2017年度(平成29年度)3月
宮城大学卒業証書・学位記授与式式辞

今年の例年にない寒い冬もようやく緩み、暖かな日差しがうれしい春の気配が感じられるようになってきました。
まず、本日、卒業証書を受ける422名及び学位記を受ける30名の学生の皆さんのこれまでの学生生活における努力に敬意を表し、列席している副理事長、理事、副学長等をはじめとした本学の教職員を代表して卒業および修了を祝福いたします。

また、本日、年度末のあわただしい時期にもかかわらずご臨席をいただいている河端章好宮城県副知事、中島源陽宮城県議会議長、浅野元大和町長をはじめとした皆様方に御礼を申し上げるものです。あわせて、これまで学生を育て、学生生活を支援していただいてきたご家族、関係者の皆様に御礼を申し上げるとともに、お祝いを申し上げます

さて、今日ここに列席している学生の皆さんの多くは、阪神淡路大震災のすぐ後に生まれ、東日本大震災時に中学を卒業し高校に進学した、災害が人生の節目に重なるという経験をしてきた世代になります。尤も、世代を問わず、人類は、太古から幾多の自然災害に遭い、それを克服して発展してきたという歴史を刻んできました。私たち東北に住まう人々にとっては、東日本大震災が直近の最大規模の自然災害であったのですが、それから今月で丸7年が経過しました。震災時および今にまで続く被災者の方々の悲しみやご労苦にお見舞いを申し上げるものであります。他方、7年を経て、地域ごとに速度の違いはあるとはいえ、一歩一歩着実に復興は進んできています。村井嘉浩宮城県知事は、4期目の任にあたり、「復興の総仕上げ」を掲げて県政の運営にあたっておられ、これから社会で活躍する皆さん方は、ポスト復興期に、宮城県、東北、日本、そして世界で活躍する有為な人材と期待されているわけです。未来に目を向けて、それぞれの場所で大いに活躍されんことに期待をしています。

宮城大学は、本年度、開学から20年を迎えました。こういう時は過去を振り返る好機であります。20年前、本学の初代学長であった野田一夫学長は、栄えある宮城大学第一期生を迎えた入学式の式辞において、「学識だけでなく見識や倫理も身に付け、自分の力で素晴らしい人生を切り開」くこと、すなわち、「自立の精神」を求めました。加えて、「君たちがもし途中で大学を辞めたくなったら、いつ辞めてもかまいません」と述べ、このことが県内において「退学の勧め」と捉えられて物議をかもしたという記録があります。ここに列席している学生の皆さんは、もちろん途中で辞めることなく、宮城大学の課程をしっかりと納め、この場に到達されたわけです。おめでとうございます。

退学の勧めと捉えられてしまった野田学長の発言は、学業の不振や大学への不適合に基づいた退学を勧めるものでは更々なく、自立の精神を求める発言と相通じたものであると私は理解するものです。周囲に流されるまま目的も持たずに学生生活を送るのではなく、自立して自分の人生を開拓しなさい、そして、大学にいるよりも価値のあることを見つけたのならいつまでも大学にいることはない、飛び出しなさい、と言っているのだと、私は解釈しています。皆さんは、大学を飛び出すには至らなかったけれども、大学生活を通じて自立の精神を培い、この場に至ったものであると信じています。

ところで、本学が開学した20年前に比較して、日本は大きく変化してきました。たとえば、かつて”Japan as Number One”を担い、隆盛を誇っていた総合電機メーカーの中には、この20年の間にその価値が大きく毀損され、その間に多くの社員が会社を去ることになった企業もあります。かつて日本社会における雇用慣行を特徴付けていた終身雇用制はいまや死語になりつつあります。さらに、昨今は、新聞を開くと、ほとんど各紙面に「AI」、すなわち「人工知能」という言葉を見るというほどこの技術が注目を集めています。そして、AIや知能を備えたロボットが、これから次々に社会の中に取り入れられ、これから30年ほどの間にはおおよそ50%の仕事を代替していくという予測さえも語られるようになっています。また、昨年は、三大メガバンクがそろって、長期的な見通しの中で、情報化の進展に伴う数千人を超える大幅な合理化予測を打ち出しました。このように、これからの数十年の間に、皆さん方が働く職場は相当大きな変化にあうことが予想されます。それによって、皆さんが就職に向かう今、まさに思い描いている社会人生活が異なった方向に行ってしまうということも考えられるわけです。では、AI時代に人間はどう働いたらよいのか。AIに仕事をとられるなどと嘆いてもしかたはありません。AIは、基本的に過去の事例を情報として取り込み、数理的・統計的な解析を加えて答えを出していきます。このため、定型的な業務、類似の事例が過去に蓄積されている業務、大量のデジタル化された情報を分析する業務などが得意であると言われる一方、人間との接点が大きい仕事、不定形な仕事、創造的な仕事は不得手というようなことも言われているわけです。AIは人間の敵というものではなく、人間を補い、人間の生活を支援し、豊かにするものです。これから、AIを操る仕事、AIの助けを得た人間しかできない仕事、AIが不得意とする仕事など、新しい働き場所は生まれてくるものと考えます。ただし、今とは異なった新しい仕事に就くには新たな知識や訓練が必要とされます。皆さんは、大学を出て、もう勉強はお終いだとは考えていないと信じています。大学は、生涯続く学びの入り口であり、これからの社会における学びに向かう力を蓄える場です。生涯を通じた学びの心が人生を豊かにするものです。

本年の学部卒業生の約半数は、宮城県外に就職し、宮城県を去ることになると思います。私は、昨年4月に42年ぶりに宮城に戻ってきました。それまでの多くの時間を東京圏に住まい、東京で職を得ていたのですが、再び仙台での生活に戻り、居心地の良さを味わい楽しい生活を送ることができています。仙台、宮城、そして東北地方は、人々の心の温かみを感じる場所であり、豊かな自然に囲まれ、発展への潜在力を有する地域です。

これから宮城県外に出る卒業生の皆さん、再び、宮城県に戻り、就職をしよう、起業をしようという時に、宮城大学は皆さんを歓迎し、いつでも力になるつもりでいます。

最後になりますが、宮城大学における学生生活を満喫し、その課程を無事修了し、これから社会に向かう全ての大学卒業生、ないし大学院修了生の皆様、宮城大学とのつながりはこれで切れるものではありません。宮城大学は、常に皆さんに寄り添い、必要な時にできる支援をしていきたいと思います。

本日の善き日に当たり、改めてお祝いを申し上げ、式辞といたします。

平成30年3月19日
宮城大学学長
川上 伸昭

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