新着情報
23.09.15
食産業学研究科後期課程修了生の金平修祐さんらが2023 年度農業農村工学会賞-優秀論文賞を受賞「東北地方のコンクリート水利施設における石灰石粗骨材の溶脱に関する基礎的研究」/北辻研究室
食産業学群北辻政文研究室では、農業基盤の一つであるダムや水路などの水利構造物の研究を行っています。この度、研究室に所属した金平修祐さん(食産業学研究科2022年3月博士後期課程修了)らの研究「東北地方のコンクリート水利施設における石灰石粗骨材の溶脱に関する基礎的研究」が、2023年度農業農村工学会賞(優秀論文賞)を受賞しましたのでお知らせいたします。
東北地方の農業水利施設における特異なコンクリート劣化現象のメカニズムを解明
ダムや用排水路、用排水機場など、国内の農業水利施設はストックマネジメント技術による機能診断が行われ、長寿命化対策が施されています。東北地方で実施された機能診断結果では、石灰石(以下 LS)粗骨材を用いたコンクリート水利施設において、粗骨材が選択的に溶脱(コンクリート中の成分が水に溶解して組織が粗くなる状態)し、クレータ状にくぼむ特異な劣化現象が東北地方の広範囲で起きていることがわかりました。この劣化現象は水路の計画流量に悪影響を起こすばかりでなく、水利施設の寿命を大きく低下させる要因となります。(図1)
図1:H幹線用水路の骨材溶脱状況
東北地方のコンクリート水利施設における石灰石粗骨材の溶脱に関する基礎的研究
金平さんらはこの現象のメカニズムを解明するため、現地調査、骨材試験、異なる流速環境下に設置したコンクリート供試体による粗骨材溶脱の再現試験を行い、劣化現象が石灰石に起因すること、その溶脱速度が流れる水の流速の速度に関係していることを明らかにしました。水と接触する水利構造物特有の水流と溶脱の関係を明らかにしたことは極めて新規性が高く学術的に価値が高いとされています。農業農村工学会より「石灰石の溶脱深さが流速に依存すること示し、溶脱の速度を定量化したことは、水利構造物の余寿命の推定に有用でストックマネジメント技術として広く活用が期待でき、農業農村工学に関する創意ある優秀な業績であり学会賞を受賞にふさわしい業績である」との評価を受けました。
北辻教授は「金平氏は、本学に社会人として入学し、2022年度に博士号を取得されました。今回の受賞業績も博士論文『コンクリート水利施設における石灰石粗骨材の溶脱に関する基礎的研究』の一部です。最近の学会賞は基礎研究に近いテーマが多いですが、本研究はフィールドワークを研究テーマとした応用研究であり、農業農村工学会にふさわしいものです。現在、金平氏は岩手県土地改良連合会で、会員に対し、水利施設とストックマネージメントを指導しており、フィールドの課題解決に向けて活躍されています。今回の受賞は、金平氏の研究者としてのスタートに際し、学会からの良いはなむけとなったことでしょう」とコメントしています。
研究情報の詳細
- 受賞:2023 年度農業農村工学会賞【優秀論文賞】
- タイトル:東北地方のコンクリート水利施設における石灰石粗骨材の溶脱に関する基礎的研究
- 執筆:宮城大学大学院食産業学研究科 金平 修祐、宮城大学食産業学群 北辻 政文
農業農村工学会
農業農村工学は、農業の生産性向上と農村の生活環境の整備、農業農村にかかわる中小都市も含めた地域全体の持続的発展を図るため、循環を基調とした社会を構築し、水・土などの地域資源を、人と自然の調和、環境への配慮を重視して合理的に管理する科学技術です。
農業農村工学会は、「農業農村工学の進歩及び農業農村工学に関わる研究者・技術者の資質向上を図り、学術・技術の振興と社会の発展に寄与する」 ことを目的とし、様々な活動を展開している日本学術会議協力学術研究団体で、会員数は10000人を超えます。優秀論文賞は、農業農村工学に関する学術又は技術に関する優秀な業績をあげた個人又は組織・団体に授与されるものです。
研究者プロフィール
・北辻 政文:食産業学群 教授(建設環境材料学研究室)
2050年の世界人口は100億人に達すると見込まれており、100年前の実に4~5倍の人口増加となります。このため人類が今日のような快適な暮らしを維持するためには、衣・食・住、水およびエネルギーの安定的な調達が求められます。しかし、地球上のすべての資源はもはや限界状態にあり、持続可能な開発(SD)への転換が求められています。すなわち「もったいない」精神の基、資源の延命化を図ると共に、廃棄物を減量し、循環型資材の積極的利活用が求められているのです。本研究室では環境負荷の低減を図り、各種リサイクル材の建設材料としての活用技術の研究に取り組んでいます。