1次産業の基盤整備を充実させ、生まれ育った宮城の発展に貢献する

卒業生:宮城県気仙沼地方振興事務所水産漁港部漁港漁場第一班技師 引地 達也さんへのインタビュー
(食産業学部 環境システム学科2016年3月卒業)

小さな頃から身近な田んぼの被災に胸痛め
農業土木学び農地復旧の研究に携わる

私は名取市閖上出身で、東日本大震災で被災した経験から、宮城県の震災復興に携わりたいと考えていました。震災では自宅と祖父が所有していた田んぼが被災しました。小さい頃から田んぼが身近な存在であり、津波被害により稲作ができなくなったことが残念でした。

高校3年生の時、農業農村工学会の「塩害調査団」の存在を知り、津波被災農地における塩害や除塩に興味を持ちました。その調査が閖上で行われていたことでより関心を深め、県の主要産業である農業の基盤である農地の復旧は震災復興の中でも重要な位置付けだと考え、大学では農地復旧に関わる研究をしたいと考えました。そして宮城大学で農地工学や農業水利学といった農業を支える基礎となる農業土木分野を学ぶとともに、千葉克己先生の下で塩害対策といった農地復旧に関する研究に携わり、勉強をさせていただきました。

私が行った研究は「東松島市大曲地区における農地復旧法の効果検証」です。震災により東北地方沿岸地域の集落や農地は大きな被害を受けたため、農業分野の早期復興に向けて農地の復旧が行われました。比較的被害の少なかった内陸部では除塩対策として縦浸透法や溶出法が採用され、営農を再開した農地も多くありました。しかし、沿岸地域の農地では津波による冠水に加えて地盤沈下が発生し、海水を含んだ地下水が田面以上に達することがあります。このような農地ではかさ上げや暗渠(あんきょ)の設置が必要です。かさ上げと暗渠の設置で復旧がなされ、水稲栽培が行われている津波被災農地において、地下水の水位やその電気伝導度(EC)をモニタリングするとともに、土壌ECの測定などを行い、農地のかさ上げ工事が塩害の防止に有効かどうかを検証しました。

具体的には、復旧工事後の圃場(ほじょう)で、水稲栽培時における地下水の水位とECなどをモニタリングします。調査地のある東松島市大曲地区は二級河川定川の右岸に広がり、対象圃場は標高マイナス0.6メートル程度で、震災の地震で約40センチ地盤沈下し、津波堆積土砂が約10センチ堆積していました。元の標高に戻すために30センチのかさ上げ工事と暗渠排水の工事を行いました。その圃場の地下水位や塩分濃度と水稲作の状況を把握するため、圃場にフィールドモニタリングシステムを設置し、定点カメラで稲の生育を毎日監視しました。地下水観測井では水深/塩分濃度センサーで1時間ごとの地下水位や地下水の塩分濃度を観測。同時に降雨量も観測し、気象条件も考慮します。さらに調査圃場の土壌を採取し、土壌の塩分濃度を測定しました。

調査圃場は復旧工事の効果が発揮され、水稲作の生育は順調でしたが、隣接圃場の大豆は生育不良で、塩害と思われる現象が確認されました。それをさらに研究の対象とし、生育不良地点と生育良好地点において土壌を採取し土塩分濃度を測定することで、地区の農地の復旧状況を包括的に調査しました。

現場に出て目で見て自分の頭で考える
研究で身に付けた力発揮し地元に貢献

研究を通して、現場に出て自分の目で見て課題を考察することの重要性を学びました。塩害対策の研究では、研究対象が農地という自然であることから、毎日モニタリングしているデータだけではなく、実際に現場に行き、現場の状況・自然条件がどうなっているかを把握する必要があります。今の時代、検索すれば大概のことは調べることができますが、地域の課題はその場所に応じた特有の問題を抱えているもので、何事も現場を把握することが重要だと学びました。

隣接している圃場でも条件が変わり、生育できるものと生育できないものがあることを受け、現場の課題はそれぞれ特有であると感じましたし、地域の課題に対しては視野を広げることも必要だと考えました。この研究を通して、「現場での学びの重要性」と「百聞は一見にしかず」ということを改めて実感しました。

私は現在の業務で工事を担当しており、設計、積算、現場監督、地元説明会まで全てやらなければなりません。さらに現場ごとに条件が変わり、さまざまな課題や調整事が生じてきます。それらを解決するためには、何が問題で何をすれば良いか自分で考え、動かなければなりません。そこで課題発見・解決力の基礎となるものは、学生時代の研究経験のたまものであると感じています。学生時代に培った、現場に出て課題を発見し考察し解決する力、または周りの方とコミュニケーションを取って関係を円滑に進めていく、そういったところが現在の仕事にも活かされていると考えております。

東日本大震災からの復旧・復興は着実に進んでおり、今後は人口減少などの課題に対応できるような、持続可能な地域経済の発展が求められています。農林水産業をはじめ1次産業の基盤の整備を充実させることで、生まれ育った宮城県のさらなる発展に貢献したいです。

 


これからの若い農家が活躍できる
営農の基盤づくりへ活躍に期待

引地さんの代は4人ゼミ生がいて、みんな仲良く、いい雰囲気で卒業研究に取り組んでいて、大変でしたがすごく楽しい1年だったと記憶しています。中でもムードメーカー的な役割を引地さんが果たしてくれて、温かい雰囲気の中で研究ができました。そのゼミ生がみんな公務員になって、地域の農業のために今頑張っています。

引地さんと一緒に現場に行って、僕が気付かないことを引地さんが気付いたことがありました。現場を見る目、問題点を見る目は養っていたつもりなんですが、実際自分だけでは限界があって、一緒に行った学生に教えてもらうことも非常に多かったです。その一つが、引地さんが話してくれた大豆の生育の問題でした。それが後々新しい研究課題になって、後輩がそれを担当してくれて、また新しい発見をしてくれています。引地さんの言う通り現場に出るというのは重要で、よく見ること、そしてその目を養うことが大事だと思います。

宮城の農業の復旧はほぼ終わって、これからは若い農家さんがどんどん育っていってほしいと思っています。若い農家さんが新しいものを導入して、よりコストを下げたり多様性が生まれたりすることが大事で、それには必ず農業インフラの整備が必要になります。ドロドロの昔の田んぼに最新の機械は入れられませんので、田んぼをその機械に合わせて整備していく。引地さんもそういうことを今担っています。ぜひそういう最新の営農が可能となる基盤づくりにこれからも励んでもらえればと思っています。地域創生学類でも全面的に協力していきたいと思います。
(事業構想学群准教授 千葉克己)

 

インタビュー構成:菊地正宏(合同会社シンプルテキスト)
撮影・ディレクション:株式会社フロット


地域創生学類

Creating sustainable society.

災害や人口減少を始め、社会課題をいかに自分事として解決していくか。社会課題解決に寄与する事業創造や地域政策、それらの根拠を導く科学的分析手法を学び、ソーシャル・イノベーションをもたらす原動力となり、社会に貢献する人材を育てる。

TOP