2018年度(平成30年度)宮城大学入学式式辞

今年の、例年にない厳しい冬も終わりを告げ、暖かい日差しが心地よい季節になってきました。ただ今紹介のあった平成30年度、430名の学群新入学生、6名の学部への編入学生並びに29名の大学院新入学生のみなさん、おめでとうございます。宮城大学は、皆さんを歓迎し、これから皆さんとともに歩んでいく道筋に期待をしています。

東日本大震災から7年の歳月が流れました。この苦しい7年間を含めて、ご子弟を育み、導いてこられたご家族の皆さんのお喜びも大きいものと思います。ご家族の皆さんにもお祝いを申し上げるものです。そして、年度はじめの慌ただしい時期にもかかわらず、ご列席いただきました村井嘉浩宮城県知事、中島源陽宮城県議会議長、浅野元大和町長をはじめとした来賓の皆さんに御礼を申し上げます。

東日本大震災とそこからの復興の記憶は、新入学生一人ひとりの成長の軌跡の中に刻み込まれているものと思います。そして、これからは、時間差はあるとしても、それぞれの地域において、復興からさらなる持続的な発展の段階へと次々に転換していくものと考えます。新入学生の皆さんは、宮城県、東北、日本、そして世界において、未来へ向けた発展をもたらす有為な人材となるべく、これから本学において研鑽を積まれるよう求め、教職員一同は皆さん方にしっかりと寄り添っていきたいと考えるものです。

さて、東に目を向けてみましょう。昨年初頭に、米国でトランプ大統領が誕生しました。それからの一年間、世界は、トランプ政権が繰り出す政策を理解し、それに対処していこうと、大変な努力を強いられることになっています。トランプ政権の一年を振り返ると、この政権は、これまで私たちが米国型民主主義と理解していたものとは異なり、引き続き国内の分断を招き、米国一国主義を主張して、国際的な対立をもあおる形で政権運営をしていくという姿勢が著しく現れ続けています。

他方、西に目を転じてみると、現代では稀な世襲国家ともいえる北朝鮮において、国際社会に背を向けてきた金正恩朝鮮労働党委員長が率いる政権による、核およびミサイルの開発が進展し、我が国に対する脅威が日に日に増すという事態が起こり、また、我が国とは政治体制を異にする大国である中国による世界進出が、これまでの秩序とは考えを異にしたものとして拡大しているように見えるものであります。

このように、現在の世界情勢は、東西冷戦終結後に優勢であった、開かれ、自由な市民が主役である資本主義に基づく世界秩序がほころびを見せ、異なった秩序の構築への挑戦がなされているように見えるわけです。このような世界の荒波の中で日本はどのような針路をとるべきか、これは政治家ではなく、官僚でもなく、国民一人一人が自らのこととして考えなければならないことです。

公職選挙法の改正により選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから、2年前の参議院議員通常選挙、昨年の衆議院議員総選挙と2回の国政選挙が行われました。これら2回の選挙において、18、19歳の投票率は、全国においても、宮城県においても、全体の投票率を下回り、差が拡大する方向に、また、20歳代の投票率はともに2回の選挙において全体より20ポイントも下回り、投票率が最低の年齢層という結果になってしまっています。社会の針路の転換には長い時間が必要となります。したがってひとたび針路を誤り、異なった方向に社会が向いてしまった時には、それを正しい方向に戻すには多くの時間が必要になります。その間、長く、そして大きくなった食い違いにさらされるのは、これからの社会に長く生きることになる皆さん方若者です。投票は、国民に等しく開かれた社会の針路を選択する機会です。次回の選挙においては、これを真剣に考えて、必ず投票をすることを求めたいと思います。

今年、宮城大学は創立から21年を迎えました。そして昨年度から実行に移した大学改革も2年目に入りました。今年第1学年として学群に入学した皆さんは、改革第2期生ということになるわけです。昨年度、初めて実施したカリキュラムは、それぞれ振り返り、よりよいものへと改善をしてきています。たとえば、1学年の前期に、3学群で必修とされている「地域フィールドワーク」は、探究するフィールドを4市町から6市町に拡大するとともに、地域の協力がさらに得られるように改善をし、充実を図っています。

そして、今年度からは、すべての学生に対して、講義や演習、実習といった正課の学修だけではなく、自ら生涯にわたって学び続けることのできる基礎の形成に役立つようにと考え、個人で、またはグループで自主的に、さらに多様な形で学習ができ、それを学生の間で可視化するという、各種の目的をもった「コモンズ」の構築を開始しました。最近、多くの大学で、たとえば図書館の改築に併せるような形で、図書館機能を拡張して「ラーニング・コモンズ」を設けることがされてきていますが、宮城大学のコモンズは、学生の日常空間に近接し、多様性を備えたものとして設け、学生とともに運営し、発展させていこうというユニークなタイプのものになります。

多様性を持たせた各種コモンズの詳細については、それぞれの構想の準備ができた段階で明らかにしていきたいと思いますが、手始めとして、この4月、大和キャンパス4階の北側に「スチューデント・コモンズ」を、南側に「グローバル・コモンズ」を設けました。今は、テーブルや椅子があるだけの殺風景な空間に見えるかもしれません。皆さんがさまざまな形でこの空間の活用を実践していくことで、コモンズは発展し、空間の価値は高まっていきます。一緒に取り組んでいきましょう。

昨年度の大学卒業生の就職活動では、順調な経済情勢と若年層の減少を反映した売り手市場となり、人手不足が話題になりました。宮城大学は、かねてより高い就職率を達成していましたが、昨年度も概ね100%の就職率となりました。大学の一つの使命は、有為な人材をしっかりと社会に送り出すことにあります。高い就職率はその使命を果たしている一つの表れであると考えます。しかし、これからの社会は、グローバルな競争の下、急速に変化していくことが予想され、これに伴い、社会人に求められる能力はこれまで以上の速度で変化していくものと予想されます。その変化を乗り越えることのできる人材を育てること、これが、今回の改革の眼目の一つである基盤教育の充実であるわけです。新入学生の皆さんは、今学んでいることについて、その知識が生み出された過去、そしてその知識を学ぶ現在、さらに、それを時代の変化に合せてさらに開発していく未来、という3つの時間軸を意識して蓄えていってもらいたいと思います。

昨年4月、私は、宮城大学の学長に就任いたしました。その時、まず、前任の西垣学長がリーダーシップをとって起草した大学改革を実行に移し、完成に導くことを、最初の課題として掲げました。一年がたち、教職員とともに一歩一歩着実に歩を進めて来ており、これからも、学内外に働きかけをしながら、しっかりと取り組んでいきます。

最後になりますが、ここに列席している新入学生の皆さんに改めてお祝いを申し上げるとともに、学生さん一人ひとりにとって、宮城大学におけるこれからの日々が充実したものとなることを祈念して、私の式辞といたします。

平成30年4月3日
宮城大学学長
川上 伸昭

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