2019年度(平成31年度)宮城大学入学式式辞

入学式

春の温かい日差しが心地よい季節になりました。ただいま紹介のあったとおり、平成31年度450名の学群新入学生および28名の大学院新入学生の皆さん、入学おめでとうございます。宮城大学は、皆さんを歓迎し、皆さんとともに歩んでいくこれからに期待を膨らませています。

東日本大震災から8年の歳月が刻まれたことになります。この大災害からの復興の時間とともにご子弟を育み、導いてこられたご家族の皆様のお喜びは大きいものと思います。ご家族の皆様にもお祝いを申し上げます。そして、年度はじめの慌ただしい時期にもかかわらずご列席をいただきました、村井嘉浩宮城県知事、佐藤光樹宮城県議会議長、浅野元大和町長をはじめとした来賓の皆様に御礼を申し上げるものです。

4月1日に新しい元号となる「令和」が発表されました。来月からはこの新しい元号の下、新しい時代が始まると考えるだけで新たな取り組みへの意欲がわいてきます。

さて、改元を前に、平成という時代を振り返る企画を見る機会があります。一言で平成を語ることはできないとしても、高齢化の進展や、経済面における我が国の国際的地位の低下に悩まされた時代であったということは明らかです。経済については、まず、1980年代、世界で大きな地位を占めていた日本の電気通信産業の衰退の記憶が鮮明にあります。なかでも移動通信の発展期にあって、日本は技術力では勝っていたのにデザイン力で負けたという総括が印象に残っています。これを一例とするまでもなく、最近は「デザイン」に注目が集まるようになってきています。

ただし、「デザイン」というカタカナ語は、年代や個々人によって受け取り方が異なる言葉でもあります。商品デザインのように単体のモノが顧客に好まれ、喜びを与えるようにするのがデザインであるという理解から、システムデザインのように組み合わせによってサービスを生み出し、顧客の満足を得るもの、そして最近は、ソーシャルデザインのように社会が抱える問題を解決する道筋を描くことも「デザイン」と呼ばれるようになってきています。このように、デザインという言葉はとらえどころがないもののように見えますが、これらのいずれもが、ヒトが中心にいる、ヒトに向かった活動であるという共通点があります。グッドデザイン賞を運営する日本デザイン振興会は『「常にヒトを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する。」この一連のプロセスがデザインである』と定義をしています。

宮城大学は、22年前の開学時から「ホスピタリティ精神とアメニティ感覚にあふれる社会の形成」を目指すこと、すなわち人間を中心とした温かい社会をデザインすることを追求してきました。今、社会が、直面する複雑な課題に対する解決の道筋を求める時代となり、本学は、看護、事業構想、食産業全体において改めてデザイン重視の姿勢を顕わしていきます。

皆さんはこれからの学生生活で学修の進展とともに、現実の課題を目前に、その解決策をデザインするという実践的な教育を受けることになります。社会で起こっていることは多様であり、教科書には解答が書かれていません。自分で考え解答を作ることが求められます。このため、宮城大学では学群教育4年間の最初に、基盤教育となる「フレッシュマンコア」プログラムが3学群共通で用意されています。ここでは、「主体的に考える力」を身につけることが目的とされます。

また、学修環境の充実のため、昨年度から施設の整備を強力に進めてきています。まず、大和キャンパスにおいて、学生が自発的かつ主体的に学修し、これを可視化することをねらいとした4種類のラーニングコモンズの整備をし、活動を開始しました。これは、今後、太白キャンパスにも拡げ、拡大していくことにしています。さらに、本年度は、デザインに関わる教育研究環境の充実を主眼として、22年前の開学以来、大和キャンパスでは初めてとなる建物の建設をします。建物建設によるキャンパスの床面積の拡大は、ことデザインに留まらず、本学全体の教育研究環境の充実につながるものです。

本建設にあたっては、本日、ご臨席の村井宮城県知事のご理解を賜り、力強くご支援いただくこととなり、県費によってご助成をいただくことができました。この場を借りて、改めて感謝をし、御礼を申し上げるものであります。

目を外に転じることにしましょう。

伝統的な米国大統領とは異質なトランプ大統領によって率いられた米国は、引き続き、国際社会に混沌を生み出しています。中でも米中間の摩擦は経済に留まらず、イデオロギー争いという観を呈してきています。インターネットやAIの発達が価値をモノから情報へと転換させるなかで、一党独裁の政体の下国民の権利が制約された中国が、国民活動に係る情報を国家資本として活用し、世界において経済社会的優位を獲得するという予測も杞憂と言えるものではありません。

このような混沌とした世界の荒波の中で日本はどのような針路をとるべきか、これは政治家ではなく、官僚でもなく、国民一人ひとりが自らのこととして考えなければならないことです。

公職選挙法の改正により選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから、すでに2度の国政選挙を経験しました。これら2回の選挙において、18、19歳及び20歳代の投票率は低迷しています。今年は、3年に一度行われる参議院議員通常選挙と4年ごとの統一地方選挙の3と4の最小公倍数である12年に一度両者が重なる「亥年の選挙」の年です。新たな元号の下で、震災からの復興を仕上げ、さらなる発展への方向性を決める大切なかじ取りを決める年になります。投票は、民主主義国家において国民に等しく開かれた社会の針路を選択する機会です。今年の選挙においては、これを真剣に考えて、必ず投票をすることを求めます。
 
昨年度の大学卒業生の就職活動では、引き続き売り手市場となりました。宮城大学は、かねてより高い就職率を達成していましたが、昨年度も概ね100%の就職率となりました。大学の一つの使命は、有為な人材をしっかりと社会に送り出すことにあります。高い就職率はその使命を全うしていることの一つの現れであると考えます。しかし、これからの社会は、グローバルな競争の下、急速に変化していくことが予想され、これに伴い、社会人に求められる能力はこれまで以上の速度で変化していくものと予想されます。生涯を通じた学びによって変化を乗り越えることのできる力を持った人材を育てること、これも先ほど触れたフレッシュマンコアの眼目です。新入学生の皆さんは、今学んでいることについて、その知識が生み出された過去、そしてその知識を学ぶ現在、さらに、それを時代の変化に合せてさらに開発していく未来、という3つの時間軸を意識して、得た知識が過去のものにとどまらず、生涯にわたる学びに際し、応用できるものにしていってもらいたいと思います。

最後に、ここに列席している新入学生の皆さんに改めてお祝いを申し上げるとともに、学生さん一人ひとりにとって、宮城大学におけるこれからの日々が充実したものとなることを祈念して、私の式辞といたします。

平成31年4月3日
宮城大学学長
川上 伸昭

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