贈る言葉ー令和元年度の卒業及び修了を祝してー

(平成30年度卒業証書・学位記授与式の写真)

はじめに

この度、正規の課程を修了し宮城大学の卒業証書を授与される430名の皆様、大学院の学位記を授与される29名の皆様のこれまでの学生生活における努力に敬意を表し、本学の教職員を代表して卒業および修了を祝福します。また、これまで学生を育て、学生生活を支援していただいたご家族、関係者の皆様に御礼を申し上げるとともに、お祝いを申し上げます。

卒業証書授与式及び学位記授与式は、これまでの学修を振り返るとともに、ここに導いてくれた恩師に感謝をし、次のステップへの決意を新たにする機会であり、大学にとって極めて重要な行事です。加えて今年は本学の創立から20回目の卒業生を出す記念すべき年に当たります。この年に、式の開催を断念し、書面をもって皆様に言葉を贈ることになるのは大変残念です。

災後の経験を活かす

今年も数日前に忘れることのできない日、3月11日を迎えました。東日本大震災から早くも9年の歳月が流れたことになります。津波に襲われた沿岸部の地域では、この数年で再び大きく姿を変え、人々が戻って新たな活動の地となったところも多くあります。震災から9年の歳月を経て、復興は一歩一歩と歩みを重ねてきています。ところが、昨年は台風19号による水害が東日本各地を襲いました。宮城県でも多くの市町村が被害に遭い、犠牲となる方も出ました。次々と襲ってくる自然災害、そして今、新型コロナウイルス感染症の大流行も新たな災害と言うべき状況にあります。災害は忘れた頃にやって来るのではなく、繰り返しやってくる状況にあると言えます。

かつて人類は災害時に如何に生き延びるかを考え、続いて、災害を防ぐ術を考えました。しかし、東日本大震災では災害を防ぐという人間の知恵の無力を思い知ることになり、災害をやり過ごし、如何に平穏な生活を取り戻すかという災後の活動の重要性を知ったのです。

皆様は東日本大震災の災後に繰り広げられてきた様々な取り組みを見ながら成長してきたので、この記憶と経験は災害が常態化したこれからの社会を生き抜く糧となるものと信じます。

SDGs実現の担い手に

世界は災害に限らず様々な課題を抱えています。国連は、2015年9月に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択し、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」、いわゆるSDGsを掲げました。最近、17色に塗り分けられたリング状のロゴを見る機会が増えてきているので知っている人も多いと思います。

SDGsは、地球上のだれ一人も取り残すことなく持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するために設けられた、全ての国と地域に適用される普遍的な目標です。国連の決定を受け、わが国は、アクションプラン2018を策定し、SDGs達成に向け、3つの方向性を示して取り組みを始めていますが、そのうちの2つは、SDGsを原動力とした地方の創生や強靭で環境に優しいまちづくりと、SDGsの担い手となるよう若者と女性のエンパワーメントを図ることとされています。東北という世界の課題先進地域で学んだ若者である皆さんは、真にSDGs達成の担い手として期待されるものです。

今、SDGsへの取り組みを宣言する企業、団体が続々と現れ、SDGsを意識した活動を掲げています。皆さんは、これまで得てきた知識と経験をもとに、自信を持って、大いに力量を発揮していただきたいと思います。

Society5.0時代に求められる人材と本学の教育

昨春、日本経済団体連合会と大学が連携して作った産学協議会が、これからの社会に必要とされる人材像をまとめました。そこでは、文理の枠を超えた学びによって築かれる論理的思考力を土台に持ち、現実社会の課題解決に取り組んで得た課題解決力と、社会を構想して設計するというデザインする力を備えた人材に期待が寄せられています。宮城大学の実学を旨として実践的な教育を受けてきた皆様はこのような新たな人材像にかなったものと考えます。Society5.0が顕わすこれからの社会への移行は社会構造の大きな変化を生むことになります。すでに年功序列を伴った終身雇用という従来の日本企業の人事慣行は存続の瀬戸際にあり、今の仕事と雇用が今のまま続くとは保証されません。それまでとは異なった新しい仕事に就かなければならない時には新たな知識や技能の習得が必要とされます。したがって、大学から旅立つ今日は、生涯続く学びの入り口に立ったものとみなければなりません。生涯を通じた学びがこれからの人生を切り拓き、豊かな生活をもたらすのです。

おわりに

本年の学部卒業生のなかには、宮城県外に就職し、宮城県から居を移す人も多くいます。

仙台、宮城、そして東北地方は、人々の心の温かみを感じる場所であり、豊かな自然に囲まれ、発展への潜在力を有する地域です。将来、再び宮城県に戻り、就職をしよう、起業をしようという時に、宮城大学は皆様を歓迎し、力になります。

最後になりますが、宮城大学における学生生活を満喫し、課程を無事修了し、これから社会に向かう卒業生、修了生の皆様、宮城大学とのつながりはこれで切れるものではありません。これからも宮城大学は必要な時にできる支援をしていきたいと思います。

本日の善き日にあたり、改めてお祝いを申し上げ、人生の門出を迎えた皆様へのはなむけといたします。

令和2年3月19日
宮城大学長
川上 伸昭

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