2021年度(令和3年度)3月
宮城大学学位記授与式式辞
式辞を申し上げる前に、まず一言申し上げます。3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震によってお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、地震によって被害を受けた皆様にお見舞いを申し上げます。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、今や2年にわたって私たちに不便な生活を強いてきています。そのような中で勉学を続け、無事所定の課程を修了して本日卒業証書を受ける424名および学位記を受ける35名の学生の皆さん方のこれまでの学生生活における努力に敬意を表し、列席している副理事長、理事、副学長をはじめとした本学の教職員を代表して卒業および修了を祝福します。
振り返ってみたいと思います。昨年度のはじめである2020年4月、緊急事態宣言が全国へと拡大していく中で皆さん方の授業が前触れもなく遠隔によるものとなり、皆さん方の生活は自宅にこもって授業を受けるという窮屈なものへと一変しました。大学としても全ての授業を遠隔で行うというのは初めてのことであり、教職員は懸命に準備を行い、実施をしました。その結果、不慣れな遠隔授業を遂行し、定着させるという成果を得ることができました。この間の学生の皆さんの協力に感謝します。
他方、コロナとの戦いは容易には終わらないとの見通しに立ち、本学は新たな生活様式に基づく大学運営の準備を整え、夏には対面による教育を復活し、拡大していきました。この時期多くの大学では遠隔授業が継続されており、その後徐々に対面授業が拡大していったのですが、本学の対面授業の割合は多くの大学を常に上回ってきたものと思います。
では、なぜ、本学は対面授業に積極的であったのか。このことについて、学生の皆さんには説明する機会がなかったのでこの場で説明をしておきたいと思います。本学は、開学以来実習、実験、演習、ゼミなどを通して実践的な教育を行うことを信条としてきました。こういった教育は、伝統的な大学教育が重視する言語化された知識の伝授に比して、現在の情報技術が不得手とするものです。このため教育の質を維持する観点から安全に対面授業をすることを求め、それができる環境整備にいち早く着手したものです。整備にあたっては、小規模な大学であったため、学生数の少なさが対人距離を確保する点で有利に働き、また、設置者である宮城県当局からの財政的支援があって整備を進めることができたと考えます。この場を借りて宮城県のご支援に感謝を申し上げたいと思います。
また、感染症は人が媒介するものなので、設備、機材のみによってこれを防ぎ切ることはできません。したがって、大学に関係するすべての教職員や学生が、毎日感染防護を心がけ、慎重に生活した結果がここにあるものと考えます。全ての教職員、学生の皆さんに対して、謝意を表明します。
さて、パンデミックは確実に社会の情報化を進展させてきています。そして、社会は情報化によって得られる果実を懸命にわがものにすべく競争をしています。これから本学を離れて社会で活動する皆さんの前には情報端末があるというのが今や一般的であり、皆さんはそれを使いこなし、成果を上げていくことに躊躇することはありません。しかし、忘れてならないのは、端末は機械に過ぎず、皆さんが真に向き合わなければならないのは人や人が作る社会であるということです。たとえ目の前にあるのは機械であったとしても、その先に居る人に作用し、人が行動し、人に評価をされない限り、おこなったことは意味を生じません。しかし、機械を介し、直接人につながらないことから、その作用を実感することが難しくなります。これからは機械の向こうで起こっていることを想像し、人に結び付けていく力が重要になっていきます。
最近、人工知能(AI)による成果を耳にすることが増えてきています。AIがプロ棋士を破ったと聞くと、AIはものすごい才能を持っているように見えるのですが、AIは基本的には過去の人間が行った行為や成果を情報として取り込み、それを数理的に解析することで結果を得ているものに過ぎません。すなわち何もないところから新しいものを生むという真に創造する力は人間にしか備わっていないのです。
先月ロシアがウクライナに侵攻し、大国による戦争が起こっています。開戦後、ロシアのプーチン大統領は情報端末を傍らに、カメラを前にして演説する姿を好んでいるように見えますが、ディスプレイやカメラの先にいるウクライナ市民の苦難や自国の将来像を想像する力を持っているとは見えず、また、国家間の紛争を解決する手段として、80年前に世界が経験し悔いた、「戦争」という手段を再びとるという創造性の無さを、我々は再び目の当たりにしています。
皆さんは、ますます情報化が進展していく社会にあって、社会を作っていく地球市民として、今以上にこれらふたつの「そうぞう」する力を意識し、発揮することで、活躍されんことを願っています。
本年の卒業生の凡そ半数の皆さんは宮城県外に就職し、宮城県から居を移すことになります。仙台、宮城、そして東北地方は、人々の心の温かみを感じる場所であり、豊かな自然に囲まれ、発展への潜在力を有する地域です。これから宮城県外に出る皆さん、再び宮城県に戻り、就職をしよう、起業をしようという時に、宮城大学は皆さんを歓迎し、いつでも力になるものです。
最後になりますが、宮城大学における学生生活を満喫し、その課程を無事修了し、これから社会に向かう卒業生、修了生の皆様、宮城大学とのつながりはこれで切れるものではありません。宮城大学は、常に皆さんに寄り添い、必要な時にできる支援をしていきたいと思います。
本日の善き日に当たり、改めてお祝いを申し上げ、式辞といたします。
本日はおめでとうございます。
令和4年3月19日
宮城大学長
川上 伸昭