対談:テクノロジーを面白さに変え、メッセージを届ける

「魔法感」をキーワードに人とコンピューターをつなぐインタラクションを研究する本学鈴木優准教授と、インタラクティブな映像を通して人にストーリーを届ける作品を手掛けるワウ株式会社(WOW)アートディレクターの工藤薫氏による対談。鹿野護教授の質問を交えながら2人が語ることから、アプローチや目的は異なるものの、テクノロジーを面白さに変え、体験者に何かを伝えることにおける重要なポイントが共通項として浮かび上がっていく。

鈴木 工藤さんとはこれまで何回かお会いしたことはありましたが、ちゃんとお話ししたことはなかったですよね。今日あらためてお話を聞いてみると、デザインに対する思想や考え方が似通っているのかなと思いました。僕がざっくりと「魔法感」という一言で表現していることを、工藤さんは「世界観の構築」「表現・体験のデザイン」「技術のデザイン」という言葉で、かみ砕いて説明していただいていると感じました。

工藤 その3つのポイントが鈴木先生のお話と本当に似ていて、でもちょっとだけ違うところもありました。徹底的に問題提起があって、その問題を解決するためのインタラクションデザインを鈴木先生は学生と一緒にされているのが印象的で、自分たちは商品を魅力的に伝えるために商業ベースで作品をつくっている。時にエンターテインメントの要素も含めながらクライアントさんの要望に応えるようなプロジェクトが多く、問題解決ということをそこまで積極的にやっていないかもしれないと思いました。

鈴木 僕は学術的な分野で、工藤さんは産業界でされていることの違いから、具体的に問題解決しようとするのか、プロモーションなのかという違いが生まれているんでしょうね。

工藤 はい。何かを解決するためのオリジナルワークにもっとチャレンジしていかないとな、とあらためて感じました。今日紹介した「BAKERU」や「POPPO」など、社会とつながるような作品づくりも少しずつできてきたと感じていますが、まだまだ足りないと思っているので、勉強になりました。

鈴木 鈴木研究室でも年に1回インスタレーションをやってきて、それを1回で終わらせるのではなくて展開していきたいと思ってます。この後どうしていけば、もう少し世の中に認識されたり発展できたりするのかということを考えているのですが、WOWの作品はうまくいろんなところに展開されていますよね。

工藤 オリジナルで自分たちの作品を展示することがきっかけで、それを誰かが見てくれていて、次のお話を頂くという流れが多いですね。「BAKERU」は東京で展示したら外務省の方が見に来てくれていて、ジャパン・ハウスでやったら面白いかもしれないと思ってもらえてお声掛けいただきました。

鈴木 展示することで次につながっていくんですね。

工藤 はい。WOWは映像やインスタレーションの世界では少しは知ってもらえていると思うので、展示をすればアンテナを張っている人は見に来てくれます。どこでもいいから、とにかく発表することが大事かなと思います。

鹿野 私から一つ質問です。鈴木先生がレクチャーの中で「デザインは体験に移りつつある」と語られていました。テクノロジーを面白さに変えることについて、おふたりはどういうふうに考えていますか。

鈴木 認知心理学で「メンタルモデル」という言葉があります。一人一人が持っている物の使い方のイメージや、これはこうなるんじゃないかというイメージのことですが、イメージのままのことが起きると、「やっぱりそういうことね」となって何の驚きもない。そうではなくて、体験する人がどういうメンタルモデルになっているのかをしっかりと考えて、そこをちゃんと外してあげるような、行為と結果の意外性を持たせるところが、面白さやわくわく感、僕の言う「魔法感」につながるのではないかと思っています。

工藤 意外性というのは自分も共通する部分です。何か新しいテクノロジーができたら、それにビジュアルを掛け合わせて何か表現できないかと考えていくのですが、完成したときにはコンセプトやストーリーの裏側にテクノロジーが隠れて見えなくなっていると、作品としてはいいものになっている印象があります。テクノロジーがうまく隠れるような世界観を構築すること、テクノロジーを透明化させることを意識しています。

鈴木 それはすごく大切なことだと僕も思っています。ある大型テーマパークではテクノロジーがしっかり隠されていて、見えない形でいろんな映像表現や体験を提供してくれていたのですが、別のテーマパークではそれが見えてしまっていたことがありました。仕掛けが動くときに、後ろにあるロボットアームが見えちゃっていて。

工藤 それはちょっと残念な気持ちになりますね。

鈴木 夢から覚めちゃう、みたいな感じですよね。だからそこはとても大切だと思います。

工藤 素のこけしに映像を投影する「YADORU」という作品を山形の文翔館で展示した時に、本当に絵柄が動いていると勘違いしているおばあさんがいて、「死ぬ前にこんなものが見られて良かった」なんて言って手を合わせているところに遭遇して……これはありがたいなと。そういう感じで鑑賞者に技術を使っているのが隠れている状態でちゃんと見せられたら成功かなと思いますね。まあ、見る人が見れば分かりますし、「あそこだな」と探して見つけてしまう人もいますけど。

