2020年度(令和2年度)3月
宮城大学卒業証書・学位記授与式式辞

この一年、世界は新型コロナウイルス感染症の災厄に見舞われ、困難な時を送ってきています。皆さんも自宅で遠隔授業を受ける日もあり、また慎重な行動が求められ、これまでとは異なった日常を強いられてきたものと思います。私たちも、感染症からの安全を確保しながら教育を続けていくことに、懸命に取り組んできました。
このような困難を経て、本日卒業証書・学位記授与式を迎えることができたのはとりわけ感慨深いものがあります。ただし、例年であればすべての卒業生、修了生が一堂に会し、皆で喜びを分かち合うのですが、本年は感染症対策を優先してご来賓の招待を止め、教員の参加を制限し、ご家族の入場をお断りしたうえで、二部に分けた開催とせざるを得なかったことは残念であります。

さて、まず、本日、卒業証書を受ける421名および学位記を受ける23名の学生の皆さん方のこれまでの学生生活における努力に敬意を表し、列席している副理事長、理事、副学長等をはじめとした本学の教職員を代表して卒業および修了を祝福いたします。

先週の木曜日となる3月11日で、東日本大震災からすでに10年の歳月が流れたことになります。震災を振り返り、犠牲となられた多くの皆様に改めて心から哀悼の意を表します。
東日本大震災は、私たちが予想もしなかった未曾有の大災害であったわけですが、その後も災害は度々私たちを襲ってきています。ここに居る学生さんの多くにとって震災後の10年間は思春期の多感な期間であったわけですが、大雨、洪水、地震などの災害におびえた記憶があることでしょう。そして、今、新型コロナウイルス感染症は、世界で200万人以上もの人命を奪い、経済に甚大な被害を与えていて、すでに災害と形容してよい様相になっています。このように、災害は繰り返しやってくるもので、私たちはこれに向き合い、乗り越えていかなければ、生きながらえ、豊かな生活を営んでいくことができない中に置かれていると考えなければなりません。

では、このように、災害が避けられないということであるならば、私たちは、被害をいかに極小化して、早く日常を取り戻すかを考えなければならないということになります。そこで生まれてきたのが「災害レジリエンス」という概念です。災害レジリエンスとは何か。これは新しく取り上げられるようになった概念なので、定義は確定していませんが、ここでは被害を抑制するように講じる事前の対応策や、発災したときにそれがもたらすストレスを受け止め、それを押し返し、回復に導く対応策など、社会がもつ様々な対応策を組み合わせて得られる、災害に打ち勝つ総合力と考えることにしましょう。
レジリエンスの肝は総合力にあります。逆に言えば、何か一つの対応策に過度に依存するものではないということです。東日本大震災において、鉄壁と思われた大規模堤防が津波を受け止められなかったということは記憶にあるところです。一つ一つの対応策は完ぺきではないとしても対応策を組み合わせることによって、全体の被害を少なくし、日常に復帰することができる、これがレジリエンスのもつ効果です。今、高いレジリエンスを備えた社会を作ることが求められています。
さて、今、私たちが直面している感染症に対する対応でもレジリエンスの考え方は有効です。誰とも会わず自室にこもっていれば感染を防ぐことができる、または、ワクチン接種が広がればウイルスは地上から消えてなくなるという考えもありますが、いずれも正しくはありません。社会全体が様々な対応策をバランスよく講じた総合力を発揮していくことで、感染症の蔓延を抑えていくという態度が重要です。皆さんもこれからの新たな環境で、よくそのことを考えて行動していってもらいたいと願います。

高いレジリエンスを持つ社会を作るという考えは、持続的な社会を作るという目標につながっていきます。そろそろ皆さんも「SDGs」という略称が記憶に残ったものとなってきているものと思います。
SDGsは、国連が2015年9月に採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」を指すものです。これは前身のミレニアム開発目標とは異なり、全ての国に適用される普遍的な目標であり、その達成のために政府のみならず、民間セクターも含むすべてのステークホルダーの参画が期待されるものとされています。国連での採択後、わが国ではSDGsへの関心はなかなか高まりませんでしたが、今では、SDGsへの取り組みを宣言する企業、団体が急速に増えてきています。多くの皆さんがこれから働く企業や団体もSDGsを意識した活動をしていくものと思われます。皆さんは、これまで得てきた知識と経験をもとに、自信をもって、大いに力量を発揮してください。

地球を持続的な社会としていくために最も重要な課題の一つが地球温暖化への対応であることは論を待ちません。日本政府は昨年10月、我が国の温室効果ガスの排出を2050年までに全体としてゼロにする、すなわち「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指すことを宣言しました。この宣言の達成は当然容易なものではないのですが、2050年までの30年間は皆さんの社会人としての時間に全く重なるもので、これから長期に亘って様々な形で関わっていくことになります。達成が困難であるがゆえに、達成に向けた取り組みは国民生活に大きな影響を及ぼすものであることは明らかであるわけですから、このことには高い関心を維持し続けていただきたいと考えます。

皆さんは今、新たな社会に踏み出そうとしています。しかし、その社会は今後大きく変化していくことが予想されます。それに伴い、これからやろうとしている仕事が今のまま続くと保証されるものではありません。それまでとは異なった新しい仕事に就かなければならない時には新たな知識や技能の習得が必要とされます。大学から旅立つ今日は、生涯続く学びの入り口に立ったものとみなければなりません。生涯を通じた学びの心がこれからの人生を切り拓き、豊かな生活をもたらすものです。

本年の卒業生の約半数の皆さんは、宮城県外に就職し、宮城県から居を移すことになります。仙台、宮城、そして東北地方は、人々の心の温かみを感じる場所であり、豊かな自然に囲まれ、発展への潜在力を有する地域です。これから宮城県外に出る卒業生の皆さん、再び宮城県に戻り、就職をしよう、起業をしようという時に、宮城大学は皆さんを歓迎し、いつでも力になるものです。

最後になりますが、宮城大学における学生生活を満喫し、その課程を無事修了し、これから社会に向かう卒業生、修了生の皆様、宮城大学とのつながりはこれで切れるものではありません。宮城大学は、常に皆さんに寄り添い、必要な時にできる支援をしていきたいと思います。

本日の善き日に当たり、改めてお祝いを申し上げ、式辞といたします。

令和3年3月19日
宮城大学長
川上 伸昭

TOP