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20.08.11
風見正三研究室が「森の学校」基本構想で第26回日本不動産学会長賞を受賞
東北を主要フィールドとして持続可能な地域づくりの研究や実践を進めている事業構想学群の風見正三教授および同研究室が東松島市と協働して基本構想に携わった「森の学校」が、このたび第26回日本不動産学会長賞を受賞しました。
宮城県東松島市立宮野森小学校は、東日本大震災により高台移転・統廃合されて2016年に誕生した「森の学校」です。義務教育課程にあたる公立小学校ですが、持続可能な社会を構築する基盤としての「学校」をどのように再構築するかという問題意識から、東日本大震災を経ていかに自然と共生し、地域と共生していくかを主要なテーマに据えて「森の学校」というコンセプトが構築されました。風見研究室では、それらを具体化するための「教育プログラム」と「空間プログラム」を検討して、学校計画を策定。地域内外の多様なステークホルダーと意見交換を行い、そのなかで得られた知見を活かして計画策定を進めるなど、地域における持続可能なデザインに重きを置いたプロジェクトです。
森の恵みと地域文化を持続的につないで育む「森の学校」
2011年3月11日に発生した東日本大震災で、宮城県の沿岸部に位置する東松島市では最大震度6強を観測。地震により最大10メートルを超える津波が押し寄せました。当時、市が有していた市内小中学校14校も被害を受け、沿岸部に位置していた3校(浜市小学校、野蒜小学校、鳴瀬第二中学校)は津波による壊滅的な被害から現地再建は不可能な状況に陥りました。統廃合・高台移転を伴う学校再建の検討が進められる過程において、本学事業構想学群の風見教授が東松島市の市民協働まちづくりアドバイザーを務めていた縁から、被災した小学校の再建プロジェクトを市と協働で展開することとなり、「創造的復興」を目指した学校再建に取り組む運びとなりました。
こうして「森の学校」の基本コンセプトを構築し、各プログラムを定めていく際に最大の課題となったのが、宮野森小学校が公立小学校であるという前提でした。公立学校においては、行政主導で計画・設計・建設された学校に学区内の児童が入学することが基本であり、一般的に学校建設の過程においては子どもたちや地域住民の意見を取り入れるというステップは用意されていません。さらには東日本大震災からの復興途上という時期に、学校関係者や専門家に協力を仰いで子どもたちや地域住民といった多様なステークホルダーの意見を最大限に取り入れるプロセスを行うことも大きな挑戦でした。そのため東松島市教育委員会は、こうした教育復興のために、教育復興委員会、学校建設委員会を設置。行政や学校づくりの専門家だけでなく、地域住民をはじめ、地域づくり、建築、自然環境等の専門家を含む多様なステークホルダーとの戦略的な検討が重ねられました。
学習指導要領との整合過程に見出された「教育プログラム」の可能性
風見研究室が検討した「空間プログラム」では、地域の自然特性や文化特性を踏まえつつ生態系にも配慮する「エコロジカルプランニング」の計画手法を用いて、自然と共生する学校のあり方や地域と共生するプログラムを構想。学校の建設予定地となる鳴瀬地区は、縄文時代から続く地域固有の歴史風土を有し、校地に隣接する森は貴重生物種の生息地であることから、計画地の環境特性を科学的に把握するとともに、地域の特色を最大限に活かした学校の配置計画を行いました。
また、「教育プログラム」では、「森の学校」の主要コンセプトである「自然と共に生きる学校」「地域と共に生きる学校」を実現させるための検討方針として、5つの方針と目標を設定。
「憩う:森の中で憩うことで、心のケアをしながら成長する」 |
「想う:森とふれあうことで自然の力を知り、豊かな心を育む」 |
「学ぶ:森の体験を通して自然の楽しみ方、生きぬく力を身につける」 |
「つなぐ:地域をはじめ多様な人々と交流しつながりをつくるとともに、森の恵みを共有する」 |
「愛でる:地域を知り、地域愛を育みながら、文化を継承する」 |
学びを中心としながらも、自然を知る体験プログラムと地域と交流するプログラムを用意し、子どもの心のケアと成長につながっていくことが重視されています。同時に、マザーツリーを実際に囲みながら森の歴史を学ぶといった具体的な45 の教育プログラムモデルも定めました。
教育プログラムを具体的に検討するなかでは、「学習指導要領との整合をいかに図るか」という懸念の声が現場から挙がりました。義務教育の課程においては文部科学省が提示する「学習指導要領」に定められた授業時数・総授業時数を満たし、学習目標と内容を達成するような教育を行う必要があります。よって、イベントのように一時的に活動するプログラムではなく、定められている学習指導要領の範囲の中でいかに「森の学校」の教育プログラムを現実的に運用することができるかなど、現場の教職員が取り組みやすいプログラムのあり方を探ることが、重要な視点です。学習指導要領に記載されている目標や内容と「森の学校」教育プログラムとの整合性を検証していく過程は、教科や学年を横断した学び合いの可能性や、隣接する森を教育のフィールドとして活用する可能性、地域住民・専門家をはじめとした外部人材と連携した運営の可能性を見出すことにもつながりました。
風見教授は、急激に都市化した人間環境を顧みて、「環境の世紀」「地域の世紀」として21世紀の「持続可能な社会像」を再構築する必要があると言います。「今こそ、人間と自然の関わり方、都市と地球の関わり方を学び直し、問い直す時期がきています。『森の学校』は震災復興という特殊な社会状況の中で生まれた事業ではありますが、その構想・計画・設計プロセスは全国の教育機関にも応用できるものです。震災復興における希望のシンボルともなった『森の学校』がいかに創られてきたのか、持続可能な地域資源経営のモデルとして、コンセプトや計画・デザイン手法等、構想・計画・デザインのプロセスを今後も広めていきたいと思います」とメッセージを寄せました。
「日本不動産学会学会長賞」とは
日本不動産学会は、不動産に関する総合的かつ学際的な研究・教育の促進を図り、その成果を社会に提供する事業を行うことをもって、学術の振興と国民生活の向上に寄与することを目的とする学会です。「学会長賞」は、学際的な学術研究分野である不動産学の観点から特に優れた業績に対して授与されるものです。
豊かな自然環境や文化資源・地域資源を絶妙な手法で取り込みながら、子どもたちの森に寄せる想いや地域住民の夢や希望を「森と一体となった木造校舎」に結実させたものであり、コンセプトおよび計画・デザイン手法は独創的である点や、被災した学校を復旧するだけにとどまらず、21 世紀にふさわしい学校の在り方、さらには、未来を見据えた新しい教育を創造するためのモデルともなり得る「創造的復興」を正に実践している事例であることが高く評価されました。
研究者プロフィール
・風見 正三 (事業構想学群 教授)
東北から日本の未来を発信するための持続可能な地域づくりの研究や実践を進めています。地域の真の豊かさを追求していくコミュニティビジネスの視点から持続可能な地域産業やライフスタイルの在り方を考察し、コモンズ社会の創造に取り組んでいます。21世紀は、地域の人々が主体となり、個人も地域も共に豊かになるシナリオを実現する時代です。こうした目標に向けて、コモンズの視点やコミュニティビジネスの手法から様々な地域で持続可能な地域創造プロジェクトを提案・実践し、地域主体のまちづくりによるサステイナブルコミュニティの実現を目指していきます。
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※書籍「森の学校を創る-震災復興から発する教育の未来」は、公益社団法人経済同友会「IPPO IPPO NIPPON プロジェクト」の活動助成を受けて刊行しています。