対談:ブラックボックス化する制御の仕組みを解き明かし未来へ残す

人間の脳が行うあいまいさを伴う判断、行動基準を数式化することで職人技をコンピューターに再現させる「ファジィ推論」。膨大な教師データに基づく機械学習によってもそれは可能となったが、何をもってその判断が行われているかはブラックボックスの中に押し込められ人間のあずかり知らぬところとなっている。その仕組みを人知で解き明かし、人間の意志決定に至る奥深い部分のプロセスを自動化して後世に残そうとする2人の研究者による対談。

蒔苗 私は大学に来る前は地理情報システムの開発や、土木関係のコンピューターグラフィックスに関わる仕事をしていました。1990年代前半は一番コンピューターグラフィックスが注目を集めていた時代です。それと関連して道路の設計支援システムに関する研究に取り組んでおり、その中で道路構造を3次元情報としてどのように作ればよいか、またそれがどういう景観になるかというシミュレーションを行っていました。

最近では、設計者が道路などのいろいろなものを設計するときのノウハウ、知識や知恵をどうやって蓄積していくかを主な研究対象としています。建築でも土木でもどんどん形はできていくのですが、その形をどうやって決めたのかについては、これまでは報告書などで書き残してきましたが、その情報がうまく活用できていない状況です。そこで、それらをデジタル情報化して図形情報と関連させて残すことができないかということをやっています。建築だとBIM(Building Information Modeling)、土木だとCIM(Construction Information Modeling)という情報のモデル化が進んでいますが、それをさらに知的に発展させようというものです。

鹿野(本学鹿野護教授) 大学内では蒔苗先生イコールVRというイメージも強いのですが、VRに関しては今のお話と関連するんでしょうか。

蒔苗 VRは実務でコンピューターグラフィックスをやっていたこともあり、仮想空間の中で3次元設計ができないかということで研究テーマとして1996年くらいから取り組み始めました。航空写真の立体視で頭の中に再現される仮想的な3次元空間中で道路の線形を描く研究をはじめに、大学に来てからはヘッドマウントディスプレイを使って、その中で建物や道路等をつくるシステムを構築していました。VRは学生の研究指導も含め長年にわたって行っていますが、VR自体は1960年代に始まり1990年代には実用化されており、研究としての目新しさはなくなりつつあるのが寂しいところですね。最近では建設現場の映像に合わせて仮想的な設計物を重ねて表示するMR(Mixed Reality=複合現実)もやってみています。

三石 私は大学では数学を勉強して、大学院で情報のコースに進んだのですが、そこで数学好きな先生と出会いファジィ理論に触れました。現在は流通科学大でファジィ理論の数学的な解析や形式化、ファジィ推論の最適化問題の研究をしています。

鹿野 ファジィとはどういうものか、簡単にご説明いただけますでしょうか。

三石 ファジィ推論とは、人の言葉で表現するようなあいまいさを持った概念を、計算機で扱えるように定式化、数値化させる理論です。例えば「スピードが速くて車間距離が短ければブレーキを強く踏もう」と人の考える制御、意志決定があり、そのために最適な距離はどのくらいか、スピードが速いというのは何をもってして速いのか。それはメンバーシップ関数によって定められるファジィ集合というんですが、その目的を達するに最適な解があるという数学的証明を行っています。同時に、その推論過程の数学的性質の解析に関するいろんなものを研究しています。

三石 エアコンでいえば、気温が低いという話と気温が15度以下というのは別の考えで、あいまいさを含んだ数値的なものの概念を、境界がぼやけているという意味でファジィと扱っています。先ほど言った「スピードが速い」といったわれわれの主観的、直感的なものと時速90キロ以上以下という数値を区別して、定式化をもって擦り合わせていく。そういう言葉の制御、意志決定を扱う理論、概念がファジィ推論です。

鹿野 それは、コンピューターが人間的にあいまいな判断をできるようにするための理論ということで合っていますか。

三石 おっしゃる通りです。職人技をコンピューターに再現させる、ということに近いかもしれません。

鹿野 なるほど、分かりやすいですね。三石先生と蒔苗先生の最初の出会いについてお聞かせください。

蒔苗 当時の宮城大事業構想学部デザイン情報学科の情報システムコースの助手として三石先生がいらっしゃったんです。あれは何年くらいですか。

三石 2001年6月から2006年3月の5年弱ですね。その後、流通科学大に異動して10年以上になりますが、大学にサバティカル制度がありまして、留学みたいな形で授業を免除されて研究活動、共同研究を行うことができます。それで今年(2020年)の4月から半年間は宮城大の客員研究員としてお世話になっていました。宮城大にいた頃にステアリング操作の共同研究をしていたのは覚えていますか。

