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22.05.11

食産業学群小林教授・森本教授らグループが取り組む「ウシの妊孕性向上のためのデバイス」について特許申請/食産業学群

食産業学群の小林仁教授,森本素子教授らのグループが研究開発を進めてきた「ウシの妊孕性向上のための卵巣刺激器具」について特許申請を行いました。この研究は,日本中央競馬会畜産振興事業(2019年度~2021年度)に採択され,国際医療福祉大学,東京大学,秋田県立大学といった生殖医療および医工学の研究者と協働し,宮城大学が事業実施主体となって進めてきた研究の成果です。

ウシの受胎率が年々低下し,大きな問題となっています

人工授精による初回受胎率

人工授精による初回受胎率

昨今,ヒトの不妊症を耳にする方もいると思いますが,ウシの受胎率も過去30年にわたり減少していることをご存知でしょうか(家畜改良技術研究所受胎調査成績)。

その原因は明らかになっておらず,現在も受胎率の減少が続いています。特にウシを飼育する畜産農家にとっては,子牛や牛乳の生産効率低下による収入への影響・飼育期間の延長による飼料費の増加など経営的にも大きな影響があり,受胎率向上が大きな課題となっています。

「卵胞活性化」をキーとしたウシの妊孕性向上プロジェクト

海外においては,ウシの妊孕性(妊娠するための力)と卵巣内の卵胞の関係を調べた報告があります。この報告では,超音波診断装置などで検出するAFC(Antral Follicle Count:胞状卵胞数,卵巣に残っている卵子数など卵巣予備能を予測する数値)が高いウシの方が,妊娠率が高く次の受胎までの分娩間隔が短いことを明らかにしています(Ireland et al. 2008,Mossa et al., 2012)。小林教授は,ウシの妊孕性とこのAFCの関係に注目し,卵巣内の卵胞数を人為的に増やすことで妊孕性の向上が図れないかと考え,国際医療福祉大学河村教授らとプロジェクトを立ち上げ,ウシの卵胞の活性化法の開発・ヒトのモデル動物としてウシを使った新たな卵胞活性化法の開発に向けて共同で研究を開始しました。

2013年,河村准教授(当時聖マリアンナ医科大学)らは,ヒトの卵巣内にある卵胞の人為的活性化に世界で初めて成功しています。河村准教授らが行った方法は,早発閉経を発症した卵巣の一部を体外に取り出して小断片化し,組織培養を48時間行った後,再び卵巣に自家移植する方法です。しかし,2度の外科的手術を伴うことから,そのまま家畜に応用することはコスト的に難しく,ヒトに対する医療技術としても患者にとって大きな負担を伴うことから改善の必要がありました。

「卵胞活性化」を阻害すると考えられる「Hippoシグナル」を,
安全かつ効果的に切断する卵巣刺激器具の開発に成功,特許出願

正常な細胞を培養した場合,細胞増殖が進んで細胞が密になり,細胞接触が増えると細胞増殖を停止することが知られています。これは「Hippoシグナル」という,細胞の過度な増殖を抑制し,器官のサイズを適正に保つための伝達回路が関係しています。成熟した卵巣は通常Hippoシグナルが制御して一定に保たれていますが,小断片化することでこのHippoシグナルが抑制され,休眠していた卵胞が活性化すると考えられます。

小林教授らは,卵巣の一部組織を小断片化する代わりに,生体内の卵巣を複数箇所小さく切開することで断片化に近い状態を作り出し,生体内で卵巣のHippoシグナルを切断できるのではないかと考えました。そこで,ウシ卵胞表面に近い皮質部分にのみ複数の針で穿刺刺激を与え,Hippoシグナルを切断することで卵胞数の増加を誘導する卵巣刺激器具を開発。検証を繰り返した結果,安全性や効率の向上を図ることができ,これらのデバイスについて特許申請を行うに至りました。※特許出願中,出願番号(特願2021-202217)

「卵胞活性化による妊孕性向上プロジェクト」では,2022年度からの畜産振興事業にも採択され、ウシを対象に物理的な刺激による活性化だけでなく,液性因子による卵胞活性化の方法についても検討していく予定です。今後は卵巣穿刺器具の活用の範囲を広げ,卵巣機能が低下した卵巣の賦活法としの活用も検討していくことで,産業動物だけでなく生殖補助医療の分野でも妊孕性向上に貢献していきたいと考えています。

日本中央競馬会畜産振興事業

日本中央競馬会では,日本中央競馬会法第19条第4項の規定に基づき,農林水産大臣の認可を受け,本会の剰余金を活用して,畜産の振興に資することを目的とする事業に助成を行う法人に対して,資金を交付しています。採択事業の実施主体に対しては,本会より畜産振興事業資金の交付を受けた公益財団法人全国競馬・畜産振興会より助成が行われます。

研究者プロフィール

左:森本教授,右:小林教授

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