地域に寄り添い、人に寄り添える保健師でありたい

卒業生:岩沼市健康福祉部健康増進課健康対策係 小野寺 皐月さんへのインタビュー
(看護学部看護学科2017年3月卒業)

震災後の無力感から看護の道志し
誰かのためにと参加した「みやぎ絆むすび隊」

東日本大震災で多くの尊い命が失われ、これまで普通だった生活が失われてしまいました。当時高校生ながらに、その被害の大きさに打ちひしがれたことを覚えています。それでも困っている人のために何かしたいと思い、ボランティアに参加しましたが、それは「ボランティアのためのボランティア活動」でした。無力感が募った私は看護の道を志し、宮城大学に入学しました。看護学部で「みやぎ絆むすび隊」というボランティア活動をしていることを知り、今復興のために必要な活動はどういうものなのだろう、今度こそ誰かのためになることをしたい、それは看護職を目指す上でも必要な経験になる。そう思い、参加することを決めました。

震災当時、宮城大学は教職員や学生が家屋のがれき撤去や泥だしのボランティア活動を行っていました。それに参加していた看護学部の学生3人が看護職を志す者として、学部の特性を活かした活動をするために結成されたのが「みやぎ絆むすび隊」です。学生、教職員、地区組織や保健師が一体となって被災地域の健康課題解決を目的に展開していました。初めは山間部の地区組織の代表から要請を受け、家庭訪問や健康観察を兼ねた傾聴活動を行っていました。継続する中で見えてきた高齢者の現状や、調査結果で明らかになった高齢者の生活不活発病の予防を図ることを方針とし、住民の交流を兼ねた介護予防を行うことになりました。先輩方が築いてくださったこの方針を基に、私たちも「スマイル農園」と「スマイル健康塾」を行いました。

「スマイル農園」は、震災の影響で外出や体を動かす機会が少なくなった南三陸町の住民に対して、住民にとって身近な農作業を通して体を動かす機会、住民同士の交流の機会を提供することを目的とした活動です。歌津上沢地区の区長さんの畑をお借りし、山間部の住民と耕起作業から始めました。学生よりも畑作業に慣れている住民の皆さんに教えてもらうことが多かったのですが、教えてくださる皆さんはとても生き生きとしていると感じました。活動3年目には、現地住民サポーターと共同で取り組むようになりました。

「スマイル健康塾」は、生活不活発病の知識の普及啓発と、その予防をするために行った介護予防教室です。兵庫県立大学の学生さんたちの協力も得て、脳トレを兼ねたレクリエーション、ロコモ体操、健康劇、ミニ運動会、保健師による健康講話など、その時々でさまざまな内容を考え実施してきました。健康について考えるだけでなく、住民同士の久しぶりの再会、交流の機会にもなり、参加者からは「久しぶりにこんなに笑った」「久しぶりに人と話をして、体を動かしてすっきりした」などの声が寄せられました。

看護の基本学んだ学生時代の経験原点に
これからも挑戦重ね保健師として成長する

活動を通して震災の状況を自分の目で見て、住民の皆さんから生活の変化や健康状態などの話を直接聞き、生活の実際を知ることができました。スマイル健康塾では私たちメンバーもロコモ体操を一から学び、どのようにすれば分かりやすく、楽しく伝えることができるのか、試行錯誤しながらつくり上げていきました。その準備が大変で当時は無我夢中で行っていましたが、今振り返ると準備こそが大切で、そこから学んだものはたくさんありました。対象の特性や、特性に合わせた支援方法、健康課題、そこにある背景などさまざまなことを考えた上で実施するという、看護の基本を学ぶことができました。

住民の方、区長さん、地域のサポーターさん、保健師さんなどたくさんの方と出会い、活動を共にしましたが、回数を重ねるごとに話題が増え、顔と名前も分かり、関係を築くということがどういうことか肌で感じることができました。住民の皆さんが持つ力にも気付かされ、対象者の強みに気付き、それを活かすためにどのような活動をすればいいのかという視点の大切さも学ぶことができました。こうした経験が、保健師としての私の原点になっています。

