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23.01.20

食産業学群の須田教授が東京大学の研究チームと共同でウシ先天性生殖器奇形の原因遺伝子の候補を特定、米国にて特許の出願

食産業学群生物生産学類の 須田 義人教授は、動物の能力を人にとって望ましい方向に遺伝的に改良する研究を行っています。これまでに、ウシやブタの肉質に関する遺伝的改良と腸管免疫機能を調節する分子メカニズムに関する研究、哺乳動物の妊娠と着床免疫に関する研究、機能性乳酸菌の探索と動物飼料への応用研究を行って論文報告をしてきました。この度、須田教授と東京大学大学院農学生命科学研究科獣医繁殖育種学研究室の松田二子准教授・石山大特任研究員らと共同で進めてきた、ウシ先天性生殖器奇形の原因遺伝子に関する研究成果について、パリ条約に基づくアメリカ合衆国における特許出願を行いましたのでお知らせいたします。

ウシの受胎率低下は世界的に深刻です

ウシの受胎率低下は世界的に深刻さを増しており、我が国の畜産においても解決されるべき喫緊の課題といわれています。日本における受胎率は乳用ウシで42%、肉用ウシで52%まで低下しており(2017年、家畜改良事業団)、特に乳肉の生産に及ぼしている影響は深刻です。遺伝的改良による泌乳能力の過度な増大や様々な繁殖障害が受胎率低下の原因とされていますが未だ有効な解決策はなく、生産現場においてはミュラー管融合不全症の問題は意識されておらず、罹患牛も繁殖に利用されるなど放置されているのが現状です。

図.ウシ(雌)の生殖器管の分化(Hafez and Gordow, 1962年)

ウシの受胎率低下を引き起こす大きな要因のひとつ
ミュラー管融合不全症という生殖器奇形


ミュラー管という器官は人体にも存在します。ウシにおいても、成長に伴って長く伸びて輸卵管となり、子宮や腟などの雌生殖器の一部のもとになります。初期の胎児期では雌雄ともに存在しますが、このミュラー管に生まれつき異常があるとミュラー管の融合不全が発症し、乳用牛の受胎率を半分以下にまで低下させることを共同研究者である石山らが明らかにしています(Ishiyama et al., Theriogenology 2018; 123: 209–215)。このことは将来的に牛乳や牛肉、乳製品の生産量低下や価格高騰を意味し、世界的に深刻な問題として危惧されています。

須田教授ら研究チームがウシの受胎率低下の原因である
ミュラー管融合不全の原因遺伝子の候補を特定
ウシの受胎率向上に貢献する遺伝子型検査システムの開発が期待される

須田教授ら研究チームは先の研究で調査した、ある地域のホルスタイン種の雌ウシ1,000頭以上を対象に研究を進めました。専用のビーズチップとiScanシステムによる解析を行い、ミュラー管融合不全に強く関与する一塩基多型を見出し、候補となる遺伝子を特定しました。この一塩基多型を持った種雄牛の精液が広く普及することにより、生殖器奇形を持つ乳牛の数が急速に増加する恐れが示唆されます。

今後、これらの候補となる遺伝子とミュラー管融合不全症の発症分子メカニズムとの関係について詳細に調査し、遺伝子検査による保因牛の鑑別と淘汰技術システムを開発することによって、発症リスクの高い遺伝子を保因する種雄牛の精液や雌個体を排除して、受胎率向上に貢献することが期待されます。
※本研究は、JRA畜産振興事業の採択事業(代表;東京大学大学院農学生命科学研究科の松田二子准教授)として実施されているものです。

※アメリカ合衆国での特許出願について

パリ条約においては、加盟国の工業所有権や外国知財情報の保護が謳われています。また、アメリカ合衆国は、購買力が高く、特許制度が充実しており、世界の特許訴訟の多くが行われていると言われており、畜産業界においても巨大な市場を持っています。研究チームは今回、ウシの受胎率低下に関わるこの遺伝子の価値や影響力(市場性、生産性、開発力、特許取得の速さ、コストなど)を考え、アメリカ合衆国での出願申請をしました。

研究者プロフィール

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