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26.01.05

小林教授・森本教授らグループが取り組む「ウシの妊孕性向上のためのデバイス」について特許登録/食産業学群

食産業学群の小林仁教授、森本素子教授らのグループが研究開発を進めてきた「卵巣刺激器具及び卵巣刺激方法(特許第7751850号)」が特許登録されました。この研究は、日本中央競馬会畜産振興事業(第一期2019年度~2021年度、第二期 2022年度~2024年度)に採択され、ウシの妊孕性向上を目的として、第一線で活躍する生殖医療および医工学の研究者と協働し、宮城大学が事業実施主体となって進めてきた研究の成果です。

ウシの卵巣内に休眠している卵胞を活用できないか

畜産分野では親牛の血統が子牛の価値を大きく左右します。良い肉質や高い乳量の牛から生産される受精卵から子牛を産ませることで、高能力牛の生産が可能となるため、こうした受精卵の需要は高く、高値で取引されています。このため、1頭のウシからたくさんの子牛を生産する技術に注目が集まっています。小林教授らは、卵子を大量に生産するための新たな方法を開発しました。

ウシは生涯に数回から十数回の妊娠・分娩を行います。ウシは一度の妊娠で1頭しか子牛を生まないので、通常の分娩で残せる子孫の数は限られています。一方、ウシの体内には、未熟な卵子が含まれる原始卵胞が数万個存在しており、たくさんの卵子を生産するための予備能を備えています。動物の繁殖技術には、下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)を用いて卵胞発育を人為的に促進し、排卵数を増やす処理(過排卵処理)が行われています。過排卵では、1度に数個から十数個の受精卵を採取することができます。しかし、過排卵処理で使うFSHが有効なのは、成熟が進んだ胞状卵胞だけであり、胞状卵胞数が個体によって変動するため過排卵処理によって排卵する卵子数が大きく変動することが課題でした。我々は、卵巣内に休眠している原始卵胞、一次卵胞や二次卵胞などの初期卵胞に注目しました。これらの初期卵胞の中には、休眠して、卵巣内に残存している卵胞も多くあり、これらの発育を活性化することで、たくさんの卵子を生み出し子牛の生産につなげられないかと考えました。

休眠した卵胞を活性化する試み

卵巣内には、休眠した卵胞が多数保存されていることはよく知られていましたが、休眠したウシ卵胞を活性化する方法については明らかになってはおりませんでした。そこで、注目したのは2013年に河村(当時聖マリアンナ医大准教授)らが報告したヒト休眠卵胞の活性化試験です。河村らが行った方法は、早発閉経を発症したヒト卵巣の一部を体外に取り出し、小断片化して48時間培養した後、再び卵巣に自家移植する方法でした。自家移植した卵巣断片から発育を再開した卵胞が観察され体外受精を行うことで嬰児を得ることにも成功し、休眠卵胞の人為的活性化が可能であり、正常な産仔を得られることも証明されました。小林教授らは、この休眠卵胞の活性化をウシで行えないかと考ましたが、この休眠卵胞の活性化には2度の外科的手術を伴うことから、そのままでは家畜への応用は難しいことも明らかでした。そこで、ウシのための新たな卵胞活性化の方法の開発を行うために、医療の分野から河村教授(現順天堂大学)、医工学の分野から池内教授(現東京科学大学)を迎え入れ、卵胞活性化プロジェクトを立ち上げ研究を開始しました。

「Hippoシグナル」を抑制することで「卵胞活性化」をおこす

細胞を培養すると、はじめは細胞増殖が亢進しますが、細胞がある程度以上増えだすと徐々に増殖は緩やかとなり、さらに細胞が密となり細胞同士の接触が増えると細胞増殖を停止することが知られています。これは「Hippoシグナル」という、細胞の過度な増殖を抑制し、器官のサイズを適正に保つための伝達回路が関係しています。成熟した卵巣は通常Hippoシグナルが制御して一定に保たれていますが、小断片化することでこのHippoシグナルが抑制され、休眠していた卵胞が活性化すると考えられます(kawamura et al., 2013)。

小林教授らは、卵巣の一部組織を小断片化する代わりに、生体内の卵巣に多数の穿刺を行うことで組織間に断裂を作り、断片化に近い状態を作り出し、生体内で卵巣のHippoシグナルを切断できるのではないかと考えました。そこで、ウシ卵胞表面に近い皮質部分に複数のマイクロニードルで穿刺刺激を与え、Hippoシグナルを抑制することで卵胞数の増加を誘導する卵巣刺激器具を開発に至りました。検証を繰り返した結果、安全性や効率の向上が示されており、これらのデバイスについて特許申請を行い、今回特許査定されました。

「卵胞活性化による妊孕性向上プロジェクト」では、2022年度からの畜産振興事業にも採択され、ウシを対象に物理的な刺激による活性化だけでなく、液性因子による卵胞活性化の方法についても検討していく予定です。今後は卵巣穿刺器具の活用の範囲を広げ、卵巣機能が低下した卵巣の賦活法としの活用も検討していくことで、産業動物だけでなく生殖補助医療の分野でも妊孕性向上に貢献していきたいと考えています。

日本中央競馬会畜産振興事業について

日本中央競馬会では、日本中央競馬会法第19条第4項の規定に基づき、農林水産大臣の認可を受け、本会の剰余金を活用して、畜産の振興に資することを目的とする事業に助成を行う法人に対して、資金を交付しています。採択事業の実施主体に対しては、本会より畜産振興事業資金の交付を受けた公益財団法人全国競馬・畜産振興会より助成が行われます。

日本中央競馬会畜産振興事業

研究者プロフィール

左から
横尾正樹(秋田県立大学准教授)、河村和弘(順天堂大学教授)、森本素子(宮城大学教授)、小林仁(宮城大学教授)、池内真志(東京科学大学教授)

小林 仁:食産業学群 教授
動物生殖学、動物発生工学を専門分野として、現在進行しているウシの受胎率の低下について、その原因の解明を図るとともに受胎率向上のための技術開発を行っています。肥満が妊孕に及ぼす影響を明らかにするために、高脂肪食を給餌したマウスの生殖機能について調べています。また、卵巣内に休眠する初期卵胞を人為的に活性化する卵巣活性化法を開発し、妊孕性の向上と生殖寿命の延長を目指しています。

森本 素子:食産業学群 教授
免疫系が関わる感染症や代謝性疾患・炎症性疾患などについて研究しています。病気になるしくみを知って、動物を健康に育てるにはどうしたらいいのかということを考えています。「ウシの妊孕性向上システムの創出事業」では、ウシの栄養状態と受胎という視点で共同研究に参加しています。

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