仕事で悩んだとき、迷ったときは学生時代を振り返り、一つ一つを丁寧に考え対象者との関わりを持つように心掛けています。保健指導をする際は対象の強みを見ることも大事にしています。無我夢中で活動していた学生時代には深く考えられていなかった部分も、あの時の活動にはこんな意味があったのだなと、今の仕事の内容や意味に結び付けられています。

私は地域に寄り添い、人に寄り添える保健師でありたいと思います。現状維持で満足するのではなく、今、地域に必要な支援、事業、資源は何かを考えて実践していけるようになりたいです。新型コロナウイルス感染症の流行もあり、行政が提供する支援の在り方も大きく変化していることを実感しました。世の中の状況に合わせた支援方法を模索することの必要性を強く感じます。そのために日頃の業務の中で疑問に思うことを調べ、市民との関わりの中から見えてくる地域の課題に目を向けていきたいです。分からないことも失敗することもたくさんありますが、先輩方に助けてもらい、教えてもらいながら一つずつできるようになることが増えてきました。これからも挑戦していく気持ちで多くのことを経験し、さまざまなことを吸収し、保健師として、社会人として成長していきたいです。


少子高齢化や多様化する社会ニーズに対応できる基礎力のある看護師に

当時1年生だった学生が1人、津波の犠牲になって、その同級生が活動の主体として始まったのが「みやぎ絆むすび隊」ですが、実は入る段階から撤退について考えていました。震災復興に対する支援はいつか切れるわけで、そのときに住民の皆さんから見てサービスが低下して不満の残るような活動、撤去の仕方はできない。どうすればウィンウィンの関係で終われるのかを考えながら始めました。「スマイル農園」からはすでに宮城大学は撤収し、地域の皆さんが「にこにこ支援隊」という形で続けています。いいバトンタッチができたのではないでしょうか。お互い無理なく楽しみながらできる支援というのが持続する上で重要だと感じました。

学生の成長の面で考えれば、本当に手探りの状態からお年寄りの声を聞き保健師さんの指導を受けながら必要な活動をしてきましたので、看護職として必要な視点を学ぶ機会になったと思います。小野寺さんの話にもありましたが、本人たちは学生時代にはあまり気付かなかったかもしれません。でも高齢者の方とどう接すればいいか、どういうふうに話をすればいいか、いろんな人たちとの連携の仕方など、保健師として業務をする上で欠かせない学びがあったと思います。

あれから10年たって復興住宅での生活に移行して新しいコミュニティができた一方、少子化や高齢化の問題が進んでいくことになると思います。ほかにもコロナの問題や、海外の方が増えてくるということもあるでしょう。社会のニーズが多様に変化し、これまでの看護だけでは対応が難しいとなったときに、柔軟に対応できるような基礎力のある看護師の養成を大学として進めていければと思っています。(看護学群教授真覚健)

インタビュー構成:菊地正宏(合同会社シンプルテキスト)
撮影:渡辺然(Strobe Light)/ディレクション:株式会社フロット


看護学類

Nursing with a look to the future.

看護専門職としての基礎能力を身につけながら、
同時に看護に大切な“豊かな人間性”と“高い倫理観”を育み、
あらゆる看護フィールドで活躍できる人材へ。

災害看護プログラム

災害サイクル各期において支援ができる看護職を目指す学生が、災害看護の基礎的知識と技術を身につけるためのプログラムです。学生は学修を進めるにあたり、1年次から学びの振り返りができるポートフォリオを作成しながら、指定された科目を学びます。また、その学びを活かした災害看護関連のボランティア活動を行うことでさらに深い学びが可能です。

国際看護プログラム

グローバルな看護職を目指す学生のためのプログラムです。学生が各自ポートフォリオを作成しながら、所定の英語科目と看護専門科目により4年間学び続けます。「実践看護英語演習」では、海外の大学の看護プログラムや医療機関で2週間の研修や学生交流を行います。国際交流を通じて看護学の面白さをさらに実感できます。

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