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20.02.12
事業構想学群 土岐謙次教授による「乾漆シート製法」特許出願
事業構想学群 土岐 謙次 教授は、日本の伝統工芸である「漆」と、CADをはじめとするデジタルデザイン技術の融合による、新たな工芸・アートワーク・デザインを研究しています。これまで取り組んできた「構造乾漆」の一部技術である「乾漆シート製法」について、このたび特許出願しました。
「漆」は塗料であるばかりではなく“非常に優れた造形素材”
漆器や伝統建築、武士の甲冑や華麗な装飾が施された工芸品などに「漆」が広く用いられてきたことは多く知られていますが、この「漆」が実は木の樹液でできた塗料であることはあまり知られていません。原材料となるウルシの木を傷つけると、傷ついた部分を修復しようとして樹液がしみ出し固まります。樹液を加工し、塗料として利用したのが「漆」の技術です。さらに、この硬化する性質を活かした造形技法として「乾漆(かんしつ)」があります。
「乾漆」は、麻布や和紙を漆で固め造形する技法で、国内では奈良時代から平安時代中頃まで彫像製作を中心に用いられました。しかし「乾漆」は天平時代以降、技術的断絶があり、現代まで「乾漆」そのものが主構造となり自立し、さらに荷重を支えるような家具や調度品はほとんど作られていません。
古来の技術である「乾漆」を、最新技術で次代へ【構造乾漆】
繊維骨材を用いて母材を強化するという点において「乾漆」は最先端の素材であるFRP(Fiber-Reinforced Plastic/ 繊維強化プラスチック)と原理的に同じでありながら、はるか千数百年も先駆けて実現された技法です。その優れた特性に着目し「乾漆」の構造材としての力学的物性を検証し、最先端素材の繊維補強樹脂の一種と捉え、構造的・デザイン的可能性を明らかにする取組みが「構造乾漆」です。これまで、実際の作品制作や、耐荷重試験などを繰り返し、国内外の展示会などでその取組みを発信してきました。
漆で「塗る」のではなく、漆で「つくる」
これらの取組みの中で生まれた「乾漆」の新しい作り方として、今回、制作技術の一部である「乾漆シート」の製法を特許出願しました(特願2019-230700)。「乾漆シート」であれば、職人でなくとも、強度や弾力性、抗菌性といった漆ならではの性能を生かし、家具や内装材をつくることができます。従来の工芸作品とは異なる、漆による新しいものづくりの可能性が期待されています。
土岐教授は、今後もこの技術を利用して、地球環境に負担の少ない天然素材のものづくりの実社会での事例を増やす取組みを続けていきます。
「私たちが産業に向かって届けたいメッセージは、漆で『塗る』のではなく、漆で『つくり』ませんか、ということです。これから天然素材で新しいものづくりをしたい人に、漆でつくる仕組みと性能をお見せしたい。そのうえで、何をつくるか、ということを皆さんに考えてもらえたら」とメッセージを寄せました。
研究概要
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究(A)JSPS科研費19H00796の助成を受けて実施したものです。
・研究タイトル:「乾漆を現代のものづくり技術として革新する研究」
・研究代表者:土岐 謙次(宮城大学事業構想学群教授)
・研究分担者:金田 充弘(東京藝術大学美術学部准教授)
研究者プロフィール
・土岐 謙次(とき けんじ):事業構想学群 教授
日本の伝統的漆工芸と、CADをはじめとしたデジタルデザイン技術の融合による新たな工芸・アートワーク・デザインの世界を提案しています。日本工芸のアイデンティティーの象徴とも言える漆を中心的な素材としながらも、3Dプリンターやレーザー加工機、カーボンファイバー等の先端素材などと融合したハイブリッドな活動を展開しています。また、南三陸町にて被災した耕作放棄地にウルシを植える活動を行っています。