鈴木 探しちゃいますよね。

工藤 自分もそうは言いましたけど、ほかの展示に行くと見ちゃいます(笑)

鈴木 そういう意味で言うと、単純なプロジェクションマッピングみたいなものはもう技術的には枯れていますし、それを見たところで、当たり前すぎてたぶん誰ももう驚きはしませんよね。

工藤 はい。

鈴木 僕らの分野の研究のトレンドでもあるのですが、僕自身がいまは「フィジカル」をとても大切にしています。「身体的な」という意味と「物理的な」という意味もありますが、例えばインタラクションするときに物理的なものがあるとないとではやりやすさの違いもあるし、物があるだけで手に取ってコントローラーになりそうだなというのが分かる。物理世界においては物と人との親和性はとても高いはずです。だから鈴木研究室では、学生が卒業研究で行う研究テーマもフィジカル寄りのものが多くなっています。

工藤 自分たちはそのフィジカルに寄るというところがちょっと苦手だと思うんです。映像デザインはしょせんはデータなので、スイッチを入れれば華やかな世界が広がるんですけども、消してしまえば何もなくなってしまう。実体に迫りたい、リアルな感覚に迫りたいという欲求は常に持っています。それで自分の場合は「BAKERU」ではお面というフィジカル、物を通して体験できることにトライしました。物質に迫りたい欲求は自分だけでなく、映像をやっているクリエイターみんなにあるんじゃないかと思います。

鈴木 「テクノロジーを面白さに変える」ことについてはもう一つ、「エンターテインメントコンピューティング」という学術領域があります。何かゲームをしたり体験したりして、これは面白いなというとき、その面白さを説明することって、なかなか難しいんです。それをしっかりと分析したり、数で表したり、エンターテインメントを定量的に評価できるような形にしようということで、研究が行われています。

工藤 エンターテインメントは領域が広いなと自分は思っているんですが、鈴木先生はどういうものだと考えておられますか。

鈴木 難しいですね。アートと似ているようでもあり違うようでもあり。アートの場合はわりと、感性や感覚で理解するところがありますよね。その感性がないと理解できないようなものも含まれます。エンターテインメントはそれとは違って、面白さを感性ではなくロジカルに説明できる。だからこそいろんな人が楽しめるのではないでしょうか。言葉でロジカルに説明できるような面白さが含まれているようなものがエンターテインメントなのかなと思います。

工藤 自分も近いことを感じていました。単純に面白さが詰まっているものだとすれば音楽も映画も広く言えばエンターテインメントで、そこにメッセージ性みたいなものが加わってくると、アートに振れてくるんじゃないかなと考えています。自分はエンターテインメントのものづくりもアート作品的なものづくりもどちらも興味があって続けていますが、最近はそういうメッセージや作品の裏側にある背景やストーリーがちゃんと入っている作品づくりをしたいと思うようになってきています。

鈴木 そのために、実際に職人さんのところに話を聞きに行くなど、しっかりとリサーチをされていますよね。メッセージを詰め込むためにはものすごく重要な作業だと思います。

工藤 はい。いろんな人にお話を聞いたり、実際に出向いてどういうものかを感じ取ったり、裏側の部分を掘り下げるには、そうしたフィールドワークがすごく大事です。メッセージやストーリーを込める作品づくりにおいては、一番重要かもしれません。

鹿野 その話に関わることですが、一方で工藤さんは、どれだけ面白いストーリーや体験があったとしてもビジュアルデザインが駄目だと入ってこないともおっしゃっていました。どうやってその精度を上げていますか。

工藤 7〜8割まで完成度を高めて、残り2割ぐらいをいかに詰められるかが重要で、100はないけれどもそこまで限りなく近づける作業を、妥協せずにやるというのがポイントだと思います。これはまさに鹿野先生に教えられたことですが、「自分がクライアントになりなさい」と。クライアントが納得したら終わりではなくて、自分がクライアントになったつもりでデザインをする。ただし、時間には限りがあるので、どこを完成とするか見極めも重要にもなりますね。

ただ最近は、精度を高めることはもちろん大事だけれども、その作品やコンテンツで伝えたいメッセージがちゃんと伝わっているかの方がより大事かなと思っています。まずそれをクリアできているかどうかが大前提で、それにビジュアルのデザインがしっかりひも付けば完璧、という順番で。いくら見た目が美しくても、そのメッセージが全然伝わっていないコンテンツだったら意味がないと思ってつくっています。

