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20.11.01

「免疫と胚の着床」に関する研究で、食産卒業生の中村圭吾さんと須田義人教授が共同で第113回日本繁殖生物学会大会優秀発表賞を受賞!/食資源開発学類

食産業学部卒業生である中村圭吾さん(東京大学大学院農学生命科学研究科研究生)と、食材開発の観点からウシやブタ等の繁殖能力を遺伝的に改良する研究を行う食産業学群の須田義人教授が、このたび第113回日本繁殖生物学会大会優秀発表賞を受賞しました。

中村圭吾さんのプロフィール

宮城県仙台市出身。2015年3月に宮城大学食産業学部ファームビジネス学科(現・食資源開発学類)の動物遺伝育種学研究室(須田義人教授)を卒業され、東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程(獣医繁殖育種学研究室)に進学、2017年3月に修了後、独立行政法人国際協力機構(JICA)に入構。現在は、農林水産省に出向しながら、東京大学大学院農学生命科学研究科(獣医薬理学研究室)に研究生として所属し、研究に従事。来年度に博士号を取得見込み。

繁殖能力が低下し、頭数が減少している日本のウシ

日々の食生活で肉、特に牛肉や牛乳などを口にする機会があると思います。肉・乳用牛は我々の食文化において身近なものとなりましたが、肉・乳用牛の頭数は年々減少傾向にあることをご存じでしょうか。考えられる要因はいくつかありますが、その一つに、肉・乳用牛の繁殖能力そのものが低下傾向にあることが挙げられます。

肉・乳用牛の生産性を高め、畜産物の安定した供給を実現するには、分娩間隔の縮小といった繁殖の工夫や、良好な妊よう性(妊娠のし易さ)を持つ個体を選び、次世代の生産に役立つ遺伝的改良が求められています。これらを実現するには、妊娠・着床メカニズムを分子レベルで詳細に解明することが必須です。

受胎率の向上に繋がる「エクソソーム」の働きを明らかにするために

受精卵は子宮内で細胞分裂を繰り返すことにより、“胚”と呼ばれる個体発生におけるごく初期の段階状態になりますが、その際にウシやヒツジ などの反芻動物においては、この胚細胞から「インターフェロン・タウ(IFNT)」という物質が産生・分泌されます。この物質は、反芻動物の着床期に胚・栄養膜細胞から分泌される免疫機能に重要な役割を果たすサイトカインの一種であり、妊娠認識や黄体機能の維持に重要な役割を果たす物質です。

近年、細胞間の情報伝達物質としてエクソソームが注目され、着床期の胚からもエクソソームが子宮腔内に分泌されていることが知られています。このエクソソームは、反芻動物の着床期において、胚・栄養膜細胞から分泌されるIFNTと協調し、着床成立に向け胚と子宮内膜とのコミュニケーションに関与していると考えられています。

一方、胚は、IFNTと独立した形でも、子宮内膜に作用しており、今回の研究では、子宮腔に存在するエクソソームのIFNTに依存しない子宮内膜への作用を明らかにすることで、妊娠・着床メカニズムの解明に寄与するものと考えられます。

「エクソソーム」が、インターフェロン・タウに依存せず82個もの遺伝子発現を制御し、子宮内膜の胚の受容能を調節していることが明らかに

研究チームは、IFNTに依存しないで子宮内膜に対して効果を示すエクソソームを探索するために、子宮内膜上皮細胞に、胚の着床期のエクソソームとIFNTをそれぞれ添加し、その細胞における各遺伝子の発現状況を網羅的に解析・比較検討しました。

その結果、子宮内膜上皮細胞にて、IFNTに依存せずに発現変動する82個もの遺伝子を同定できました。さらに、その多くが、炎症反応に関係するTNF関連因子であることが明らかとなりました。また、子宮内膜上皮細胞では、TNF受容体であるCD40の遺伝子もIFNTに依存せずに発現が上昇しており、胚の着床期のエクソソームには、CD40と結合するCD40Lタンパク質が多く存在していました。さらには、胚の着床期のエクソソームは、子宮内膜上皮細胞にて、CD40-CD40Lの下流にあるNF-κBシグナル経路を刺激し、炎症反応を引き起こすことも解明しました。これらのことから、胚が子宮内膜に接着する時期のエクソソームは、IFNTに依存せずに子宮内膜に作用し、炎症反応を起こすことで、子宮内膜の胚の受容能(子宮が着床できるようになること)を調節していることが明らかとなりました。

この研究によって得られた知見は、ウシの受胎率の向上に寄与するとともに人の不妊治療や高齢出産を効率良くかつ安全に行うための重要な技術開発にも繋がると考えられます。須田教授は、今後も東北大学をはじめ複数の研究機関や大学と共同で互恵的に研究を加速し進める予定です。

研究概要

・受賞研究課題「妊娠ウシにおける子宮内エクソソームのIFNT非依存的な効果」
・研究関係者:中村圭吾,草間和哉2,出田篤司3,須田義人4,今川和彦5,堀正敏
1東大院農学生命,2東京薬大薬,3全農ET研,4宮城大食産業,5東海大総農研)

日本繁殖生物学会-発表賞とは

日本繁殖生物学会は、飼育動物、野生動物など主として脊椎動物の繁殖に関する学術研究を振興すること、ならびにその成果の普及を図ることを目的とした学会で、学術集会、学術講演会、総会などを開催する他、機関誌の刊行、繁殖生物学の進歩・発展・普及に貢献した者の奨励及び表彰を行っています。発表賞は、学会大会のうち、特に優れた業績に授与されるものです。

研究者プロフィール


食資源開発学類

食資源開発学類

毎日の食を支える豊かで魅力ある食材をつくろう

私たちの生きる糧である“食資源”をどのように確保するか。
未来に向けた新たな食資源の開発とともに、農畜水産物をより価値の高い食材とするため、
サイエンスとビジネスの両面から“食”を学ぶ。

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