宮城の営農支援を仕事でも続けたい、研究を通して芽生えた思い

卒業生:宮城県職員山内 歩実さんへのインタビュー
(食産業学部 ファームビジネス学科2013年3月卒業)

津波をかぶった田んぼを目の当たりにして
何かできないかと始めた耐塩性の研究

東日本大震災後、宮城大学の被災地支援ボランティアに参加して石巻市に何回か行っていました。宮城に住んでいながらも沿岸部の状況をしっかり見たことがなく、その時に初めて現地で田んぼの中に汚泥がたまっていて営農ができない状況や、用水路にもたくさんの汚泥があって水も流れない状況を見てきました。その復旧復興のために何か参考になるようなことができないかと思い、イネの耐塩性に関する研究を始めました。イネを普通に育てるのではなくて、初めの育苗の段階から少し塩の入った水で育てることで、最終的に耐塩性を付けられないかという研究です。ポットを使った試験栽培で育苗段階からいろんなパターンの塩水を使い、最終的に農場で収穫調査まで行い、一年を通した研究をしていました。

その中で、普通に育てた場合より少し塩の入った水を使って育苗した時の方が、生育が良好になるという結果が出ました。また少し塩の入った水を使って育苗したときの方が、耐塩性に関わる遺伝子が発現する可能性があるということが分かりました。

そこでの学びはたくさんあったと今でも思いますが、特に大きかったのは、ボランティアに行かなければ分からなかった被災地の状況を目の当たりにしたこと、ボランティアに行かなければ出会わなかった人々と出会えたことです。現地に行ったことで、宮城の被災地の営農支援を仕事でもしていきたいという思いも生まれたので、全てが現在につながる経験でした。もちろん、研究で耐塩性を付けるために行ったいろいろな調査も、全て仕事に活かすことができています。

 

大学での学びが活きる農業職としての日々
経験重ね普及職として活動を広げたい

現在は宮城県の農業職として、皆さんが食べていらっしゃるコメ、ムギ、大豆の種の元種(もとだね)となる原種と、さらにその元種になる原原種の生産を行っています。農場で実際に作業することもありますし、その指導監督という形でも携わっています。そこでも大学の時の農業実践的な経験や知識はすごく役立っていて、農機を扱うようなことも研究室の齋藤満保先生にご教示いただいたことを思い出しながらやっています。

種の元となる元種、さらにその元種をつくるということで、本当に厳密な作業が重要になってきます。変な交わりが一切ないように、田んぼの中で少しでもほかの株と違う異株があったらそこで抜き取るとか、その品質自体も一粒一粒しっかり検査をするとか、かなり気の遠くなるような作業が多く、厳密に、入念に確認しながら作業しています。

沿岸部の初任地で営農支援をした際、まだそこの地域が除塩工事をして間もなく、農家さんはこれから営農ができるのかなとすごく不安がられていました。そこで、除塩後の田んぼでのイネの育て方について講習会でお伝えしたのですが、その時に研究で得た知識や経験を活かすことができました。

宮城県の農業職となってから3カ所を回り、今は試験場に勤めているのですが、今後もいろんなところを経験して、最終的にはこの大学で得た知識も活かせるような、農家さんに営農支援をする普及職として活動を広げていきたいと思っています。

 


人の命の普遍的な源である食の発展へ
教員も学生も卒業生も一緒に力を尽くす

震災直後は何から手を付けていいか分からない状態で、私たちも復興のために何を研究したらいいのか分かりませんでした。あの災害を目の前にして本当に無力感といいますか、われわれの研究は本当に活かせるんだろうかと、真剣に問い直した時でもありました。そのような中で、少しでもフィールド、現場で起こっていることの中から、自分たちが持っている知識や経験をいかに役立てられるかを考えるようになりました。

大地震後の混乱の中で、どういうことをしたら少しでも解決に寄与できるかということで現地で復興支援活動のボランティアを行い、研究室でも復興支援に関わる取り組みをされた山内さんは非常に印象に残っています。あの時から変わらず、いつも笑顔でありながら芯はパワフルなところがあって、現在は県に勤めていらっしゃいますけれども、本当に頑張っているんだなと頼もしく思っているところです。宮城県で栽培されるイネなどの種の種をつくっている、管理している本当に重要な部署で働いているので、これからも頑張ってほしいです。

震災後は現場の、フィールドの教育が本当に重要だと改めて認識しました。研究がすぐ役に立つのはなかなか難しいですが、学生と一緒に活動する中で、社会で何が必要とされているのか、特に現場で何が必要とされているのかを意識しながらやってきましたし、そうしていかなければいけないと思っています。

今は新型コロナウイルスという、ある意味震災に匹敵する、あるいはそれを超えるような災害に見舞われている状況です。これからもいろいろな問題が起こってくるかもしれませんが、食は変わらない人の命の源、元気の源です。その食材生産がますます発展できるような研究を宮城大学食産業学群では引き続き、卒業生のみなさんにも協力してもらいながら、これから入ってくる学生さんとも一緒に、頑張っていきたいと思います。
(食産業学群教授 中村聡)

 

インタビュー構成:菊地正宏(合同会社シンプルテキスト)
撮影:渡辺然(Strobe Light)/ディレクション:株式会社フロット


食資源開発学類

In pursuit of novel and superior food resources.

私たちの生きる糧である“食資源”をどのように確保するか。
未来に向けた新たな食資源の開発とともに、農畜水産物をより価値の高い食材とするため、サイエンスとビジネスの両面から“食”を学ぶ。

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