蒔苗 もちろん(笑)ファジィで自動車の運転制御のプログラムを一緒に作って、私は道路関係専門なので、うまく道路線形をファジィで書けないかと研究していました。今回はその延長という形で今の私の研究と合わせて共同研究を行いましたが、新型コロナウイルスの状況もあってなかなか時間が取れなくて、思ったほど進展しなかったのが残念ですね。

三石 それでも今後の研究の可能性を話し合えて、将来的に研究を継続できそうな目途は立ったと思います。​​​​​

鹿野 蒔苗先生の研究にはどのような関心をお持ちですか。

三石 蒔苗先生は何でもかんでも制御する、ということをされていますので、その合間合間にファジィを放り込んでいったら面白いのではないかと思っています。何か入力があって出力することを繰り返されている中に、あいまいさで多少幅を持たせられたらいいかなと。

蒔苗 道路の場所決めにも職人技的なところがあるので、そこを情報化できたらいいですね。

三石 それをif-thenルール(もしXがAならばYはBとするというルール)で残しておくのも一つの方法かもしれません。

蒔苗 そうですね。逆に、今ある道路がどれくらいのパラメーターで作られているのかを(出来上がっている形から)引っ張り出して、それをルール化して、空間的にうまく展開してみたいです。

三石 再現性があるかどうかということですね。

蒔苗 そうです。それをAIのニューラルネットワークに入れてしまうとブラックボックス化して見えないのですが、それよりはファジィの方が理論的には明快ですから。

鹿野 いわゆるAI、機械学習でも人間的なあいまいな判断や表現がもたらされているようにも思いますが、それとファジィの違いは何でしょうか。

三石 AIは圧倒的な情報量でパターンマッチングさせているんだと思いますが、ファジィ理論の場合は情報量が少なくてもできるように設計されている、という建前でやっています。

鹿野 過去の膨大な教師データのようなものがなくても判断できる、と。

三石 そうです。設計段階で目的を最適に与えるものを設計するので、同じブラックボックスでもファジィ推論の場合は制御可能だということです。

蒔苗 もしXがAだったらYはBをする、という基本的なルール自体は人間が全部決めないといけないので、その意味ではエキスパートシステムに近いですね。

鹿野 機械学習だとそのブラックボックスが制御できなくなる。

三石 まさしくブラックになっちゃいますね。

蒔苗 学習データを複雑な回路に入れて、一つ一つのパラメーターの重みをコンピューターが自動的に決めていくのが人工知能、ニューラルネットワークの仕組みで、そこに人間の理解は入り込まない。その重みを決めているのは何だろうかというところで行き詰まってしまうんですね。どの部分に重みがあるかは数値を見れば分かるんですけど、それが実際に何を意味しているのかは分からない。ファジィ推論の場合はそこが明快ではあります。

鹿野 そのファジィ推論を使った共同研究では、お二人はどのように役割分担されるんでしょうか。

蒔苗 以前の共同研究では三石先生が理論的な部分で、私が応用的な部分で、自動車のステアリングの制御が合致するようなルールを決めていきましたよね。

三石 ざっくり言うと、蒔苗先生が車を作って私が運転手になる、みたいなことです(笑)

蒔苗 目標がこの範囲であればハンドルの切り角はどれくらいにするという理論は三石先生が与えてくれて、私はそれを受けて、自動車の制御のアルゴリズムにハンドルの制御量、アクセルの制御量として入れ込む。うまく役割分担して、お互いに組み合わせないと車が走らないことになりますね。

鹿野 それは自動運転の研究ですか。

三石 目標を一つ置いたらそこに行ってくれたので、あれは自動運転と言っていいんですかね。

蒔苗 バーチャルな自動運転ですね。ただ、目的は車を走らせることではなく最適な道路線形を導くことだったので、自動車に搭載することはその当時考えていませんでした。

三石 言われてみればそうですね。

蒔苗 ファジィだとどういう線を描いてくれるかを試していたのですが、その後に自動運転が注目されてきて、しっかりと発表しておけばよかったなと思うことはあります(笑)

鹿野 最後に、それぞれ今後の研究の展望をお聞かせください。

三石 私はファジィ推論とは別に、以前から数学証明の符号化、形式化ということに取り組んでいるんですけれども、その証明が合っているかどうか自動で行ってくれる数学定理の自動証明のプログラムをこの2、3年やろうかと思っています。ファジィ理論の数学的証明を自動的に証明してもらうために、その材料になるようなものを今、こつこつとプログラミング化しています。

決められた通り証明の記述をして、ツールに読み込ませてプログラムを走らせると、ここが合っています、ここが間違っていますと返ってくる。それで理論的にも記述的にも直して全部定理が書けたら、その定理はほかの人も正しいものとして使えるようになり、だんだんライブラリに集まっていくというものです。Mizar(ミザール)という日本とポーランドの共同プロジェクトで、ファジィ関係の定理のアーティクルを登録する作業をしています。