鹿野 最後に、おふたりの領域は今後こんなふうに進んでいくだろうという未来予想をお聞かせください。

鈴木 僕らがやっているヒューマン・コンピューター・インタラクションの分野は、人とコンピューターをつなぐインターフェイスや、そこで発生するインタラクションを研究するというのが元々の分野としてありました。例えばスマートフォンなどで行われているマルチタッチ操作も、元々はその研究分野から生まれて、一般化して広がっていきました。それを突き詰めていくと、人とコンピューターの間にあるインターフェイスは物理的なものも含め全て取っ払われるような未来が、おそらくいつかは来ると思います。

それがテレパシーみたいなものなのか何かはまだ分かりませんが、それに至る過程として音声認識の技術でコンピューターに指示を出したり受け取ったりということがすでに行われていたり、ある研究者は網膜に対して直接映像を投影することもしています。コンピューターが人間に埋め込まれることはなくても、人とコンピューターの境界面は限りなくゼロに近づくのではないかと思います。それが人類にとって幸せかどうか、という問題もまた別にありますが。

工藤 自分のやっている分野では1年後にはもうなくなっているような技術もたくさんあって、例えば数年前までテレビの解像度はフルHD、1920×1080の解像度だったのがいま4K8Kというのが当たり前になってきていて、それにも見慣れつつある。そうやってテクノロジーはどんどん淘汰(とうた)されて新しいものが生まれていって、自分たちがそのトレンドをしっかり抑えながら表現していかないと置いていかれるなと感じています。

CGの世界で言うと、いまリアルタイムレンダリングが普通になりつつあって、人間がやる作業がどんどん減ってきています。そうやってどんどん進化していったときに、使う側の人間のアイデアというのがこれまで以上に重要になってくるかなと思っています。同じようなクオリティーのものが誰でもつくれるようになると——すでにそうなってきていますが、どういう発想で、どういうメッセージで作品をつくるかという人間の発想の部分がより大事になると思います。

鈴木 技術の部分は基本的にコンピューターにお任せで、どういったものをつくりたいかを考えていく能力の方が大切となっていくということですね。全く同感です。

構成:菊地正宏(合同会社シンプルテキスト)/撮影:株式会社フロット


プロフィール

宮城大学大学院 事業構想学研究科 准教授 鈴木 優

1984年生まれ。2011年筑波大学 大学院システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 博士後期課程修了。博士(工学)。2011年京都産業大学コンピュータ理工学部特約講師。2013年宮城大学 事業構想学部助教。2018年より准教授。博士後期課程在学中は、筑波大学グローバルCOEプログラムの研究補助員として、人・機械・情報系の融合複合に関する研究に従事。現在は主に、人・モノとコンピュータを繋ぐディジタルメディアの可能性をヒューマン・コンピュータ・インタラクションの観点から探求し、その開発や応用を通じて人・モノとコンピュータの関係性をデザインする研究に従事。学会活動では、情報処理学会論文誌特集号編集委員長や同学会ヒューマンコンピュータインタラクション研究会幹事、その他多数の運営委員などを務める。シーズ:心や身体を動かすメディア・インタラクション技術の研究とプログラミング教育

非常勤講師 ワウ株式会社 取締役 工藤 薫

1979年3月9日生まれ。東北芸術工科大学卒。広告映像から、展示スペースにおけるインスタレーション映像、メーカーと共同で開発するユーザーインターフェイスのデザインなど、さまざまな分野のビジュアルデザインを手がける。近年はWOW創業の地である仙台を拠点に、東北に根付く歴史や文化を見つめ直し、新たな解釈と表現を加えた作品作りを積極的に行っている。新しいアートやデザイン、価値観を仙台から発信しようと、映像デザインの可能性を追求している。山形県内の文化施設にて、郷土のつくる、みる、あそぶを体験するデジタルアートの展覧会「POPPO展」を手掛けるなど、東北に根付く歴史や文化を見つめ直し、新たな解釈と表現を加えた作品作りを積極的に行っています。


MYU Dialog

宮城大学大学院事業構想学研究科​​​​​​​の情報デザイン領域では、学外からゲストを招いた特別講義を開講しています。これは専任教員と非常勤講師の専門性を重ね合わせることで生まれる知見を学ぶ機会をつくるとともに、今後の教育・研究や社会活動に接続することを目的としています。


事業構想学研究科について

事業構想学研究科は、全領域で地域現場と密着した実践教育を行うとともに、研究者志望の者には特に研究能力の養成を重視します。専門領域として以下の領域を設置しています。
・博士前期課程:ビジネスマネジメント領域/空間デザイン領域/ビジネスプランニング領域/情報デザイン領域
・博士後期課程:産業・事業システム領域/地域・社会システム領域
また、学卒者・修了者と社会人の両方を対象にした高度な専門職の教育を行っていますので、社会人在学生の割合が高いことが特徴です。社会人の方への配慮として社会人特別選抜や長期履修制度が用意されています。最新の募集要項は以下のリンクに掲載しています。

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