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20.09.01
食産業学群 元木助教らによる“神経科学による食と消費者行動の学際的研究”
食産業学群 元木 康介 助教は、心理実験や視線/脳機能計測により, 外的環境(五感情報や栄養・健康情報)が食や消費者行動に及ぼす影響について研究しています。
このたび、東北大学・メルボルン大学との国際共同研究により “神経科学による食と消費者行動の学際的研究” について, 2本の論文が発表、「脳データによるソーシャルメディア上の動画広告シェア予測」と 「外的環境による食品価値の脳内機序」を世界で初めて明らかにしました。前者の研究成果については、マーケティング分野で権威ある国際学術誌「Journal of Interactive Marketing」, 後者の研究成果については, 神経科学分野の国際学術誌「Frontiers in Behavioural Neuroscience」に掲載されています。「Journal of Interactive Marketing」については, ビジネス分野全体でも, 国際学術誌のQ1(4分位したときの上位25%以内)に値します。 |
脳データはソーシャルメディア上でのシェア数を予測するのか
世界各地で日々、数多くの商品や広告についての情報がシェアされています。消費者のシェア行動を利用したマーケティングをバズマーケティングや口コミマーケティングと呼び、通常のマーケティングよりも効果的であり低コストであると言われています。特に、消費者がシェアした情報はブランド態度や売上にポジティブな影響を与えるため、商品開発においては、どのような広告・商品が多くシェアされるかを予測することはきわめて重要です。
シェア行動には「自己・社会・価値モデル(Scholz et al., 2017 PNAS)」があります。このモデルでは, 人々は, 自己関連処理(情報がどれだけ自分と関係しているか)・社会認知処理(情報をシェアする相手の好感や共感を得られるか)から, シェアする情報の価値を判断していると仮定しています。本研究は、このモデルに基づき、自己関連・社会認知・価値に関連する脳領域について、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、脳データからバズマーケティングの成功(多くシェアされる広告)が予測できるかを検証しました。【図1】
社会認知に関わる脳領域の活動が、ソーシャルメディアで多くシェアされる動画広告を予測する
実験参加者は、企業が実際にFacebookに投稿した40種類の動画広告をMRIの中で視聴しました。結果として、社会認知に関する領域の活動は動画広告シェア数と有意に関係していました。一方で、自己関連処理に関する脳活動、価値に関する脳活動、主観指標(「どの程度シェアしたいか」という質問)は, それぞれ動画広告シェア数と有意な関係は見られませんでした。自己・社会・価値モデルの中で、社会認知、すなわち「他者の心情を推察すること」がシェア行動の最も重要な認知プロセスである可能性があります。また, 社会認知に関する脳活動と主観指標(「どの程度シェアしたいか」)を組み合わせることで, 最も動画広告シェアを予測できました。
神経科学・消費者行動論・機械学習を組み合わせ, 脳データからソーシャルメディア上の動画広告シェア数が予測できることを世界で初めて明らかにしたものと言えます。この成果により、人々によりシェアされる動画広告を事前に予測することが可能となるかもしれません。バズマーケティングに関心を持つ多くの人々が本成果を役立てられるよう、期待されています。
栄養ラベルやブランドの価値は脳内でどのように処理されているのか
なお, 元木助教は, 食の外的要素が価値に影響する脳内機序についても総説論文を発表しています。本研究では, 食品科学・神経科学・消費者行動論など, 幅広い分野の脳機能イメージング研究を包括して, 様々な食の外的要素(栄養ラベル/健康情報/オーガニックラベル/パッケージデザイン/価格/ブランドなど)が価値に影響する脳内機序について報告しました. 食の外的要素は, 海馬(記憶:【図2】A), 扁桃体(感情:【図2】A), 背外側前頭前野(認知制御:【図2】C上部), 腹側線条体(報酬:【図2】C下部)で処理され, 最終的に前頭前野腹内側部で価値が計算されることについて明らかにしました。
「脳データによるソーシャルメディア上の動画広告シェア予測」は、マーケティング分野で権威ある国際学術誌「Journal of Interactive Marketing」、 「外的環境による食品価値の脳内機序」は, 神経科学分野の国際学術誌「Frontiers in Behavioural Neuroscience」に掲載されています。
元木助教は「今後も、学際的研究を通じて 食や消費者行動の研究成果を世界に発信していきたい」とコメントを寄せました。
研究情報
・Motoki, K., Suzuki, S., Kawashima, R., & Sugiura, M. (2020). A combination of self-reported data and social-related neural measures forecasts viral marketing success on social media. Journal of Interactive Marketing, 52, 99-117.
・Motoki, K., & Suzuki, S. (2020). Extrinsic factors underlying food valuation in the human brain. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 14, 131.
・筆頭著者:元木 康介 (宮城大学 助教)
・共同研究者:杉浦 元亮 (東北大学 教授) , 鈴木 真介(メルボルン大学 准教授), 川島 隆太 (東北大学 教授)
※本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業研究スタート支援JSPS科研費19K23384の助成を受けて実施しています。
研究者プロフィール
・元木 康介(もとき こうすけ):食産業学群 助教
食感性科学、消費者心理学を専門分野とし、食を主な対象として, 心理実験・視線/脳機能計測など多様な手法で研究を進めています。五感・感情が消費者心理に及ぼす影響を明らかにすることで, 感性に基づいたより豊かな食生活の提案と, マーケティング実務への貢献, そして健康で持続可能な社会の実現を目指しています。
消費者の心理を捉えて、商品開発に役立てる(シーズ集)
<参考>
・食産業学群元木助教らによる「昆虫食」への挑戦
・食産業学群 元木助教らにより“商品名の発音“と”味“の関係性が明らかに
・食感性科学・消費者心理学研究室
元木助教は, 本研究に関連する国際ワークショップの共同主催や、国際ジャーナルのトピックエディターも務めています。
・食と多感覚についての国際ワークショップ
(4th Workshop on Multisensory Approaches to Human-Food Interaction)
・国際ジャーナルのトピックエディター
(Research Topic : Perspectives on Multisensory Human-Food Interaction. Frontiers in Psychology/Computer