「東北って、実は面白い」世界で戦える東北をつくる

卒業生:株式会社東北博報堂 栗原 渉さんへのインタビュー
(事業構想学部 事業計画学科2014年3月卒業)

「やりたいことはすぐにやる」と決め大学での実践活かし広告会社でも活躍

東日本大震災があったのは1年生の時で、当時住んでいた塩釡の実家に家を流された親戚もみんな集まっていて12、3人くらいで避難生活をしていました。それだけの人数で食べられる食料などなく途方に暮れていましたが、どうにかして食べなければいけないと、みんなで塩釡中を回ってわずかな食料や飲料を手に入れて、みんなで分けていたのを記憶しています。

一日一日生きるのも大変で、余震も続いていていつ死ぬか分からないという経験をして、であれば今やりたいと思っていることは生きているうちにやらないといけないと考えるようになりました。僕は死ぬまでに海外で生活してみたかったので、大学に行けるようになってすぐに国際交流・留学生センターでティモシー・フェラン先生に留学の相談をしました。ちょうどフィンランドと学術交流協定を締結するタイミングだと分かり、すぐに行くことを決めて、8月の入学に向けてバイトしてお金をためて英語を勉強してと、寝ずにやっていたので正直その頃の記憶はあいまいです。ただ、やりたいと思ったらすぐ動き始める、という今の考え方の根底になった出来事だったかなと思います。

留学期間を終えて、宮城大学では社会に役立つ学びをリアルな現場感の中で学べ、今の自分のキャリアをつくる上で重要な経験でした。広告会社の方の授業や企業のマーケティング部署との協働プロジェクトなどはとても刺激的で、自分の将来をワクワクさせてくれて、大学生活を楽しくしてくれました。ビジネスとデザインやエンジニアリングが隣り合わせというのが、宮城大学のすごくいいポイントです。社会は右脳と左脳、サイエンスとアート、合理と非合理が常に行き来して成り立っているので、その視野やバランス感覚をこのタイミングで体験できるのは宮城大学ならではだと思います。

ビジネスを構想し、デザインとエンジニアリングで実装するという、その時にやっていたことがそのまま現在の仕事につながりました。卒業して東京の広告会社に就職し、いつかは地元に戻って仕事がしたいと思っていたので、2018年にUターンして現在の東北博報堂に入社しました。東北6県、新潟県、東京都にある企業の広告や商品、事業やサービスを生み出すお手伝いをしています。職種はプランナーというものですが、テレビCMやウェブサイトをつくったり、時にコピーライティングをしたり、ワークショップをしたり、事業戦略を立てたり、クリエイティビティーを軸にして何でもしています。

 

地域に眠る宝を見いだし光当て
東北をもっと面白くして人を引き付ける

震災によってたくさんのものが失われたのは確かです。一方で社会人になって東京に出て東北を俯瞰(ふかん)して見たときに、東北が真ん中にあり、人やものやお金が集まってきて、みんなが東北を気に掛けて、盛り上げようとしてくれていた時期があったと思います。データを見ても生産量は増え、震災前かそれ以上にものもあって、可処分所得も上がりました。一方で、人が減っているのは数字的にも感覚的にも分かるところで、それは量的な人口というのもあるんですが、質的な意味でも人が減っているのが課題だと感じています。

東北博報堂は「東北の未来を発明する」というミッションで動いているんですが、未来を発明するのは人でしかないと考えていて、その「人」がなかなかいない、いなくなってしまっている。どうしたらこの土地に人が定着したいと思うか、あるいは一度出ていっても戻ってきたいと思うか。もっと東北が面白くて吸引力のある土地になれば解決すると考え、「東北をもっと面白くする」をミッションに「ロッケン」という独立的な研究開発組織を社内につくり、おととし始動しました。高山純人先生にも初期の段階から入っていただいて、共同研究として進めています。

東北は1次産業、2次産業で素材をつくり出して域外に出していくのが得意だと昔からいわれていますが、例えば銀座で東北の野菜を高値で売ることはできても、地元では値段を上げることはできない。付加価値を付けることが苦手なんだなと、震災を経て改めて思いました。どうしても東北の人は「自分たちは何も持っていない」とか「何もない」と言いがちなんですが、視点を変えるだけでもっと面白くなるし、新しい価値になります。研究、リサーチ、分析を進めて、こんな面白い見方があるよねという見立てを出していくことで、「実は私たちって面白いんだ」と思ってもらう。あるいは外から見て「東北の人、東北のものって実は面白いんだな」と感じてもらう。自分たちに自信を持っていないというマインドの部分も大きな障害だと感じているので、そのあたりをモチベートして、かつ僕らの持っているPR力を使うことで、世界で戦える東北はつくれるんじゃないかと。

時代によって面白さというのはどんどん変わっていくと思うので、何が今、世の中にとって面白いのかをキャッチアップしながら、それを東北で体現していきたい。そして東京だったり京都だったりどこか中心地から見た「東」の「北」にあるという意味での東北ではなく、かといって全体の真ん中になることでもなく、オリジナルな存在として世の中に位置付けられるような東北のブランドづくりや認識づくりをやっていきたいなと思っています。

 


自信を持って地域の価値を世に示し
0から1へ、さらに大きな発展を

栗原君が話した通り、東北には見方を変えると面白いものがいっぱいあって、それをビジネス的な視点で捉え直して展開し、すでに売り上げの半分が海外だとか、そうしていこうと思っている企業が存在しています。僕も研究を通して、伝統工芸や技術も含めて世界で戦える素材があるという印象を持っていて、それをちゃんとプロダクトやサービスにしてあげる、価値をつくる部分をしっかりやってあげることが大事かなと思っています。


震災後の10年を振り返ると、マイナスを0に戻す作業を中心にしていたフェーズがこの東北の復興だったのかなと思っています。これから10年、20年は0から1、さらにもっと大きくしていく時で、そこで重要なのが、東北はどういうものか、われわれは何者なのかという価値を明示していくことです。それには彼が話していたマインドの部分も大事になるでしょう。

そのマインドとサービスやプロダクトをつなげて世の中に出していくことが今後の東北にとって重要であるという中、われわれ大学としてはその部分の教育や研究を、これからの10年で新しい東北をつくっていくことにも絡めて進めていければと感じています。(事業構想学群講師 高山純人)

 

インタビュー構成:菊地正宏(合同会社シンプルテキスト)
撮影:渡辺然(Strobe Light)/ディレクション:株式会社フロット


事業プランニング学類

Making business innovations happen.

時代が大きく変化しニーズが多様化する現代社会において、成功している企業は
どのような戦略をとり、どのように組織を動かしてビジネスを行っているのか。
様々な事例を通し、その論理と思考を基にした実践知を身につける。

TOP