新着情報

23.03.30

生物生産学類の須田教授が4年生と共に豚肉の食味要素であるイノシン酸含有量の光工学的簡易推定法を開発、特許出願

生物生産学類の須田義人教授は、動物の能力や食肉の美味しさを人にとって望ましい方向に遺伝的に改良する研究を行っています。また、ウシやブタの腸管免疫機能を調節する分子メカニズムに関する研究、哺乳動物の妊娠と着床免疫に関する研究、機能性乳酸菌の探索と動物飼料への応用研究の成果を国際学術論文として多く報告しています。このたび豚肉の食味要素として重要視されているイノシン酸含有量の光工学的簡易推定法を卒業生の山田佳音さん(2020年度卒)と共に開発し、特許出願(P22-0003)を行いましたのでお知らせいたします。

豚肉の“美味しさ因子”の有力候補はイノシン酸
美味しい豚肉を一般消費者が選べるようになるには、低コストで評価できる指標が必要

食べ物の美味しさは、個人の好みや調理の仕方、その日の体調など、複合的な要素の影響で感じ方が人様々に異なりますが、その要因のひとつに旨味物質の影響が挙げられます。豚肉に含まれる旨味物質はイノシン酸と呼ばれる核酸関連物質で、このイノシン酸は豚の骨格筋中では、筋肉を動かすエネルギー源となるグリコーゲンの生合成と蓄積を促進する物質としても知られています。加熱をしていない状態でイノシン酸が多く含まれている豚肉ほど調理後に総合的には”美味しい”と感じる傾向があることが明らかになっています。

そう聞くと、私たちの暮らしの中で、店頭でイノシン酸を多く含む豚肉を見わけられたらと思いますが、残念ながら見た目だけでは豚肉の味や硬さは分かりません。「きれいなピンク色で、霜降りが入っている様に見えるから美味しい」思うかもしれませんが、実際は固いものや臭いものもあり、美味しそうに見えると思い込んでいるだけの場合が多いです。

このイノシン酸の含有量を測定する方法として一般的なものは、豚肉サンプルを作り、煩雑な前処理をした後に高価な分析装置を用いて測定する方法が挙げられますが、関連装置を円滑に操作するだけでも、操作トレーニングや知識・経験が求められ、厳密にこのような食味を解析するには非常に手間と時間とコストがかかるのです。もし、豚肉の食味の程度や理化学特性を示して販売したら、豚肉は今の何倍もの値段になってしまうため、現実的ではありません。
できるだけ買いやすい値段で、平均的に美味しい豚肉を店頭で一般消費者が選べるようになるには、低コストで評価できる指標が必要なのです。

光工学的評価値とイノシン酸との高度に有意な関係に着目
光工学的簡易推定法の評価値を手掛かりに、豚肉の美味しさへの貢献遺伝子を探索開始!

須田教授と山田さんら研究チームが開発した評価方法は、イノシン酸の含有量を直接分析するのではなく、イノシン酸含有量と相関性の高い特定の固形成分の濃度に着目したものです。この固形成分は、可視光を透過する際にその濃度や成分の種類に依存して屈折率を変化させるため、光透過屈折率を利用して固形成分の濃度を測定することで、イノシン酸の含有量を推定することができます。

この「光工学的簡易推定法」によって得られた評価値は、厳密な測定評価を行うには十分ではありませんが、豚肉どうしの相対的な比較や概ねの濃度を調べるにはとても汎用性が高いと考えられます。研究チームはさらに、この評価値を応用することで、肉の柔らかさや硬さを表す指標としても有用であることも明らかにしています。この光工学的評価値を上手く利用することで、スーパーなどの店頭で自分好みの食味を持つ豚肉を選択できる日も遠くありません。

須田教授は「今、この光工学的評価値の違いに影響を与える遺伝子を探索することを始めています。この遺伝子が見つかることで、豚肉の育種選抜による遺伝的改良が実現し、好ましい評価値を持つ、つまり人が好む食味を持つ豚肉を安定して生産できるようになると考えられます。実際には、一部の遺伝子ととても関係が深いことが分かってきています。興味のある学生さんは、是非、一緒に研究に取り組んでみませんか?」とコメントを寄せています。

研究者プロフィール

TOP