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新着情報

22.10.11

森本教授らが2021年度家畜衛生学雑誌論文賞を受賞「宮城県の放牧牛における寄生虫浸潤度と駆虫プログラムの実施状況調査」

食産業学群 森本 素子 教授は、動物免疫学を専門分野として、動物が細菌やウイルスなどの病原体から体を守る仕組み(=免疫)について研究しています。このたび、宮城県および全国の放牧場で、消化管内寄生虫の感染状況の調査を行い、その結果を2つの論文として発表、日本家畜衛生学雑誌47巻1号に投稿した原著論文「宮城県の放牧牛における寄生虫浸潤度と駆虫プログラムの実施状況調査」が2021年度家畜衛生学雑誌論文賞を受賞しました。

本研究の成果は以下の2つの論文として発表・公開されました。

  • 宮城県の放牧牛における寄生虫浸潤度と駆虫プログラムの実施状況調査
    工藤庄平, 佐藤浩庸, 森本素子. 家畜衛生学雑誌 47, 9-16, 2021
    ※2021年度家畜衛生学雑誌論文賞を受賞
    ※筆頭著者である工藤庄平さんは森本研究室に所属し、令和元年度に食産業学研究科を修了しました。
     本論文は工藤さんの博士前期課程における研究をまとめたものです。
  • 東北、四国、九州の放牧牛における寄生虫浸潤度と駆虫プログラムの実施状況調査
    森本素子. 牛臨床寄生虫学研究会誌12 (1), 8-13, 2022-01

全世界的に肉ブームが到来、放牧飼育が大きく注目されています

農林水産省の調査では、令和元年度における我が国の一人当たりの牛肉消費量は6.5kg/年と10年間で1割強の伸びを示しています。過去には霜降肉に強い市場ニーズがありましたが、高齢者や健康志向の高い消費者を中心に、赤身肉の需要が増加傾向にあります。高齢者の栄養改善に動物性タンパク質の摂取が有効とされ、今後の需要はさらに増加することが予想されます。

そのような中で、“放牧飼育”が今大きく注目されています。放牧飼育は、閉鎖された建物に囲わずに飼育する、比較的自然に近い状態の飼育方法です。様子省力化やコスト低減、適度な運動による繁殖成績向上、飼育規模の拡大、中山間地域の耕作放棄地の利用が可能などの生産管理上のメリットがあるだけでなく、消費者ニーズに応える赤身肉の生産に適しています。また、乳牛においても、放牧はアニマルウェルフェアに配慮した飼育法として付加価値を与えるメリットがあることから、農林水産省がその活用を推奨しています。

放牧における衛生管理上の課題、その1つが寄生虫感染

広い草地でのびのびと生活している様子を見ると、放牧は健康的な飼い方という印象がある一方で、デメリットのひとつとして寄生虫の感染リスクがあげられます。寄生虫は胃や腸に寄生する内部寄生虫、皮膚に寄生する外部寄生虫に大別されますが、放牧牛は常に内部・外部寄生虫に曝されているのです。寄生虫感染による被害は、明瞭な症状が出にくく、また重篤になりにくいことから、外見から感染牛を見つけることは簡単ではありません。そのため、気づかない間に、不妊や増体不振の原因となったり、飼料効率を低下させて、経済損失につながったりすることも懸念されます。

ベネデン条虫の虫卵

ベネデン条虫の虫卵を撮影した画像

県内4か所の公営放牧場を対象に、駆虫プログラムの実施状況と
家畜の直腸便を用いた虫卵検査を実施、適切な駆虫プログラム実施の必要性

このような、臨床症状から発見することが難しいリスクについては、積極的な検査の実施が必要であると考えられます。森本研究室では、宮城県および全国の放牧場で消化管内寄生虫の感染状況を調査しました。

2018年から2019年の2年間で、県内4か所の公営放牧場を対象に、駆虫プログラムの実施状況をヒアリングするとともに、直腸便を用いて虫卵検査を実施。その結果、多くの放牧場で消化管内寄生虫の感染牛が発見されました。また、2020年には岩手県、秋田県、愛媛県、大分県、宮崎県の放牧場でも同様の検査を実施、この調査でも、駆虫薬を使用していない放牧場の牛において多数の虫卵が検出されました。

これらの調査の結果から、原因の一つとしては、適切な駆虫プログラムが実施されていないことが関連していると考えられます。さらに、駆虫薬を使用している牧場でも100%の駆虫が実現できていない牧場もあることから、薬の投薬方法や時期などの見直しが必要であることが示唆される内容でした。牛の健康や健康的な食肉・牛乳生産のために有効な放牧を真に意義あるものにするために、適切な駆虫プログラムの実施が望まれます。


研究に参加した工藤さん(卒業生)のコメント

この研究を始めた当初は、牛が放牧により寄生虫に感染することで弊害が起きる事を詳しく理解できておりませんでした。ですが調べれば調べるほど牛の寄生虫感染は放牧牛にとっては切っても切れない関係であり、不利益につながる影響があるにも関わらず、あまり問題視されていないことに驚きました。今回の受賞が少しでも多くの牧場関係者の意識改革のきっかけになることを願っております。
森本先生には研究テーマの選定からサンプル採取、虫卵の測定と何から何までたくさんのご指導をいただきました。4回の学会発表は苦労しましたが今となっては良い思い出です。宮城大学で学んだことは今の仕事にも通ずる点も多く今後に十分活かしていきたいと思います。

最後にこの論文はたくさんの方のご協力の下で発表することができました。今回の受賞がご協力いただいた方々への恩返しになれば幸いです。

三丸化学株式会社 バイオアッセイ事業室
工藤 庄平


研究情報の概要

本研究の成果は以下の2つの論文として発表・公開されました。

  • 宮城県の放牧牛における寄生虫浸潤度と駆虫プログラムの実施状況調査
    工藤庄平, 佐藤浩庸, 森本素子. 家畜衛生学雑誌 47, 9-16, 2021
    ※2021年度家畜衛生学雑誌論文賞を受賞
    ※筆頭著者である工藤庄平さんは森本研究室に所属し、令和元年度に食産業学研究科を修了しました。
     本論文は工藤さんの博士前期課程における研究をまとめたものです。
  • 東北、四国、九州の放牧牛における寄生虫浸潤度と駆虫プログラムの実施状況調査
    森本素子. 牛臨床寄生虫学研究会誌12 (1), 8-13, 2022-01

日本家畜衛生学会について

日本家畜衛生学会は家畜衛生とその関連領域における学究の向上を図り、畜産の進歩発展に寄与することを目的としており、年4号の学会誌として「家畜衛生学雑誌」を発刊しています。家畜衛生の範囲は広く、人と家畜の関わる分野での家畜の健康と食の安全を支える学問としてこれからも積極的に関わらなければいけない分野であると考えます。これからも本学会として社会にどのような貢献ができるのか会員と一緒に考えながら進めていきます。論文賞は学会の発展に貢献する優れた業績に与えられる賞です。

研究者プロフィール

病原体から体を守る仕組みが免疫です。病原体にはウイルス、細菌、真菌、寄生虫などがあり、それぞれ異なる反応が起こります。細菌やウイルスのように細胞の中に感染するタイプの病原体が進入すると1型免疫応答が、線虫のように細胞の外に感染するタイプの病原体が進入すると2型の免疫応答が起こります。当研究室では、主に、2型免疫応答の作用機序について研究を進めています。

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