新着情報
20.10.28
食産業学群元木助教らによる「昆虫食」への挑戦
食産業学群では, 特別推進研究(嗜好性、機能性および大量生産性を兼ね備えた「昆虫食」に関する基盤研究)の一環として, 昆虫食に関する心理的因子の解明に尽力してきました。このたび, 元木 康介 助教・石川 伸一 教授らは, 「食環境」(誰と食べるか/どこで食べるか)で、昆虫食の摂食意向が変わることを示しました。なお, 本研究は、オックスフォード大学、BIノルウェービジネススクールとの共同研究です。
本研究成果および関連する研究成果については、食心理学分野で最も権威ある国際学術誌「Food Quality and Preference」に掲載されています。※本誌は食科学分野全体でも, 国際誌のQ1(4分位したときの上位25%以内)に値します。
未来の食として注目されつつも、まだ心理的な抵抗が多い「昆虫食」
昆虫食は, 持続可能な未来の食として世界的に注目されており、将来不足することが予想される畜産物など動物性たんぱく質の代替食品として期待されています。国内では、イナゴの佃煮や、トンボの黒焼きなど伝統的な昆虫食があり、最近では, 大手企業が昆虫食に参入するといった動きも見られるほど、昆虫食はますます関心を集めています。
しかし, まだまだ昆虫食に対しては, 嫌悪感など心理的な抵抗を示す人が多いというのが現状です。これまで昆虫食の見た目や味付けなど様々な観点からの研究が行われてきましたが, 昆虫食を促進する要因についてはまだまだ理解が進んでいません。
“食べる環境”で昆虫食の摂食意向は変わるのか?オンライン調査を実施
本研究では, 昆虫食を促進する要因として, 食環境に着目しました。食環境とは,「誰と食べるか/どこで食べるか」といった, 食品選択に影響する外的な要因です。
研究グループは, この食環境と感情の関係を探りました。感情は、“感情価(快-不快)”と“覚醒度(覚醒度高-低)”の二次元に分類できます。例えば、友人と食べる, フェスティバルや居酒屋で食べるといった行為は, どちらかというと快/高覚醒度の感情(楽しい/ワクワクする)が関係します。一方で, 一人/家族/恋人と食べる, バー/カフェで食べるといった行為は, どちらかというと快/低覚醒度(落ち着く/ロマンチック)の感情が関係します。
研究グループは, オンライン調査を行いました。調査参加者は, 様々な食環境において, 昆虫食(例:ミールワームバーガー)や通常食品(例:ビーフバーガー)の摂食意向について回答しました。調査1では, 「誰と食べるか」という社会環境を, 調査2では, 「どこで食べるか」という物理環境を, 調査3では両方の環境(「誰と食べるか」「どこで食べるか」)の影響について調べました。
友人、居酒屋、フードフェスティバルなど, 楽しい/ワクワクする状況で, より昆虫食を食べたくなる
結果として, 「誰と食べるか」については, 友人(vs. 一人/恋人/家族/知人)と食べる場合に, 昆虫食の摂食意向が増加していました。「どこで食べるか」については, フードフェスティバル/居酒屋(vs. バー/カフェ)で食べる場合に, 昆虫食の摂食意向が増加していました。また, 友人/フードフェスティバル/居酒屋それぞれにおいて, 快/高覚醒度の感情(楽しい/ワクワクする)を予期している人ほど, 昆虫食の摂食意向が増加していることもわかりました。
今回の調査から, 昆虫食を促進する食環境が明らかになりました。「誰と食べるか」・「どこで食べるか」どちらの場合でも, 快/高覚醒度の感情(楽しい/ワクワクする)が重要であることがわかりました。例えば, 友人/フードフェスティバル/居酒屋では, 他の食環境よりも昆虫食の摂食意向が高いことがわかりました。
この成果は、昆虫食を普及させていくに当たり, 適切な食環境を作り出す指針になると期待できます。また, 広告戦略といった昆虫食のマーケティング活動においても, 本研究成果の応用が期待できます。元木助教は「今後も持続可能な食の未来を目指した研究を行っていきたい」とコメントを寄せました。
研究情報
本研究は、平成31年度宮城大学教員研究費(特認研究)として実施されています。
研究課題名:嗜好性、機能性および大量生産性を兼ね備えた「昆虫食」に関する基盤研究
Motoki, K., Ishikawa, S., Spence, C., & Velasco, C. (2020). Contextual acceptance of insect-based foods. Food Quality and Preference, 103982.
研究者プロフィール
・元木 康介(もとき こうすけ):食産業学群 助教
食感性科学、消費者心理学を専門分野とし、食を主な対象として, 心理実験・視線/脳機能計測など多様な手法で研究を進めています。五感・感情が消費者心理に及ぼす影響を明らかにすることで, 感性に基づいたより豊かな食生活の提案と, マーケティング実務への貢献を目指しています。
消費者の心理を捉えて、商品開発に役立てる(シーズ集)
<主な論文>
・Motoki, K., Saito, T., Nouchi, R., Kawashima, R., & Sugiura, M. (2018). Tastiness but not healthfulness captures automatic visual attention: Preliminary evidence from an eye-tracking study. Food Quality and Preference, 64, 148-153.
・Motoki, K., Saito, T., Park, J., Velasco, C., Spence, C., & Sugiura, M. (2020). Tasting names: Systematic investigations of taste-speech sounds associations. Food Quality and Preference, 80, 103801.
・Betancur M, Motoki K, Spence C, & Velasco C. (in press). Factors influencing the choice of beer: A review. Food Research International.
<参考>
・食産業学群 元木助教らにより“商品名の発音“と”味“の関係性が明らかに
・食感性科学・消費者心理学研究室
元木助教は, 本研究に関連する国際ワークショップの共同主催や、国際ジャーナルのトピックエディターも務めています。
・食と多感覚についての国際ワークショップ
(4th Workshop on Multisensory Approaches to Human-Food Interaction)
・国際ジャーナルのトピックエディター
(Research Topic : Perspectives on Multisensory Human-Food Interaction. Frontiers in Psychology/Computer
・石川 伸一 (食産業学群 教授)
「食べものの中の機能性成分って具体的に何?」「調理方法によって料理のおいしさがどのくらい変わる?」「食べた栄養素は体にどんな影響を及ぼすの?」といった食品学、調理学、栄養学の「なぜ」を分子レベルで調べる研究を行っています。「どうして」のメカニズムの解明から、エビデンス(科学的根拠)に基づいた新しい食品の開発を目指しています。
<主な著書>
「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ
私たちがふだん何気なく食べているごはん。そこには、壮大な物語が眠っている。食材を生産、入手するための技術、社会が引き継いできた加工や調理の方法、文化や宗教などによる影響……。人間は太古の昔から長期間にわたって、「食べること」の試行錯誤を重ねてきた。その食の世界が今、激変してきている。分子調理、人工培養肉、完全食の「ソイレント」、食のビッグデータ、インスタ映えする食事……。こうした技術や社会の影響を受けて、私たちと世界はどう変わっていくのだろうか?気鋭の分子調理学者が、アウストラロピテクスの誕生からSFが現実化する未来までを見据え、人間と食の密接なかかわりあいを描きだす。
・出版社:光文社
・出版年月:2019年5月22日
・ISBN-10: 4334044115
・ISBN-13: 978-4334044114
・著者名:石川 伸一(食産業学群 教授)