学は県内11の市や町と地域連携協定を結んでおりますが、これら自治体の長の皆さま。同じく本学と事業連携、協働研究などの協定を結んでいただいております企業や団体の皆さま、連携協定校のアメリカ合衆国ペンシルベニア州立テンプル大学ジャパンキャンパス学長、ブルース・ストロナク先生。ご出席いただきました全てのご来賓の皆さまに、心から御礼を申し上げます。

宮城大学は、平成9年にこの地で開学しました。したがって、今、満20年を迎えたことになります。開学以来、すでに6千人を超える先輩方が大学から巣立ち、社会で活躍をしています。このように20年間、公立大学として着実に実績を築いてきた宮城大学でありますが、過去3年間をかけて、西垣前学長のリーダーシップのもとで開学以来最大の改革の準備を進めてまいりました。そして、20周年を迎える本年度から、いよいよ、実行に移してまいります。その第一が学群、学類制の導入になります。今日、第1学年に入学された皆さんはこれまでの学部・学科ではなく、はじめて学群に入学をされました。すなわち、皆さんは新たな宮城大学の第1期生、開拓者となるわけです。

そして、これからの宮城大学での学びは、フレッシュマンコアと呼ぶ基盤教育から始まります。この一年を振り返ると、急激に人工知能やロボットが社会の様々な局面に入ってくるという予想が示されるようになってきました。これに伴い、これからの職業の在り方が大きく変化すると語られるようになってきています。フレッシュマンコアは、これからの大きな社会の変化に柔軟に対応できる人材を育成しようとするものです。高校までの教育は、学習指導要領に決められた知識を学ぶものでした。これからは、学ぶことを自ら発見していくというものです。あのアルバート・アインシュタインは、「学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる。」と言いました。フレッシュマンコアは、生涯学び続けることのできる基本中の基本とその心構えを、1年間で身につけるためのカリキュラムです。 フレッシュマンコアは、学びの面で高校と大学をつなぐ大事な役割も果たします。

4月からの前期では、スタートアップ・セミナーや地域フィールドワーク、夏休みをはさんで後期には、アカデミック・セミナーなどの科目が配置され、通常の講義に加えて、グループ演習やプレゼンテーションなど「アクティブラーニング」の取り組みも多く設定されています。また、スタートアップ・セミナーやアカデミック・セミナーには、クラス担任が配置され、皆さんがゼミや研究室に入るまでの最初の2年間を受け持ちます。

宮城大学の就職率の実績が高いこと、これを志望動機の一つにしてこられた方もいるかもしれません。高い就職率は結果であって、目標ではありません。宮城大学は、学生一人ひとりに向き合い、しっかりと大学での生活ができるようにし、さらに、これを充実させていくことによって、社会から求められる人材を育てていきたいと考えています。 その一環として、学類選択をはじめ、大学生活での様々な悩みについて、クラス担任はもちろん、スチューデントサービスセンターと健康支援センターが、サポートをしていきます。また、授業を担当する先生に相談しにくいことは、スチューデントサービスセンターの窓口、健康支援センターの窓口に相談することができます。
 悩み、そしてそれを克服する経験は人間を大いに成長させます。大学は、皆さん方が悩みを克服する手伝いに力を入れていきます。人は悩むと、くよくよと負のスパイラルに入ってしまうことがあります。そういったときのわずかなアドバイスが、負のスパイラルから抜け出す力となります。とことん行き詰まったときばかりではなく、気軽にアドバイスを求めに来てください。また、大学の外で起こったことも遠慮せずに相談していいのです。

昨年の参議院議員選挙から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられました。これにより、今日、入学式に参加している学生さんは皆、選挙権を持つ年齢になっているということになったわけです。ところが、昨年の参議院議員選挙を振り返ってみると、新たに選挙権をもった18、19歳の投票率は、平均よりも低いという結果に終わりました。宮城大学も例外ではなかったと聞いています。なぜ選挙に行かないのかを聞くと、「誰に投票していいか分からないから。」という答えが多かったということです。政治に関心をもたず、「分からないから」、「自分ひとりが投票してもどうせ変わらないから」、という理由で選挙に行かない若者が多ければ、結果として投票率の高い高年齢層の意見が政策に多く反映されるようになっていきます。英国では去年の国民投票の結果EUから離脱することが決まりましたが、賛否には世代間格差があり、未来を奪われたと感じた若者が多かったと報じられています。あなた任せの態度は取り返しのつかない事態を招きます。また、米国の大統領選挙では、インターネット上の虚偽情報が選挙結果を左右したとも言われています。インターネット時代は、一人ひとりが、容赦なく、真実と虚偽を見分けなければならない立場に置かれることになります。疑うべきことを疑わない、信じるべき理由のないことを軽々しく信じたことはありませんか。人に言われるままに、物事を決めていませんか。自ら考え、真実を見抜いていく力を是非つけるようにしてください。

さて、我が国は、少子高齢化をはじめとして大きな社会変化の入り口にいます。今後このような変化に対応していくには、社会の制度や仕組みにおいて、障がいの有無や、年齢などにかかわりなく、国民一人ひとりがそれぞれ対等な社会の構成員として、自立し相互にその人格を尊重しつつ支え合うことのできる「ユニバーサル社会」の形成を目指していかなければなりません。 宮城大学は、ユニバーサル社会に対応できるよう、施設・設備面でバリアフリー化を進めていきます。しかし、真のバリアフリー化を実現するためには、宮城大学に関わる全ての教職員や学生の皆さんの「心のバリアフリー化」がどんな設備改善よりも大切なのです。皆さんは小さな支援でよいのです、困った人を見たら、さりげなくこれができる人になってほしいと思います。

私は、つい数十分前に村井知事から宮城大学理事長兼学長の辞令をいただきました。皆さんと同じ一年生です。私は、大学院を修了した後、36年間に亘って国家公務員として、そのほとんどの期間をいわゆる霞が関で働いてきました。その間、大学を外から見てきましたが、大学の経営者がその大学の教員から選ばれているケースが圧倒的に多く、そのために大局に立った公平な経営や迅速な改革に取り組めていないというケースを頻繁に目にし、大学の経営には、外部からもっと多様な人材の参加が必要であるという感想を持っていました。そのような中で、宮城大学経営審議会からの要請を受け、学長選考会議で選任され、学長をお引き受けすることになりました。まず、今年から実行に移された改革をしっかりと作り上げるとともに、時代の要請に基づき、宮城大学が、宮城県のため、そして東北のために果たさなければならない役割をしっかりと担うことのできるよう、さらなる変革を先導していく所存です。「宮城大学は震災を忘れない」という大きな柱のもとに、今まで被災地の復興支援を行ってまいりましたが、もちろん、引き続き地域フィールドワークをはじめ、様々な場面でその取組を行ってまいります。

ここに参列している学生の皆さんにとって、これからの宮城大学での1日1日が、実り多い人生のひとコマとなり、ここで得たものが皆さんの人生をより豊かなものにするものとなることを祈りつつ、入学式の式辞とさせていただきます。

平成29年4月2日
宮城大学学長
川上 伸昭

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