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22.07.08

兼田朋子准教授が2022年度日本食品保蔵科学会奨励賞を受賞しました/フードマネジメント学類

食産業学群兼田朋子准教授は,食品保蔵・流通学を専門分野として,青果物の海上輸出実現に向けた品質保持技術の研究を行っています。このたび「輸出を視野に入れた輸送・貯蔵環境制御による青果物の品質保持」に関する数々の研究に対し,2022年度日本食品保蔵科学会奨励賞が授与されました。

高品質な日本の青果物を海外の消費者へ
大量・低コスト輸送が可能な海上輸送へのシフトが求められている

日本の農林水産物・食品の輸出額は年々増加しており,2021年には輸出総額1兆円を達成しました。輸出総額の約7割を農産物の輸出が占めており,今後農産物の輸出の需要はさらに高まっていくことが推察されます。現状の輸出では,短時間・小ロットでの輸送が可能な航空輸送がまだ主流ですが,一括大量輸送・低コスト輸送が可能な海上輸送へのシフトが求められています。

ただし,海上輸送には輸送に時間がかかり,東南アジア向け輸出でも棚もち(出荷後,消費者の手に渡るまでの期間)を含め2週間程度の品質保持が求められるため,その技術の確立が課題です。

海上輸出に必要なバルクコンテナによる効率的輸送・イチゴの中長期品質保持技術の確立・サツマイモの腐敗抑制など,兼田准教授の数多くの取り組みが評価

兼田准教授は,この10年あまり,国産青果物の「海上輸送」を実現するため,効率的輸送システム・品質保持技術の開発など様々な取り組みを行ってきました。

例えば,現在,青果物流通の大部分は小型の段ボール箱で行われていますが,大型の輸送容器「バルクコンテナ」を青果物流通に導入することで,流通経費や環境負荷の低減を図ることができます。「コスト環境負荷同時低減のためのバルクコンテナ物流技術の開発」では,バルクコンテナ物流時の課題となっていた青果物の損傷メカニズムを解明すると共に,導入時の作業性向上効果を解明しました。

バルクコンテナ

また,「イチゴの中長期貯蔵,輸送を可能にする鮮度保持技術の開発」では,緩衝包装や温度制御,フィルム包装の活用によるイチゴの東南アジア向け海上輸送のためのイチゴの品質保持技術の確立を行い,「サツマイモの定温流通システムの構築」では,サツマイモの貯蔵適温を維持した輸出実証試験を行い,その輸送環境変動を観測したほか,高温キュアリング技術による流通中のカビ・腐敗の抑制効果を明らかにしました。なお,サツマイモの高温キュアリングについては,すでに徳島県において社会実装が実現しており,主に香港向けのサツマイモにこの技術が使われています。

高温キュアリング中のサツマイモ

上記の取り組みはほんの一部ですが,これらの研究に共通する特徴として,大がかりな機器類を用いないこと,日本国内に一般的に出回っている資材を活用すること,技術導入にあたり特別な技術を必要としないことにより生産者や流通関係者などの実務者が比較的容易に導入しやすい技術を目指したものであること,などが挙げられます。

これらの取り組みは「一貫して普及を前提とした技術開発に取り組んでおり,青果物の収穫後生理学的知見としての重要性のみならず,現場で実行可能な技術開発を行った」と大きく評価され,奨励賞が授与されました。
兼田准教授は「これらの技術は輸出のみに適合するものではなく,国内での長距離輸送や中長期貯蔵への応用も可能であり,汎用性の高い技術であると考えています。今後も,宮城県産,そして国産青果物の輸出促進や生産量・売り先の拡大に貢献すべく,研究を進めてまいります。」とコメントを寄せました。

日本食品保蔵科学会について

日本食品保蔵学会は,食品の低温保蔵に関する基礎的研究ならびに応用に関する研究を推進し,生産,貯蔵,加工,流通等の技術およびこれらに関する機器の改善を図り,食品流通の合理化と食生活の安定を期とすることを目的とし,1975年「日本コールドチェーン研究会」として発足しました。1987年「日本食品低温保蔵学会」として組織を拡大し,日本学術会議学術登録団体に認定され,会員数約1,000名 を擁する学会となりました。さらに1997年に食品保蔵分野の拡大と学問技術の発展を受け,学会名を「日本食品保蔵科学会」と改称し,新たな社会的ニーズに応えております(2021年度の会員総数:2,366名)。学会誌「日本食品保蔵科学会誌-Food Presevation Science-」を隔月に発行するとともに,大会ならびにシンポジウム,セミナー等を開催しております。奨励賞は,本学会の目的分野において優れた研究をなし,今後さらに発展が期待される者に授与される賞です。(日本食品保蔵科学会HPから引用,一部修正)

研究情報の概要

本研究の成果は以下の5つの論文,7つの学会発表として発表・公開されました。

・研究論文
  1. 兼田朋子他.2013.新規バルクコンテナ輸送に伴うダイコンの加速度および接触部位応力が損傷特性におよぼす影響の解明.日本食品保蔵科学会誌.39(2),67-74
  2. 兼田朋子他.2013.加振周波数と包装資材が多段積載されたダイコンの加速度,回転および損傷特性におよぼす影響. 日本食品保蔵科学会誌.39(5),255-261
  3. 兼田朋子他.2020.バルクコンテナ輸送におけるウンシュウミカンの振動特性および力学的特性. 日本食品保蔵科学会誌45(6),251-259                  
  4. 兼田朋子他.2021.イチゴの東南アジア向け海上輸出実現に向けた輸送環境および包装による品質保持効果. 日本食品保蔵科学会誌 47(5),221-231
  5. 兼田朋子他.2021.高温キュアリング処理によるサツマイモ`高系14号’「なると金時」の貯蔵性向上効果. 日本食品保蔵科学会誌47(2),67-75
・学会発表
  1. 兼田朋子他.2011.バルクコンテナ利用時に懸念される落下衝撃が保存中のキャベツの呼吸及び品質に及ぼす影響.食品保蔵科学会第60回大会
  2. 兼田朋子他.2012.バルクコンテナ積載時のダイコンの振動損傷特性.日本食品保蔵科学会第61回大会
  3. 兼田朋子他.2016.中山間イチゴ産地における流通環境評価及び包装容器の検討.日本食品保蔵科学会第65回大会
  4. 兼田朋子他.2017.東南アジア向け海上輸送時の流通環境が徳島県産イチゴ果実品質に及ぼす影響.日本食品保蔵科学会第66回大会
  5. 中村宣貴他.2017.MA包装によるイチゴ果実のシンガポール輸出時における品質保持効果の検討.日本食品保蔵科学会第66回大会
  6. 兼田朋子他.2019.イチゴの東南アジア向け海上輸送の実現に向けた包装技術の検討日本食品保蔵科学会第68回大会
  7. 兼田朋子他.2021.東南アジア向け海上輸送および現地貯蔵期間中の「なると金時」の品質保持技術日本食品保蔵科学会第70回大会

研究者プロフィール

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