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20.11.20

麻疹(ましん)に対する新規治療法の可能性と臨床現場での有用性/看護学群・風間逸郎教授が卒業研究の学生と報告

看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており、内科の医師として、現在も患者さんの診療に携わっています。このたび、「麻疹の病態メカニズムや新規治療法の可能性」について、これまで国内外で明らかにされてきた重要な知見を纏め上げたうえで、その有用性や、実際に看護の臨床現場で実践できる内容を考察、和文雑誌に発表しました。

本研究は、2018年に看護学群学生(酒井紗希さん:当時4年生=平成30年度卒、現・昭和大学病院小児医療センター)が、麻疹をテーマとして、主に過去の文献検討による卒業研究を行うにあたって風間教授がその指導を行いまとめたものです。今回、和文雑誌に発表した論文は、風間教授と酒井さんによる共著となっています。

感染力が非常に強く“特効薬が存在しない” 全身感染症、麻疹(ましん)

麻疹(ましん/別名:はしか)は、麻疹ウイルスが引き起こす高熱や皮疹、咳嗽を特徴とする感染症です。主な感染経路は空気感染ですが、飛沫感染や接触感染によっても感染するなど、感染力が極めて強いのが特徴です。ひとたび発症まで至った場合には、脳炎や肺炎などの重篤な合併症を併発することもあります。また、高齢者や小児に限らず、若年層や壮年層でも空気感染により容易に蔓延するため、社会的・経済的な損失も大きくなります。

古くから記録の残る感染症ですが、日本では麻疹の患者は激減しており、2015年には麻疹の排除状態にあることがWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局により認定を受けました。しかし、それでもなお2018年には福岡県内で、2019年には福島県内で麻疹アウトブレイクの事例が確認されるなど、我々を苦しめ続けてきた病気です。

しかしながら、実際の医療現場では、麻疹に対して生ワクチン接種により感染を予防する以外には、解熱・鎮痛・鎮咳療法等の対症療法のみが行われているに過ぎず、いわゆる“特効薬”が存在しません。従って麻疹患者に対する看護も、自ずと高熱に伴う脱水に対する水分補給や安静の指示など、専ら支持療法が主体となっています。

特効薬が存在しないこと、若者の間で感染が広がりやすいこと、高熱や咳嗽も主な症状であることなどは、新型コロナウイルス感染症と共通しているのではないでしょうか。またコロナ禍において、小児科への受診やワクチンの接種を控えることによる麻疹症例の増加も懸念されています。新型コロナウイルス感染症の裏で再流行しかねない感染症でもあります。

麻疹ウイルスの感染防御が期待できる、私たちの身近な栄養素

自然界で緑黄色野菜や肉類・魚介類に多く含まれる脂溶性ビタミンの一種で、レチノール、レチナール、レチノイン酸およびこれらの誘導体からなります栄養素、“ビタミンA“。私たちの生活でもよく耳にすることの多い栄養素です。これまで、南アフリカや東南アジア諸国といった発展途上国で、麻疹に対するビタミンA補充療法の有効性が示唆されてはきましたが、そのメカニズムに対する一定の見解が無く、わが国では、実臨床で用いられることはほとんどありませんでした。

今回、国内外の過去の文献を広く検討した結果、麻疹に罹患すると体内のビタミンAが欠乏すること、ビタミンAが欠乏すると生体の免疫機能が低下し、麻疹ウイルスへの易感染性が促されることが明らかになりました(図)。従って、逆にビタミンAを補うことで、麻疹ウイルスへの感染を防御することができると考えられます。

また、ビタミンAの投与により気道組織の修復が促され、麻疹の症状の一つである咳嗽期間が短縮したとの報告をもとに、本補充療法が少なくとも、麻疹患者の苦痛の軽減には大変有効であると考えられました。さらに、咳嗽を抑えることにより、空気感染ならずとも、少なくとも飛沫感染による麻疹の蔓延は予防できる、という疫学的な効果も期待でき、この点は新型コロナウイルス感染症に対する予防法としても応用できるかもしれません。

ビタミンA欠乏と麻疹ウイルス感染による相乗的な免疫機能低下のメカニズム-風間酒井

臨床の現場で活躍する看護師が実践できること

ビタミンAは多くの動物性・植物性食品に含まれる栄養素であるため、服薬指導だけでなく、看護師として食事指導を行う中でも、その補充療法を実践していくことができると思われます。主に外来で患者教育を行う際には、看護師は栄養士と連携する必要がありますが、患者に接する時間が最も長い看護師こそが、食事の内容をよく理解し、患者に正しく指導していくことが重要であると考えられます。患者の年齢や症状、食の好み、自宅で患者をケアする家族の負担など、それぞれの個別性に合わせた提案を行うことができるのは看護師だけです。従って臨床の現場で活躍する看護師こそ、目の前の患者の病態生理をよく理解したうえで、日頃から栄養学・薬理学などの知識を広く身につけておくことが重要だと考えられます。

※2018年度卒業研究・風間ゼミのメンバーとの集合写真(当時”USA“がヒットしました)。一番左の学生が酒井紗希さんです。

風間教授は今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は、是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。
( kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)


研究成果の詳細について

なお、本研究報告は、11月20日付けで看護技術(メヂカルフレンド社)に研究レポート論文として掲載されています。また、風間教授がこれまでに発表してきた本報告に関連する主な研究成果については、以下の英文雑誌に掲載されています。(いずれも風間教授がCorresponding author)

Targeting lymphocyte Kv1.3-channels to suppress cytokine storm in severe COVID-19: Can it be a novel therapeutic strategy?

Acute Bronchitis Caused by Bordetella Pertussis Possibly Co-Infected with Mycoplasma Pneumoniae

Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drugs Quickly Resolve Symptoms Associated with EBV-Induced Infectious Mononucleosis in Patients with Atopic Predispositions

Complete remission of human parvovirus b19 associated symptoms by loxoprofen in patients with atopic predispositions

 


研究者プロフィール

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