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20.12.15

心電図検査における人為的ミスの発生と予防/看護学群・ 風間逸郎教授が卒業研究の学生と報告

看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており、内科の医師として現在も患者さんの診療に携わっています。このたび、「心電図検査でおこりうる人為的ミス」について、ウシガエルの心電図を用いて実験的に再現、そのうえで、ミスを予防するために看護の臨床現場で実践できる内容を考察し、和文雑誌に発表しました。本研究報告は、12月20日付けで「看護技術」1月号(メヂカルフレンド社)に研究レポート論文として掲載されています。

本研究は、2019年に看護学群学生(鈴木麻由さん:当時4年生=令和元年度卒、現・東北大学病院)が心電図異常をテーマとして卒業研究を行うにあたり、風間教授がその指導を行いまとめたものです。ウシガエルを用いた実験は、杉﨑由衣さん(現・仙台オープン病院)、山田侑奈さん、高村香乃さん(以上、現・東北大学病院)と共同で行いました。今回、和文雑誌に発表した論文は、鈴木さんが筆頭著者、杉崎さん・山田さん・高村さんが共著者、風間教授が責任著者となっています。※写真の中央が鈴木麻由さん

看護師にとって最も身近な検査ツールのひとつ“心電図”

心臓の病気に対する検査の中でも“心電図”は、生体を傷つけにくく手軽に行える検査であるため、病気のスクリーニングに使われることが多くあります。健康診断などで心電図検査を受けた経験がある方も多いと思います。診断のためのツールとして正しい結果を導き出すためには、まず検査を行う者が“心電図”の仕組みをよく理解した上で操作を行うことが大切です。

ただし、心電図の異常な波形は、患者さんの体の動き(体動)や、装着すべき心電図の電極の位置を付け間違えたまま検査を行ってしまうなどといった“人為的ミス”などによっても生じやすいものです。“心電図”の理解が不十分であると、命に係わる(致死的な)不整脈であると誤って判断してしまう他、緊急に対処すべき病気の診断や治療が遅れるなど、ミスが原因となって致命的なリスクやインシデントの発生にもつながりかねません。

ウシガエルを用いて人為的なミスによる心電図異常を再現

“アーチファクト”とは「人工産物」という意味で、広く、機械の不具合や操作が原因で起こる心電図の異常波形のことをいいます。本研究ではウシガエルの心臓を用いて、アーチファクトや、心電図の電極の付け間違いなど、人為的なミスによって心電図の波形がどのように変化するのかを調べました。

機械の設定を変えたり物理的な刺激を加えたりすることにより、交流雑音や体動を発生させた結果、命に係わる “致死的な不整脈”によく似た心電図の波形が誘発されました(図1)。また、ウシガエルの左手と左足との間で、心電図の電極を逆にして(=“付け間違えた”と仮定して)装着し、その心電図波形を記録した結果、本来のみられる心電図の波形(Ⅰ誘導、Ⅱ誘導)が入れ替わっていました(図2:矢印)。これは、左手と左足の電極が入れ替わったことにより生じた、“心臓の電流を拾うベクトルの向きの変化”によると考えられました。

図1.交流障害(A)、体動(B)、呼吸運動(C)による心電図波形の変化

図2.電極と正しく装着したときの心電図(A)、左手と左足の電極を付け間違えたときの心電図(B)

看護の現場での実践、人為的ミスを防ぐためにできること

心臓の病気を合併している患者さんの数は、年々増加しています。急性期・慢性期にかかわらず、看護の現場における心電図検査の有用性は高まっています。特に日常的に患者さんに接する機会が最も多い看護師は、このような観点からも、心電図検査の際に起こりうる人為的なミスについてよく理解しておくことがとても重要です。

入院している患者さんが重症である場合、モニター心電図とよばれる心電図が装着されることがあります。このモニター心電図でよくみられるアーチファクトの例として、患者さんが“歯磨き”をすることによる体動があります。このとき、今回の実験結果のような(図1)、致死的な不整脈に似た波形が記録されることがあります。もし、患者さんで本当に不整脈が起きている場合は命に係わるため、緊急に対処しなくてはなりません。従って、病棟で働く看護師は、モニター心電図だけから判断するのではなく、まず患者さんの元に駆け付け、その状態を直に確認することが大切です。そしてモニター心電図の波形と患者さんの状態とが合わない場合には必ず、ベッドサイドで改めて、通常の心電図検査を行うことが重要です。

心電図の電極を装着するべき手足の部位を誤って検査をしてしまうことは、看護の現場でもよくみられる人為的ミスのひとつです。それを防ぐためには、何よりもまず、正常の波形をしっかりと認識していることが重要です。そのうえで、心電図の波形が入れ替わっていたり、不自然であったりすることに気づくことさえできれば、電極装着のミスに思い至ることができると思われます。

※2019年度卒業研究・風間ゼミのメンバーとの集合写真。左から杉﨑さん、鈴木さん、風間教授、山田さん、高村さん。

風間教授は今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!学会で発表してみたい人、論文の著者になってみたい人!)は、是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。( kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)



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