2020年度(令和2年度)9月
宮城大学卒業証書・学位記授与式式辞

本日は,令和2年度宮城大学9月卒業証書・学位記授与式を迎えることになりました。この度,晴れて宮城大学の学士課程を終え社会人としての新たな人生に臨む卒業生,大学院での研鑽を終え博士号の学位を受ける大学院生一人ひとりに敬意を表し,お祝いを申し上げます。

さて,私たちはこの半年余り新型コロナウイルス感染症の蔓延に見舞われ,大変な不便を余儀なくされてきました。人々の行動は制限され,経済は急激な縮小を強いられている状況にあります。宮城大学においても,本年度の前期は遠隔授業による開始となり,5月下旬以後,ようやく一部の実習・実験等を対面で実施したもののほとんどの活動がインターネットを通した遠隔方式で行われることを余儀なくされました。しかしながら,遠隔による教育活動を通して,私たちはインターネットが提供する新たな価値を大きく発見したということも事実であります。今後,私たちはこの経験を振り返り,評価をしたうえで,教育活動を進化させていくことになります。

また,卒業,修了する皆さんを前に,関係のないことと思われるかもしれませんが,明日から始まる後期の課程については,大学への登校を復活・本格化をさせ,対面と遠隔を混合させるいわゆるハイブリッド型で運営をしていくこととし,感染の防止と大学での活動の両立を目指していくことになります。

この感染症の特異性は,症状と感染力のミスマッチにあると言うことができます。感染によって症状が出る前に感染力のピークがある,無症状感染者が感染力を持つということが言われています。このことは,すべての人々が他人に感染させる潜在的な可能性を持つということを意味します。感染症からの防護の基本は自分が感染しないことにあるのですが,無症状であっても感染を引き起こすというこの感染症の特異性が,他人に対する攻撃性を産み,感染者や医療関係者への差別を引き起こしています。すべての人が感染力を持つ可能性があるということであれば,視点を変えて,他人を感染させないように行動するということを心がけてみてはどうでしょうか。他人をいたわり,思いやる気持ちを持つことができると思います。この半年間,大学は学生の皆さんに外出を控えるように要請をしてきました。すなわち,自分が感染しないようにするという視点で対応をしてきたものです。今日卒業する大学生の二人は,これから社会に初めて出ていくことになります。社会に出て,企業に勤めるということになれば,多くの人と対面することになります。他人を感染させないという気持ちを持って,豊かな対人関係を構築し,活躍していただきたいというふうに思います。

この半年間の私たちの経験は,社会のdigital化を加速させるという結果も生んだというふうに考えられます。すでに数年前から,世界を覆ったインターネット技術が生み出す膨大な情報をAI技術によって社会が活用していくという新たな社会像が提起され,価値がモノから情報に移り,情報資本に立脚した社会への転換が起こるとされてきました。皆さんがこれから活躍する社会は,digitalを活用し,AIによって情報を価値化することで優位な競争力を生むという社会というふうになっていきます。皆さんがこれから働く職場でも,いわゆる digitalizationが急速に進んでいくことでしょう。それによって引き起こされる変化に皆さんも遭遇することになります。そういった中で,引き続き働いていくためには,新たな知識を常に取り入れていくことが求められます。

大学における課程の修了は,人生の節目ではあっても,勉学からの卒業というものではありません。むしろ,生涯続く,新たな知識の獲得と創造のスタートラインに立ったというべきものであります。

皆さんが,宮城大学の生活で得たものを糧に,これからのかけがえのない人生を開拓し,華やかな人生とならんことを祈念して,式辞といたします。

令和2年9月16日

宮城大学 学長 川上 伸昭

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