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20.05.20
食産業学群 元木助教らにより“商品名の発音“と”味“の関係性が明らかに
「味の印象を形成する感覚間連合の解明」
食産業学群 元木 康介 助教は「食」を主な対象として、外的環境(主に色・形・音・温度といった五感情報)が食や消費者行動に及ぼす影響について研究しています。商品の色、ブランドロゴの形、部屋の温度、広告音声などの多様な五感情報が、いかに食品評価・購買行動に影響するかをこれまで明らかにしてきました。
このたび、東北大学・オックスフォード大学・BIノルウェービジネススクール・武蔵大学との国際共同研究により「“商品名の発音”と“味”の関係性」を、世界で初めて明らかにしました。本研究成果および関連する研究成果については、食心理学分野で最も権威ある国際学術誌「Food Quality and Preference」に掲載されています。
※本誌は食科学分野全体でも, 国際誌のQ1(4分位したときの上位25%以内)に値します。
「感覚間連合」と「サウンドシンボリズム(音象徴)」に着目
世界各地で日々、膨大な量の新商品が発売されています。食品分野も例外ではなく、年間に数多くの商品名が商標登録されています。みなさんも, 食べ物の新商品を目にする機会は多くあると思います。みなさんは商品名などの情報から味を連想し、買ったり, 口にしています。実際に口にした時に予想通りの味だったことや、思っていた味と違うものであった体験はないでしょうか。しかし, 膨大な量の新商品が商標登録されているため, 名前からすぐに味の特徴がわかる商品名をつけることは年々難しくなってきています。これまで、商品名と味の関係はほとんどわかっていませんでした。
図版①実験で用いた架空商品名の一例
今回、この“商品名の発音”と“味覚”の関連性を科学的に解き明かすため「サウンドシンボリズム(音象徴)」と「感覚間連合」という現象に着目しました。この「サウンドシンボリズム」とは、それ自体は意味のない発音からでも、意味が類推できる現象です。
「感覚間連合」とは、異なる感覚(視覚・聴覚・味覚など)が相互に結びつく性質です。例えば、「Mil(ミル)とMal(マル)という二つの単語のどちらか小さいですか?と聞かれると、多くの人はMil(ミル)の方が小さいと答えます。これは「サウンドシンボリズム」を用いた、聴覚(発音)と視覚(大きさ)の連合の一例です。
今回の研究は、この「サウンドシンボリズム」を用いて、実験心理学・音声言語学・食心理学の知見を融合させ、音と味の結びつきを検証しました。
聴覚(発音)と味覚(甘味/酸味/塩味/苦味)はどのように連合するのか
今回の実験には、合計312名が参加しました。実験参加者には、架空の商品名を見て, その味 (甘味/酸味/塩味/苦味) を予想する課題を行ってもらいました。また、課題に使われている発音は音声学的分類に基づき、以下のように母音と子音を操作したものを利用しました。
母音
・「前舌母音(発音の際に舌先が前にくる)」
・「後舌母音(発音の際に舌先が後ろにくる)」
子音
・「摩擦音(声道内に狭い隙間をつくり, その隙間を流れる空気の摩擦により発生)」
・「閉鎖音(声道内を閉鎖し, 呼気の流れを一旦止めることで発生)」
・「無声音(声帯を震わせない)」
・「有声音(声帯を震わせる)」
この実験の結果、消費者は商品の些細な発音の違いから、個別の味を推測していることが明らかになりました。
例えば、摩擦音/無声音([f]や[s])、前舌音([i]や[e])が含まれている商品名からは“甘味”を、閉鎖音/有声音([b]や[g])、後舌音([u]や[o])などが含まれている商品名からは“苦味”を連想していました。また、これまで、「サウンドシンボリズム」の効果は母音が重要だと考えられていましたが、子音の影響がより大きいことがわかりました。
この成果は、食心理学分野で最も権威ある国際査読誌Food Quality and Preferenceに掲載されました。本研究は、感覚間連合と音声学的理論に基づき、音と味の結びつきを世界で初めて明らかにしたものと言えます。この成果により、例えば発音を起点とした効果的な食品ネーミング開発などが可能となるかもしれません。食産業に関わる多くの人々(マーケター、商品開発担当者、シェフなど)が本成果を役立てられるよう、期待されています。
元木助教は「今後も、感覚同士の不思議なつながりを解明し、実生活に役立てる研究成果を発信していきたい」とコメントを寄せました。
研究情報
Motoki K, Saito T, Park J, Velasco C, Spence C, & Sugiura M. (2020). Tasting names: Systematic investigations of taste-speech sounds associations. Food Quality and Preference, 80, 103801.
・筆頭著者:元木 康介 (宮城大学 助教)
・共同研究者:齊藤 俊樹 (東北大学 助教)、朴 宰佑 (武蔵大学 教授)、Carlos Velasco (BI Norwegian Business School 准教授)、Charles Spence (University of Oxford 教授)、杉浦 元亮 (東北大学 教授)
※本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業研究スタート支援JSPS科研費19K23384の助成を受けて実施しています。
研究者プロフィール
・元木 康介(もとき こうすけ):食産業学群 助教
食感性科学、消費者心理学を専門分野とし、食を主な対象として, 心理実験・視線/脳機能計測など多様な手法で研究を進めています。五感・感情が消費者心理に及ぼす影響を明らかにすることで, 感性に基づいたより豊かな食生活の提案と, マーケティング実務への貢献を目指しています。
消費者の心理を捉えて、商品開発に役立てる(シーズ集)
<参考>
・食感性科学・消費者心理学研究室
元木助教は, 本研究に関連する国際ワークショップの共同主催や、国際ジャーナルのトピックエディターも務めています。
・食と多感覚についての国際ワークショップ
(4th Workshop on Multisensory Approaches to Human-Food Interaction)
・国際ジャーナルのトピックエディター
(Research Topic : Perspectives on Multisensory Human-Food Interaction. Frontiers in Psychology/Computer