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21.12.24
東日本大震災から10年、NPOと企業寄付、ボランティア、政策起業家に関する研究成果をJDRに報告/石田祐研究室/事業構想学群
事業構想学群 石田 祐 研究室では、学外研究者や公益財団法人実務者との共同研究により、災害復興をはじめ、民間企業がどのように寄付を行うのかについて分析を進めています。また、NPO実務者であり宮城大学の大学院生である2名との共同研究により、災害ボランティアが若者の価値観に与えた影響や、復興を進める政策を提案し事業化する政策起業家に関する研究を進めています。
このたび、石田研究室で取り組んでいる「災害復興と企業寄付」「災害ボランティアと幸福」「災害復興政策とNPOの関係」に関する3つの論文を、英文学術雑誌Journal of Disaster Research (JDR)に発表しました。
災害復興と企業寄付について、増加傾向にある「みちのく未来基金」の調査から分析
近年、CSR(Corporate Social Responsibility)、ESG(Environment・Social・Governance)、SDGs(Sustainable Development Goals)など、民間企業も社会課題解決に寄与することが期待されるようになっています。企業による寄付行動もそのうちの一つであり、災害復興においては、行政の手が届かない被災者支援活動を行うNPOの活動資金確保を支えることを通じて、復興を促進する役割を果たします。
その一方で、一般的には、災害寄付は時間が経過するにつれて減少する傾向が見られます。企業寄付の行動要因を検証することは、民間セクターの災害復興への影響を明らかにするものといえますが、個別企業の行動データが不足していることから、このような検証はほとんどなされていません。
今回の研究では、公益財団法人みちのく未来基金(以下、基金)との共同研究により、継続的に寄付を行っている企業の意思決定者へのインタビュー調査が実現しました。当該基金は、東日本大震災で親を亡くした子どもが高等教育を受けられるよう学費全額を支援しています。しかし、この基金への寄付は減ることがなく、増加傾向にさえあり、稀有な事例として捉えられます。全国からこの基金に継続的に寄付をしている12社を選び、当該基金へ寄付をするきっかけや継続理由などを聞き取り、寄付の内容や寄付を受ける団体の要素に着目しながら質的分析を行いました。
災害ボランティアと幸福、政策起業家とNPOの関係を実践の中で考察
先の震災でも見られるように、多くの若者が被災地で災害ボランティア活動を行いました。災害ボランティアは、災害復興において数多くの人々が自発的な活動として行っており、辛いことも含めて被災地において大きな力となっています。災害ボランティアとして参加した個々人の単位で見ると、中には被災地に留まって継続的に災害復興支援活動に従事する人々も見られますが、ほとんどのボランティア従事者は元の生活に戻ります。そのため、災害ボランティアに参加した経験が、その後の生活や価値観にどのような影響を与えたかについては明確になっていません。
その一方で、このような若者の中にはNPOなど組織を通じた活躍も多く見られ、中には地域の行政との連携や協働、あるいはアドボカシーや提言を進め、それらを起点とした新たな制度や事業の設置や、事業や予算の修正を受けて、地域での新たな事業を展開する政策起業家も生まれています。
災害ボランティアと幸福、そして政策起業家とNPOの関係を考察することは、NPOやボランティアが災害復興支援でいかに資源を獲得することができるか、また人生の価値観や生きがいなど持続的な幸福にどのような影響を受けるか、被災地の復興や地域の活性化をもたらす環境整備や方策を構築するきっかけとなります。
今回の研究では、東日本大震災の発災直後に関東から気仙沼や陸前高田にボランティアとして駆けつけ、NPOを設立し、そして現在宮城大学の大学院に通う2名との共同研究として、いずれも震災復興過程でそれぞれが経験したことを問題関心に、実践的な問いを立てました。長期的あるいはユーダイモニックな幸福研究の理論をもとに、災害ボランティアに携わった若者の価値観の変化、人生の熟慮、そして幸福感の変化の可能性をインタビュー調査から考察しています。
災害大国である日本において、次の災害に備えるために
災害研究には様々なアプローチがあり、災害大国の日本では多くの検証がなされています。今回取り組んだ3つの研究対象はいずれもまだ未着手の部分が多い研究です。これらの研究成果は、災害大国である日本において、市民社会がいかに反応し、復興に寄与する方策を検討することにつながります。
石田研究室では、今後も民間企業の社会貢献を促進する要因や、NPOが社会課題を解決する政策起業という手段を解明することで、学術的な貢献とともに、地域のイノベーションをデザインするヒントを得たいと考えています。
指導教員プロフィール
・石田 祐(いしだ ゆう):事業構想学群 教授
NPO、寄付、ボランティアをキーワードに、地域課題解決やNPOマネジメントの実践的研究を進めています。