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20.06.03
事業構想学群の大澤あかねさんと鈴木准教授がインタラクション2020でインタラクティブ発表賞を受賞
事業構想学群の鈴木優研究室に所属する大澤あかねさんと鈴木准教授が、このたびのインタラクション2020にて「猫の行動から個体を識別する手法」の研究発表を行い、インタラクティブ発表賞を受賞しました。
鈴木研究室では、インタラクションデザインの観点から、未来のデジタルメディアや生活環境、情報システム、心や体を動かす力を持つメディアをデザインし、創造する研究を行っています。その中のテーマのひとつとして、「人と共生する動物を支援するためのデザイン」に取り組んでいます。犬や猫をはじめとするペットは、家族の一員といえる存在であるにもかかわらず、ICTにより利便性が増した人々の生活環境においてその恩恵をほとんど受けられていません。鈴木研究室ではこの課題を解決するために、さまざまな動物支援の研究に取り組んできました。
インタラクションデザインとは ふたつ以上のものが互いに影響を及ぼし合うときの行為や動作のことをインタラクションと呼びます。インタラクションデザインとは、インタラクションを生み出したり引き出したりするようなデザインのことを指し、インタラクションデザインはその使用者が得る体験とその満足度に大きく寄与します。 |
電子タグ不要、猫の「咀嚼音」から人工知能で個体識別する手法を開発
家庭で動物を飼養する場合、食事や排泄、運動の様子等がその動物の健康状態を判断するための手掛かりとなります。単頭飼いの場合はその様子を知ることは容易ですが、多頭飼いしている場合、個体ごとに活動の様子を細かく把握することが難しくなります。現在、一般家庭内における個体識別手法としては、首輪に電子タグを取り付ける方法などがあります。しかし、これらの装置は動物本来の生活で本来必要ないものであり、動物にストレスを与えてしまう可能性があることが知られています。
本研究では、動物本来の行動そのものから個体識別を行う新しい手法として、猫が餌を食べる際の「咀嚼音」を利用した個体識別器を開発しました。個体識別はDeep Learningと呼ばれる人工知能の一種を使用しました。あらかじめ収集した猫の咀嚼音から音響分析手法であるMFCC(メル周波数ケプスラトム)を用いて個体の特徴を抽出、それを用いて深層学習モデルを作成するという仕組みです。学習モデルの正答率はおよそ90%でした。
この個体識別器の応用例として、猫の食事管理を行える餌入れを開発しました。餌入れは、食事をする猫の個体識別だけでなく、食事量の計測や飼い主への通知等を行い、飼い主の不在時にも複数の猫の行動や健康状態を把握する手掛かりとなります。動物を多頭飼いしている場合にも、個体ごとに活動ログが細かく取得でき、健康管理に役立てることができます。
開発した学生のメッセージ
幼少の頃からずっと2匹の猫を飼っていて、猫のための研究をやってみたいという想いがありました。Deep Learningを用いた個体識別器の開発は、授業ではほとんど触れたことのないプログラミング言語を使用したため苦労しましたが、鈴木先生に指導してもらいながら頑張って実装しました。餌入れの実装が完了した後に、実家の猫たちが実際に使用するようすを緊張しながら観察しましたが、猫たちが普段どおりに食事してくれ、個体識別や食事量の通知もうまく動作したことを確認できたときはとても嬉しい気持ちになりました!研究では行き詰まることがたくさんありましたが、鈴木先生は学生目線で常にコミュニケーションをとってくれたり、夜遅くまで一緒に研究する仲間がいたりしたことはとても心強かったです。自分の好きなことに時間をかけて向き合い、作り上げていくことは社会人になってからは経験ができない貴重なものです。私は、自分自身の実装力やデザイン力に自信がありませんでしたが、学会で受賞できたことで少し自信が持てるようになり、成長を実感できました。先生や研究室の仲間、家族、そして実家の2匹の猫にはとても感謝しています。
事業構想学群
2020年3月卒業
大澤 あかね
動物園など多くの環境で活用視野に、人と動物が快適に共生できる世の中を
開発した個体識別器は、複数の動物が飼養されている多くの環境で活用できると考えています。たとえば動物園では、同じ種類の動物が同じエリアやケージの中で飼養され、個体の厳密な区別なく餌が与えられることもありますが、本研究で開発した個体識別器を使用することで、飼育員の負担を増やすことなく、個体ごとの食事の量や時間の計測が可能になります。
指導教員である鈴木准教授は「ICTによる動物支援はまだまだ発展途上にあり、課題も山積していますが、大学内外のさまざまな分野の研究者の方々と協力しながら、人と動物の双方が快適に暮らせる世の中を創っていきたいと考えています。」とコメントを寄せました。
インタラクション2020-インタラクティブ発表賞
「インタラクション」は1997年より毎年開催されている情報処理学会のシンポジウムで、ユーザインタフェース、CSCW、可視化、入出力デバイス、仮想/拡張現実、ユビキタスコンピューティング、ソフトウェア工学といった計算機科学、さらには認知科学、社会科学、文化人類学、メディア論、芸術といった人文科学の研究者および実務者が一堂に会し、インタラクションに関わる最新の技術や情報を議論する場です。近年の参加者は600〜700人に達し、本分野に関する研究とその成果に対して高い関心が寄せられています。
インタラクティブ発表は、発表者による研究成果のデモンストレーション、および発表者と参加者による双方向のコミュニケーションにより実施されるもので、インタラクティブ発表賞は、参加者全員の一般投票によって優れたインタラクティブ発表者を選出し、授与されるものです。大澤あかねさんと鈴木准教授の発表は、発表日に最も多くの票を獲得してこの賞に選ばれました。
・研究名:「猫の行動から個体を識別する手法」
・受賞者:大澤 あかね、鈴木 優
研究者プロフィール
・鈴木 優(すずき ゆう):事業構想学群 准教授
人・モノとコンピュータを繋ぐデジタルメディアの可能性をヒューマン・コンピュータ・インタラクションの観点から探求し、その開発や応用を通じて人・モノとコンピュータの関係性をデザインする研究を行っています。近年では、手描きメディアの拡張や人と共生する動物を支援するためのデザインに関する研究に従事しています。
<最近の主な学会活動>
・情報処理学会論文誌EC特集号 編集委員長
・エンタテインメントコンピューティング2019 プログラム委員長
・インタラクション2021 インタラクティブ発表委員長
・情報処理学会ヒューマンコンピュータインタラクション研究会 運営委員
・情報処理学会エンタテインメントコンピューティング研究会 運営委員
<参考>
・鈴木研究室ウェブサイト
・9/14「大和町少年少女発明クラブ」デザイン体験ワークショップを開催
・9/7大崎市の有備館まつりでプロジェクションマッピングを実施
・「まにまに展」
・「あととかたち展」
・事業構想学群の鈴木研究室制作「Rolly Rolly」が、デジタルアート展で入賞