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25.02.26

事業構想学部卒業生の長谷川尚子さんが「UNCERTAINTY」で第2回GRAPHGATE優秀賞を受賞

事業構想学部デザイン情報学科を2011年3月に卒業し、映像作家として活躍している長谷川尚子さんが、キヤノンマーケティングジャパン株式会社主催の第2回 写真・映像作家発掘オーディション GRAPHGATEで優秀賞を受賞しましたのでお知らせします。

長谷川尚子 - UNCERTAINTY

この作品は「物質の存在と時間」をテーマに、写真のみを素材とした「写真映像」です。舞台や映画を通して「空間も時間も存在しない」という物理学的事実を知ったことで、今までそれらを絶対的なものとして認識してきた自分の脳が信じられなくなりました。物理学者カルロ・ロヴェッリは、存在するのは空間や時間ではなく「出来事」と「関係性」だけであると論じています。未熟な自分の頭では理解しきれないことですが、作品化することでその世界を自分の感覚の中に落とし込んでみたいという衝動に駆られました。

ぼかしにより存在の不確定性を想像し、異なる時間の重なりにより時間の否定を試みたことで、花の生命(出来事)と偶然の重なり(関係性)が生まれました。静止画でも動画でもなく「写真映像」と名付けた表現手法をあえて用いているのは、時間軸が必要な映像でありつつ、単なる時間経過では認識できない物事の捉え方、つまり撮影できない時間性や変化を扱うことにより「物質の存在と時間」について考え、写真の可能性を探りたかったからです。この作品を通し、写真でも人間の目でも見ることのできない世界に思いを馳せ、静かに見つめました。

長谷川尚子

当作品は選考委員から下記のような評価を得ています

藤森三奈氏(編集者・チーフプロデューサー/(株)文藝春秋『Sports Graphic Number』)

自分の表現方法をどうしたらいいか探り、それを表現するためにデジタルとフィルム、カラーとモノクロ、あらゆるものを組み立てていて、クリエイティブな能力がとても高いのではないかと思います。作品が物理的な視点からのアプローチにも関わらず、文学性を感じるものになっていて、それが長谷川さん自身のバランスを表現していると思いますし、バランスが良いだけでなくそれぞれが際立っているので、作家として自信を持って進んでほしいと思いました。

千原徹也氏(アートディレクター/(株)れもんらいふ代表)

映画を見ている時のような感動を感じました。写真だけの構成と、光や構図、一つひとつのディテールの細かさのようなもので人を感動させられるということ、それ自体に感動しました。クリエイティブにしっかり時間をかけて物を作る大切さを映像から感じます。プレゼンで「空間も時間も存在しない」という言葉がありましたが、空間も時間も存在しない瞬間に人は感動するのかなと思いました。そういう時間を感じない時間を感じられる作品をこれからも見せてもらいたいし、本当に素晴らしいと思いました。


にじむ・すける・ぼける・ゆらぐなど「境界が曖昧なもの」
卒業制作をきっかけに「境界」について深く考える中で、新しい表現をさぐる

長谷川さんはこれまで、アクセサリー、写真、映像と様々な制作活動を行ってきましたが、共通して魅力を感じるものは、にじむ・すける・ぼける・ゆらぐなど「境界が曖昧なもの」であると言います。大学の卒業制作で写真作品を制作していたとき、同じ構図でピントの位置を変えた2枚の写真を透明なフィルムにプリントし、それを重ね合わせる作品を制作。「境界」について深く考える中でこのような表現が生まれ、それからはそのようなぼかしたり重ねたりするような表現を続けているそうで、今回の『UNCERTAINTY』においても、ぼかしや透かしの手法が取り入れられています。「制作行為そのものも、感覚として掴めないことと自分の感覚との間を埋めて境界をぼかしていくような感覚で向き合っています。理解できないと初めからわかっていることでも自分なりに向き合ったり、答えのない問いについて深く考えたり、その過程で生まれるものこそ価値のあるものなのではないかと思っています」と長谷川さんは語ります。

作曲家・福島諭氏とイメージを交換し合う中で深められたテーマ

長谷川さんが映像制作に踏み入れるきっかけは、新潟出身の作曲家・福島諭氏のレコード発売に伴ったティザー映像の制作だそうです。写真から映像に展開したのは本作品が初めて。10年前に写真とアクセサリーの個展を開催した際の作品を福島諭氏が覚えていたことが制作の機会につながったそうです。レコードの発売記念公演の際に映像作家として発表するために制作したのが今回の『UNCERTAINTY』。長谷川さん自身がテーマを設定し、福島氏と互いにイメージを交換し擦り合わせながら作り上げました。

長谷川さんは「今回の受賞は、これまでの経験や出会い、数えきれないほどの出来事が繋がり合って得られたものだと感じています。宮城大学での様々な学びは、今の自分の土台を築く大事なものになりました。多くの分野の教授による講義や、デザイナーや建築家といったプロの方々による特別講義を受け、幅広い視点でデザインを学ぶことができました。また、サークル活動やゼミでは実践的な経験を積むことができました。アートスタンダードではフリーマガジン制作を通じて、取材撮影やデザイン編集を学び、光画部では写真展への出展を重ねながら写真表現について試行錯誤を続けました。ゼミでは、一つのテーマについて学生それぞれの視点で作品を制作し、意見を交わす機会がありました。その過程で、正解のない問いに対して深く考えることが、人間だからこそできる豊かさであると実感しました。この気づきは、今も作品制作の原動力になっています。振り返れば、思うようにいかない時期もありましたが、すべては繋がっていて無駄なことは一つもなかったと思えます。私の場合は、魅力的な人の言葉を信じて一歩一歩挑戦を重ねながら好きなことを続けていたら、卒業から十年以上経った今、ようやく実を結ぶことができました。学生の皆さんには、好きなもの、魅力的な人、可能性を感じることには積極的に飛びついて、それぞれの出会いを大切にしながらたくさんの経験を得て、自身を育てていってほしいと思います」と学生たちに向けてコメントしています。

長谷川尚子さんプロフィール

1988年 新潟県新発田市生まれ。2011年3月 宮城大学事業構想学部デザイン情報学科デザイン情報コース卒業。現在、130年以上続く吉原写真館に所属。

祖父の二眼レフカメラを愛用しながら写真作品の発表をする他、2024年 福島麗秋 + 福島諭『Inter-Others』LPレコードのティザー映像の制作をきっかけに、写真のみを素材とした「写真映像」の表現を始める。

2024年 キヤノンGRAPHGATE 優秀賞受賞。

第2回 写真・映像作家発掘オーディション GRAPHGATE

GRAPHGATEは、キヤノンマーケティングジャパン株式会社が主催するコンテストで、作品を “伝える力”を重視した写真・映像作家の登竜門です。作品づくりに強い意志を持った写真・映像作家の発掘を目的として2023年にスタート。通常の写真・映像コンテストとは違い、オーディション形式で行われます。今回は、一次選考、二次選考を経て選出された20名が、9月に実施された三次選考会で選考委員と対面でプレゼンテーションを行い、優秀賞5名と佳作10名が選出。11月にCANON S TOWERにて行われたグランプリ選考会で「今後の作家活動と1年後のキヤノンギャラリー Sでの展覧会構想」をテーマにプレゼンテーションを行いました。グランプリや優秀賞の受賞者には、1年後に約150㎡あるキヤノンギャラリーSや25mの壁面⾧のあるキヤノンギャラリー銀座・大阪での展示を予定しています。

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