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22.05.31

食産業学群三上教授らが紅藻スサビノリにおける高温ストレス応答の研究論文を発表、Feature Paper に選出/生物生産学類

食産業群三上浩司教授は、持続可能なノリ養殖の実現に向けて養殖品種であるスサビノリの高温応答および高温耐性能獲得機構の分子生物学的な研究を推進しています。2022年4月、スサビノリにおける高温ストレスの検知システムに関する成果を国際オープンアクセス学術雑誌「Cells」(IF=6.6)に発表、その論文が非常に高いインパクトを持った新規の先端研究と評価され、同雑誌Feature Paperに選出されました。

地球温暖化の影響で減少する海苔 / 海藻の環境ストレス応答機構はわからないことばかり

宮城県ではノリやワカメなどの海面養殖業が盛んで、高品質の海藻が生産されていることは広く知られています。しかし、最近では温地球温暖化に伴う海水温上昇が海藻の海面養殖の生産量や品質の低下を引き起こしており、大きな問題となっています。

この問題に対応するため、ノリやワカメの高温耐性の獲得機構を詳しく研究し、その知見を活用して環境ストレスにより強い海藻品種を作成して温暖化環境での良好な海面養殖を可能とする技術開発が求められています。しかし、海藻がどのように環境変化に応答して環境ストレス耐性を獲得しているのかについては詳しい研究がなされておらず、海藻の環境耐性能を基盤とする生存戦略に関する知見は極めて少ないのが現状です。三上教授は、ノリ養殖に用いられている「スサビノリ」という紅藻に着目し研究を進めています。

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スサビノリにおける複数の高温ストレス検知機構の発見
~高温ストレス誘導性遺伝子の発現を司る複雑な仕組みの存在~

変温生物の細胞では、高温ストレスにより細胞膜を構成する脂質分子の間の距離が広がることで膜自体が柔らかくなります。逆に低温ストレスは分子間の距離を縮めるので膜が固くなり、流動性が低下します。変温生物の環境応答は、このように細胞膜の物理状態の変化を認識することで発動され、その変化を元に戻すと同時に環境耐性を獲得する生理応答が引き起こされます。これがストレス応答という現象です。三上研究室では、すでに他の生物で見出されている環境応答機構の基本原理を参考として、スサビノリが環境変動を認識した場合、その情報が細胞膜から細胞内シグナル伝達経路を介して核に伝えられ、環境耐性能獲得に必要な遺伝子を発現させる一連の流れがあるのではないか、という仮説を立て、今回は特にストレス検知システムに関する検証を行いました。

図1スサビノリで予想されている高温ストレス応答のフローチャート

図2 温度変化ストレスが細胞膜の物性に及ぼす影響

この検証では、高温ストレスで発現が誘導される熱ショック・タンパク質NyHSP70の遺伝子と、新規に高温ストレス誘導性遺伝子として同定した機能未知のタンパク質NyHTR2とNyHTR2Lの2つの遺伝子の発現に着目しています。検証の結果、NyHSP70遺伝子は、他の生物と同様に膜流動性上昇によってその発現が促されることが分かりました。ところが、NyHTR2遺伝子とNyHTR2L遺伝子は膜流動性の上昇が起きても発現が誘導されませんでした。

図3 スサビノリが持つ細胞膜流動化への依存度が異なる複数の高温ストレス応答経路

これは通説とは異なる予想外の結果であり、スサビノリにおける高温ストレスの検知には細胞膜の流動性の上昇に依存する場合と依存しない場合があることが明らかになりました。このような複数の異なる高温ストレス検知機構を持つ生物としては、スサビノリがはじめての報告となります。これらの研究成果は、スサビノリの高温ストレス応答が性質の異なる検知システムとそれらが活性化する複数のシグナル伝達経路を介して行われており、各経路はそれぞれ異なる遺伝子群の発現制御に関わっていることを示しています。

次の課題は、複数のストレス検知システムが活性化する各シグナル伝達経路にどのような因子が関わっているのかを比較することです。これはスサビノリの高温ストレス応答機構の全体像を把握するために必要となります。また、スサビノリのストレス応答の研究成果は他の海藻の高温ストレス耐性の強化にも応用できるはずです。これらのことから、三上研究室から発信される研究成果は宮城県だけではなく他の海藻養殖地域における持続可能な海面養殖業の発展を可能にするものとして期待されています。

※本研究は、宮城大学・指定研究「宮城県における持続的なノリ養殖の実現に向けたスサビノリの高温ストレス耐性獲得機構の分子生物学的研究」(令和2年度)および「ノリ養殖業の持続化に向けた紅藻スサビノリにおける高温ストレス記憶の分子生物学的研究」(令和3年度)のサポートを得て遂行されました。深く感謝いたします。

これらの実験を担当したのは、ベトナムからの留学生で、現在博士後期課程3年生のHo Viet Khoaさんです(正式な所属は北海道大学大学院水産科学研究院)。

研究を担当した実験操作中のHo Viet Khoaさんと令和3年度研究室メンバー

研究者プロフィール

植物分子生物学、水圏植物生理学、海藻生物学を専門分野とし、海苔の原材料であるスサビノリやウップルイノリなどの原始紅藻を研究材料として、発生・形態形成・環境ストレス応答などの基礎研究や、それらの知見を活かして、例えば地球温暖化のノリ養殖業へのダメージを緩和するための技術開発や高温耐性品種の作出などの応用研究を行っています。また、日本応用藻類学会の会長を務め食産業学群に学会本部を設置するなど、宮城県を中心とした「東北から世界に向けた海藻研究成果の情報発信」にも取り組んでいます。

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