2021年度(令和3年度)宮城大学入学式式辞

早くも桜の開花の知らせが届いた今年の春。令和3年度、453名の学群新入学生および35名の大学院新入学生の皆さん、入学おめでとうございます。宮城大学は、皆さんを歓迎し、皆さんとともに歩んでいくこれからに期待を膨らませています。

この一年、世界は新型コロナウイルス感染症の蔓延を受けて厳しい状況に置かれています。これに伴い、感染防止を考慮して、今年は入学式を午前と午後の二部に分けた分散実施といたしました。全学の新入学生が時間を共にする貴重な機会である入学式を通常の形で行うことができなかったことは、極めて残念であります。

さて、新型コロナウイルス感染症の流行は、社会に潜在していた課題をあぶりだし、社会変革を加速すると言われています。例えば、昨年の特別定額給付金の給付申請が紙で行われ、給付に長期を要したことなどが契機となってデジタル庁が新設され、行政のデジタル化が急速に進展しようとしています。また、緊急事態宣言が出され、人の移動抑制が求められる中で、企業は在宅勤務を拡大しました。企業はその効果を検証し、コロナに関わらずリモートワークを継続する動きに出ています。このように、今、急速にデジタル化による社会経済の新たな展開、これを称してDigital Transformation、略して「DX化」と言うわけですが、これへの動きが現れてきています。
 

ところで、新入生の皆さん、「Society5.0」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

これは、日本政府が5年前に、これから築き上げるべき新たな社会像を顕わすものとして作り出した言葉であります。この言葉は、人類社会の発展をなぞって狩猟採集社会、農耕社会、工業社会、情報社会、これらに続く五番目にやって来る社会を意味するものであります。この社会では、現実世界の網羅的情報が同時的にデジタル化され、インターネットを介して流通し、人工知能などの高度な情報機器によって処理されることにより価値化されていくという「仮想の世界」が構築され、その価値が現実世界に還元されることによって発展する社会、すなわち、仮想世界と現実世界を高度に融合させることにより発展する社会像を提示したものであります。

これに対して、今、構想されているDX化は紙のやり取りなど現実世界で行われてきていることを、デジタル化し、インターネットを通して処理することで効率化の果実を得ようとすることにとどまっており、いわば四番目の情報社会の概念に属する変革にとどまっています。しかし、いずれ「Society5.0」ということになると、仮想世界と融合する現実世界の価値が再び重要になってくるわけであります。

宮城大学は、かねてから情報教育に力を入れてきたので、感染症の拡大に伴う遠隔授業もスムーズにスタートすることができましたが、Society5.0を見据えて、改めて現実にある課題を捉え、直に接しながら実践的に行う教育が重要になると考えてきています。

昨年度は、四月に全国規模で緊急事態宣言が出され、前期の授業をほとんど遠隔授業としました。他方、直ちに対面授業再開を目指して、宮城県のご支援も受け、医療現場での実習を補完するための学内の実習機器の充実、学生間の座席間隔をとるための教室面積の拡大、各教室における換気設備の拡充など、大規模な環境整備を行いました。その結果、後期の授業は6割を対面で行うことができました。

この経験を通して私たちが学んだことは、全ての学生一人ひとりが、自分自身が感染しない、そして友達を感染させないために、常日頃から慎重な行動を執ることが何よりも重要だということであります。新型コロナウイルス感染症には、症状がなくても人への感染力を持つという特徴があります。このため、症状が出たら大学を休めばよいという心掛けだけでは感染拡大を防ぐことはできません。感染しないように普段から慎重に行動しながら、自身の健康観察を怠らず、少しでも体調の変化を感じたときや感染者との濃厚接触が疑われることとなった場合には無理をせず休むようにしてください。

大学に来たときには入り口での入館登録、体温確認など決められたことを確実に行ってください。学内ではマスクを正しく着用し、食事などでマスクを外すときには会話を控える、普段からソーシャルディスタンスをとる、手洗いや消毒をするといった感染防止に効果のある一つ一つの対応を何段階にも怠りなく行っていくことが不可欠であります。これからの学生生活を通して、自身の健康を守るということだけでなく、仲間を思いやりながら皆が健康に過ごすことができるように心がけ、実践することを望んでいます。
 

さて、目を外に転じることにしましょう。

本年一月に米国ではバイデン大統領が誕生しました。トランプ大統領の4年間の治世の下で米国の民主主義は危機に陥ったと言われたものでありますが、これで回復の軌道に乗ったものと考えます。他方、その間に、一党独裁という異質の政治体制を持つ中国が、国内外の異論を寄せつけない姿勢をむき出しにし、強権的な姿勢を強く顕わしてきています。トランプ大統領の下で噴出した米中の対立は、経済問題から体制をかけた対立へと発展し、これは、バイデン政権下でも容易に解消するものではありません。両超大国に地勢上挟まれた日本は激しい荒波に翻弄されることになります。この荒波の中で日本はどのような針路をとるべきか、これは政治家任せではなく、国民一人ひとりが自らのこととして考えなければならないことであります。

公職選挙法の改正により選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから、すでに3度の国政選挙を経験しました。これらの選挙において、18、19歳の投票率が回を追うごとに低下を続けてきています。今年は衆議院議員選挙が行われます。投票は、民主主義国家において国民に等しく開かれた社会の針路を選択する機会であります。今年の選挙においては、これを真剣に考えて、必ず投票をすることを求めます。
 

今、企業による大学生の採用が大きく変化しはじめています。

新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴って導入されたweb面接が一般化し、拡大していくことが予想されています。また、減少する学生との接点を補うためにインターンシップの記録が参考とされる傾向が拡大していくというふうに考えられます。したがって、皆さんは、これまで以上に大学卒業後の進路を描きながら計画的に大学生活を送ることを余儀なくされることになります。

しかし、だからと言って、就職に向いた学業を修めろと言っているものでは決してありません。これからの社会は、グローバルな競争の下で、急速に変化していくことが予想され、これに伴い、社会人に求められる能力はこれまで以上の速度で変化していくものと考えられます。このため、これからの基盤科目や専門科目を通して広汎な知識を身につけるとともに、生涯を通じて学び続けることのできる基礎力を蓄え、さらに、常に新しいことに挑戦する気概を持った人材となることを目指してもらいたいという風に思います。

最後に、ここに列席している新入学生の皆さんに改めてお祝いを申し上げるとともに、学生さん一人ひとりにとって、宮城大学におけるこれからの日々が充実したものとなることを祈念して、私の式辞といたします。

令和3年4月3日
宮城大学学長
川上 伸昭

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