蒔苗 私は先ほども話した通り、設計の知識や知恵を情報として取り込みたいというところで研究を進めています。うまく取り込めたら、やはり自動的に設計するシステムに発展させたいなと考えています。90年代は自動設計が盛り上がって研究も多かった時代で、それ以降、エキスパートシステムや人工知能が出てきましたが、自動設計自体は若干廃れ気味になっている印象です。もう一度人間の知恵を取り込んだ形で考えて、頭の良い自動設計システムができれば面白いかなと思っています。

人工知能だけに頼っていくとブラックボックス化が進んで肝心なところが見えなくなってしまいます。それは本質が見えてこなくなってしまうのかなと思っていて、研究としては、本来の原理を明確にしたシステムを作っていきたいというのが根元にありますね。

鹿野 自動化というところでお二人とも共通していますね。なぜ「自動」がテーマになるんでしょう。

蒔苗 人間の頭を代替して機能的にものを作ることを考えていくと、自動的に組み立てられるところを自動化しようというのは、コンピューターを使っている以上は目指したいところですよね。

三石 おっしゃる通りで、知識の保存はもうすでに終わっていて、知恵や技能、人間が意志決定する奥深いところのプロセスをいったんパソコンや計算機などで代替してあげることが自動化だと思います。自動的に計算機で表現できればそれは未来永劫(えいごう)残っていくわけで、大げさですけども、そういう人類の財産のようなものを残していきたい。こんなことは考えたことはなかったですが、話していて今思い付きました(笑)

蒔苗 設計側からいけば自動化することで効率化することもありますし、より設計物の品質が上がり、いろんなミスがなくなることにつながります。それには既存のものを平均化してもできないので、いかに最適なものを導き出すかは、こちらで知恵を入れ込まなければいけないところですね。その仕組みがうまくできれば、より良いものにつながっていくことが期待できます。

ただ、それができればできたでみんな中身を知らずにそれを使ってしまう。またブラックブックス化が生じて、人工知能と同じようなことになってしまうので、そこはトレードオフの関係になるんでしょうね。

構成:菊地正宏(合同会社シンプルテキスト)/撮影:株式会社フロット


プロフィール

宮城大学大学院 事業構想学研究科 教授 蒔苗 耕司

1987年横浜国立大学教育学部卒業、1990年同大学教育学研究科修士課程修了(教育学修士)、1998年東北大学にて博士(情報科学)取得。株式会社パスコのシステム技術事業部、株式会社日本能率協会総合研究所、パシフィックコンサルタンツ株式会社首都圏事業本部(東京本社)道路部を経て、1997年より宮城大学助教授、2005年より同教授。空間情報システムを中心に、社会インフラや道路交通を主たる対象としてICTを高度に活用した空間情報システムの構築や建設情報マネジメントに関する研究を行っている。現在、土木学会土木情報学委員会委員長を務める。

非常勤講師 流通科学大学 教授 三石 貴志

1995年明治大学理工学部数学科卒業、2001年信州大学工学系研究科システム開発工学修了(博士(工学))、宮城大学事業構想学部助手を経て、2006年より流通科学大学情報学部講師、2013年より現職。応用数理工学を専門として、ファジィ理論の周辺分野を対象に最適化問題やファジィ推論を用いた意思決定手法、ファジィ理論のMizar言語による形式化に関する研究を行っている。主な研究として「極座標上の周期関数型メンバシップ関数の非ファジィ化の連続性を用いた最適化問題(科学研究費2018年-2020年)」、「周期関数型メンバシップ関数の極座標表示と非ファジィ化の提案(科学研究費2012年-2013年)」など


MYU Dialog

宮城大学大学院事業構想学研究科の情報デザイン領域では、学外からゲストを招いた特別講義を開講しています。これは専任教員と非常勤講師の専門性を重ね合わせることで生まれる知見を学ぶ機会をつくるとともに、今後の教育・研究や社会活動に接続することを目的としています。


事業構想学研究科について

事業構想学研究科は、全領域で地域現場と密着した実践教育を行うとともに、研究者志望の者には特に研究能力の養成を重視します。専門領域として以下の領域を設置しています。
・博士前期課程:ビジネスマネジメント領域/空間デザイン領域/ビジネスプランニング領域/情報デザイン領域
・博士後期課程:産業・事業システム領域/地域・社会システム領域
また、学卒者・修了者と社会人の両方を対象にした高度な専門職の教育を行っていますので、社会人在学生の割合が高いことが特徴です。社会人の方への配慮として社会人特別選抜や長期履修制度が用意されています。最新の募集要項は以下のリンクに掲載しています。

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