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20.06.25

看護学群・風間逸郎教授が新型コロナウイルス感染症に対する新規治療法の可能性を発見

看護学群に所属する風間逸郎教授は,病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており,主要な研究のひとつとして「“慢性炎症性疾患”の病態生理における,リンパ球カリウムチャネル(Kv1.3)の関与」をテーマとした研究を行ってきました。また,内科の医師として,現在も患者さんの診療に携わっています。

このたび,これまで風間教授自身が明らかにしてきた研究成果をもとに,現在,世界中でパンデミックを起こしている新型コロナウイルス感染症に対する新規治療法の可能性について重要な知見を明らかにし,英文雑誌に報告しました。

なお,本報告内容については,6月25日付けで, 英文雑誌(Drug Discoveries & Therapeutics, 風間教授が単独著者)にAdvance Publicationとして掲載されました。

また,この研究は,科研費にもとづく研究成果として,日本学術振興会のホームページでも紹介されています。
科研費による成果で新型コロナウイルス感染症対策への活用が期待される例

新型コロナウイルス感染症重症化を引き起こす “サイトカインストーム”

新型コロナウイルス感染症では,ウイルスが体内に侵入した後,“サイトカインストーム”とよばれる免疫系の暴走がおこり,重症化するメカニズムが分かっています【図1】。現在認可されつつあるレムデシビルやアビガンといった薬は,ウイルスの増殖そのものは抑えますが,このサイトカインストームを抑えることはできません。

本発表内容は,風間教授がこれまで注目してきた「リンパ球カリウムチャネル」のはたらきを薬理的に抑えることによって,免疫細胞であるリンパ球自体の活動性を弱め,新型コロナウイルス感染症でおきている,この“サイトカインストーム”を抑える可能性を明らかにしたものです。

【図1】サイトカインストームによる新型コロナウイルス感染症の重症化
(2020年6月2日 毎日新聞記事より引用)

【図2】リンパ球カリウムチャネル(Kv1.3)と免疫反応との関係
(文献: Kazama I. Drug Discov Ther 2020より引用)

「リンパ球カリウムチャネル」とは,リンパ球の細胞膜上に数多く存在するカリウムチャネルのことを指します。リンパ球とは“免疫細胞”の一種で,細菌やウイルスなどの病原体に感染した細胞を攻撃したり,抗体を作ったりするほか,記憶した病原体にすばやく対応し,それらを排除するなどの機能を持ちます【図2】。カリウムチャネルとは,細胞膜に存在するイオンチャネルの一種で,ほとんどの細胞に存在し,カリウムイオンを選択的に通過させることによって,細胞としての機能を維持しています。

腎臓病でおきている“リンパ球”と“カリウムチャネル”の過活動をヒントに,“サイトカインストーム” を抑え込む薬の候補を発見

風間教授はこれまで,薬理効果(免疫抑制作用)や病態生理との関連を研究する中で,カリウムチャネルのひとつである「Kv1.3」の活性が, 免疫能と深く関わることを明らかにしてきました。例えば,腎臓病のモデルラットでは,リンパ球の活動性が異常に高くなっており,その原因として,リンパ球上に存在する「Kv1.3」が過剰に発現し,はたらきも活発になっていることを発見しました【図3】。このカリウムチャネルのはたらきを抑え,リンパ球の活動性を弱めてやることにより,腎臓病だけでなく,感染症や生活習慣病など,体の臓器で慢性的な炎症がおきていると考えられている病気の治療にもつながることも明らかにしています。

【図3】腎不全モデルにおけるリンパ球(青)の増殖とカリウムチャネル(Kv1.3)(茶)の過剰発現
(文献: Kazama I. et al. Nephron Exp Nephrol 2014より引用)

【図4】クロロキンによるカリウムチャネル(Kv1.3)の抑制
(文献: Kazama I. et al. J Physiol Sci 2012より引用)

風間教授は,これまでの研究で重症の新型コロナウイルス感染症に効果があるとされている抗マラリア薬“クロロキン”が,このカリウムチャネル「Kv1.3」のはたらきを抑え,リンパ球の活動性を弱めることを明らかにしました【図4】。その他にも日常診療の中で多くの患者さんたちに使われている降圧薬や脂質降下薬, 抗アレルギー薬,抗生物質などの中に,このカリウムチャネルのはたらきを抑える薬があることも数多く発見してきました(以下,“研究成果の詳細について”)。

これらの薬は,安全性が十分に確かめられているので,副作用を心配することなく,今後,実臨床への応用が期待できる可能性があります。したがって今回の報告は、これまで風間教授が明らかにしてきた自身の研究成果をもとに,新型コロナウイルス感染症に対する新規治療法の可能性について重要な知見を明らかにしたものであるといえます。

※本研究はJSPS科研費JP16K08484の助成を受けたものです。

風間教授は今後も,臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし,日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも,風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は,是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。
( kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)



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