発酵の「魔法」の力で資源を活かし、人々の食生活を豊かにしたい

卒業生:アサヒグループ食品株式会社研究開発本部商品開発一部 長田 彩加さんへのインタビュー
(食産業学部 フードビジネス学科2014年3月卒業)

魚醤の研究開発で確信した発酵の力
苦労したからこそ得られた喜びと自信

もともと金内誠先生の研究室を希望した理由が、日本の伝統的で有用性のある発酵技術についてもっと学びたいということでした。金内先生の授業では珍しい発酵食品を試食させていただくなどして、発酵食品の種類がとても多いことを知りました。また、しょうゆやみそができるまでにさまざまな微生物が作用していることや、発酵による保存性の向上、おいしさの向上など、発酵の魅力を学び、どんどん引き込まれていきました。

卒業論文のテーマはツノナシオキアミを利用した魚醤(ぎょしょう)の開発でした。株式会社木の屋石巻水産さまから、ツノナシオキアミの新しい有効利用の方法を考えてほしいと金内先生に依頼があったのがきっかけです。ツノナシオキアミは生を釣りや養殖の餌に、乾燥させたものをえびせんべいの材料にするくらいで、低付加価値商品となっていました。そこで、発酵と組み合わせて高付加価値商品になり得る魚醤の開発を行いました。

まずは魚醤をつくるための設計図をつくりました。原材料のツノナシオキアミに加えてしょうゆの原材料になる大豆やこうじ、あとは乳酸菌や酵母の微生物、酵素をどのように組み合わせると味が向上するかを検討し、その設計図に則って開発を進めていきました。発酵期間を短くして製造効率を上げることも検討しました。そして、市販調味料と同等にうま味の強い魚醤をつくることができました。エビの風味を持ちながらも甲殻類のアレルゲンは検出されませんでした。発酵はどんなものもおいしくする魔法のようなものだと考えていたので、低付加価値商品にしかなり得なかったもので高付加価値商品を開発する経験を通して、やはり発酵の力は偉大だと実感しました。

商品をつくるのは簡単なことではなく、いろいろな方法を試し、工夫を重ねてやっと出来上がるということを実感できました。同時に、おいしいものをつくって喜んでもらうこと、何かの役に立てることの喜びを感じることができ、自分にもできることがあるんだという自信にもつながりました。それが少しでも復興の一助となり、人々の食生活を豊かにすることができたのではないかと思うと、大変うれしいです。

食品ロス問題解決やSDGsにも貢献し
生産者にも消費者にも喜ばれる商品開発を

学生時代に企業と一つのものをつくったということで、就活の時も興味を持って話を聞いていただけた印象があります。そのおかげもあり、現在はアサヒグループ食品株式会社でアマノフーズブランドのフリーズドライ食品、みそ汁やスープの研究開発を行っています。「いつものおみそ汁」シリーズという商品群の中で、アサリのみそ汁の開発に携わりました。アサリが貝ごと入っていて、貝のうま味も強く感じられる商品になっています。みそ汁をつくる上でも発酵調味料はたくさん使っており、プロジェクトでの経験が仕事でも活かされています。

現在の仕事で難しいことがあっても最後まで成し遂げるという気合を持って、諦めずに取り組めるのは、宮城大学で商品をつくる難しさとつくり上げる達成感を両方経験することができたことが大きいと感じます。また、利用方法によって新たな価値が生まれることを知り、新たな発見をしたいという気持ちが生まれました。商品をつくる際、一つの見方で考えるのではなくほかの見方もあるのではないか、と複数の視点を持つように意識して取り組んでいます。それがコストダウンにつながったこともあり、経験が活かされていると思います。

プロジェクトで私自身、発酵調味料の魅力を強く感じることができましたが、若い世代で発酵食品に興味を持っている方は多くないと感じています。自分が感じている発酵食品の魅力を若い方にも伝わるような商品開発をしていきたいと思っています。

ツノナシオキアミから魚醤をつくった経験を通して、まだまだ海の中には十分に利用できていない資源がたくさんあると感じました。私の仕事内容は原材料を加工品にして、より手軽に食べていただける商品を開発することです。未利用資源を加工品にすることで、多くの人にその資源の魅力を届けることができ、同時に食品ロス問題の解決やSDGsにも貢献できると思っています。生産者にも消費者にも喜んでいただける、そんな商品開発をしていきたいです。

 


誰かのために何かをしたいという思いを
共同研究で具現化し、実学通して成長遂げた

長田さんのつくったオキアミの魚醤は素晴らしく、市場でもぜひ使ってみたいという反応があり、本格的な製造がもうすぐ始まります。被災企業を手助けしたいとプロジェクトは始まったわけですが、このテーマが2030年の目標を掲げたSDGsにもすごく合致していました。未利用資源を有効に使って食糧難を何とか乗り越えようと、一つの地方企業の支援から世界的な動きになっていることを感じます。

東日本大震災という悲しい経験を通して、自分が苦労したから誰かのために何かしたいという目的意識を長田さんはもともと持っていたと思います。それがこのプロジェクトで社会的な接点を持ち、実社会の中で自分がつくったものがどう扱われるかということや、企業で開発することの意義を学びました。非常に長田さんの成長を助けたプロジェクトになったのではないでしょうか。宮城大学の食産業学群は「実学主義」ということで、実際の社会の中で学ぶ機会が多く用意されていますが、企業と研究することでまさにこの実学の面を非常に学んだのではないかと思います。

震災からこれまでは、津波の防潮堤をつくったり、被災した方々の生活を立て直したり、元に戻すという復興の10年でした。そして今、元には戻ったけど次の進歩をどうするかという課題が残っています。次の10年でさらなる発展を遂げるためにわれわれができることは、食で人を喜ばせ、幸せにするということです。その食品開発において、われわれが専門としている発酵食品が非常に貢献できると思いますので、一緒に頑張っていきましょう。
(食産業学群教授 金内誠)

 

インタビュー構成:菊地正宏(合同会社シンプルテキスト)
撮影:渡辺然(Strobe Light)/ディレクション:株式会社フロット
協力:一般社団法人 公立大学協会 (会場提供)


フードマネジメント学類

Eat to live? Live to eat?

食べることは人間の生命維持だけでなく、人生の充実にも関わり深い。
米や麦、肉や野菜などの食材がおいしく安全で、栄養にあふれた食品となり、人の血となり肉となるまでの全過程を、科学・技術とビジネスの両面から学ぶ。

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