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26.08.21

高糖度トマトの安定生産に向けて―塩ストレス処理の効果の異質性を因果機械学習で探る/食産業学群

近年、農業分野でも、蓄積された栽培データを機械学習で分析する研究が広がっています。食産業学群の後藤勲准教授と菊地郁教授らの研究グループは、因果推論と機械学習を組み合わせ、効果が大きくなる条件をデータから推定する手法「Causal Tree」を用い、トマトの糖度を高めるために行う塩化ナトリウム(NaCl)処理について、糖度上昇効果が大きくなる環境条件と、その効果の大きさを定量的に示しました。この成果は、栽培環境に応じてNaCl濃度や処理時期、温室内の環境管理を調整し、トマトの糖度を安定して高める栽培技術を開発するための基礎となります。本研究成果は、2026年1月8日付で国際学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。

環境によって異なるNaCl処理の糖度上昇効果をどう分析するか

宮城県では、東日本大震災からの復興を契機に、養液栽培や高度な環境制御システムを備えた大規模施設園芸の導入が進みました(図1)。こうした施設の安定経営には、収量の確保に加え、農産物の品質向上や高付加価値化も重要です。その一つとして、食味と商品価値に優れた高糖度トマトが注目されています。
(参考資料:菊地郁(2025)「宮城県の大規模施設園芸の展開と課題」『施設と園芸』211:35–38.)

こうした背景のもと、食産業学群・施設園芸学研究室の菊地郁教授は、トマトの高糖度化に関する研究を行ってきました。養液栽培では、養液に塩化ナトリウム(NaCl)を加えて浸透圧を高め、根からの吸水を適度に制限することで、トマトの糖度を高める方法が知られています(図2)。しかし、同じように塩ストレスを与えても、糖度が大きく上昇する場合もあれば、あまり効果がみられない場合もあります。この違いには、気温、湿度、日射量など、複数の環境要因が関係していると考えられます。

環境要因は互いに関連しながら変化するため、NaCl処理の効果がどのような環境で大きくなるのかを明らかにすることは容易ではありません。従来の分析では、研究者が環境条件の区分や組み合わせをあらかじめ設定して比較する必要があり、多数の組み合わせを調べるには限界がありました。一方、近年、幅広い分野で活用が進む機械学習は、大量のデータから、複数の条件が組み合わさったときに現れる特徴や複雑な関係を見つけることを得意としています。

そこで、データサイエンスを専門とする食産業学群・新技術応用学研究室の後藤勲准教授と連携し、機械学習と因果推論を組み合わせたCausal Tree(因果木)を用いて、これまでに蓄積した栽培データを分析しました。これにより、NaCl処理の糖度上昇効果が、環境条件によってどのように異なるのかを調べました。

Causal TreeでNaCl処理の効果が異なる環境を探索

Causal Tree(因果木)は、ある処理の効果が条件によってどの程度異なるのかを、枝分かれした木の形で示す機械学習の手法です。全体の平均だけでなく、処理の効果が大きい条件と小さい条件をデータから見つけることができます。

本研究では、さまざまな環境で栽培した707果のトマトについて、糖度と環境データを収集しました。そのうち、NaCl処理区と無処理区の栽培条件の偏りを小さくした602果のデータをCausal Treeで分析しました。その結果、NaCl処理の効果は栽培環境(気温、飽差(VPD)、光合成有効放射量(PAR))によって大きく異なりました。本研究で観測した範囲では、平均気温25℃未満、VPD 0.84 kPa以上、PAR 13 mol・m⁻²・日⁻¹未満の条件で最も大きな効果が示されました。この条件では、分析上の基準とした糖度6度以上となった果実の割合が、無処理区より75%高いと推定されました。一方で、平均気温が25℃以上の場合、その効果は20%程度と推定されました。

※CATE:条件付き平均処置効果のこと。本研究では、無処理区と比較したときNaCl処理区の糖度が6%以上となった割合を示す。

環境に応じた栽培管理への活用を目指して

本研究では、従来は平均的に評価されることが多かったNaCl処理の効果を、環境条件の組み合わせごとに具体的な数値で示すことができました。この成果は、環境に応じてNaCl濃度や処理時期、温室内の温度・湿度管理を調整する栽培技術を開発するための基礎となります。また、Causal Treeは、糖度以外の品質指標や、ほかの栽培処理の効果を環境条件ごとに評価する方法としても応用が期待されます。地球温暖化に伴い栽培環境の変動が大きくなるなか、データに基づく安定的な栽培管理への活用を目指します。

研究報告の詳細について

本研究成果は、2026年1月8日付で国際学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。

論文名:Evaluation of conditional treatment effect of salt stress on tomato sugar content using causal machine learning: A pilot study
著者:Isao Goto, Shizuka Abiko, Shiori Sugiura, Ai Furudate, Airi Suzuki, Aki Hayashi, Daiki Suzuki, Kaori Kikuchi
掲載誌:PLoS One 21(1):e0329424
DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0329424

研究者プロフィール

気候変動や担い手不足への対応は、農業が直面する大きな課題です。施設園芸の分野では、高品質な作物の安定生産とともに、栽培管理の省力化や環境負荷の低減が求められています。当研究室では、植物の生理機構や環境への応答を明らかにし、その成果を新たな栽培技術へと発展させる研究を行っています。植物体内の物質の動きを捉える可視化技術、環境データや生育データを活用するAI(機械学習)、有機資源と微生物の働きを生かした養液栽培など、さまざまな手法を取り入れ、基礎研究と技術開発の両面から施設園芸が抱える課題の解決に取り組んでいます。

昨今の情報通信技術の高度化により、様々なデータが収集・蓄積されています。またデータサイエンスという領域ではデータ分析の様々な手法が提案され、成果も次々と発表されています。当研究室では、既存/新規のデータに対して様々な分析手法を適用し、幅広い領域での新たな知識の発見をミッションとしています。また、“AI(人工知能)”といわれる深層学習や機械学習、そしてスマートフォンなどの新しい技術や機器を積極的に利用した新しいサービスの研究・開発も行っています。これらの活動の推進のため、RやPythonといったプログラミング言語の教育や“AI”などの活用に関する教育も行っています。

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