新着情報

21.02.12

利府町「tsumiki」がグッドデザイン賞を受賞/風見研究室・佐々木研究室/地域創生学類

利府町の公共施設「tsumiki」が、2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

利府町まち・ひと・しごと・創造ステーションtsumikiは、その名前に「つみきで遊ぶように、みんなで積み上げたり、重ねたり、組み合わせたりして生まれる新しいかたちを」との思いが込められており、ユニットハウス工法と住民参加を重視してつくられた公共建築です。全国的に施設の統廃合や維持管理が課題となる中、行政・大学・NPO・市民等の協働により、膨大な建設費とランニングコストを抑え、利用しやすく地域性が高い公共空間デザインを実現した点が評価されました。

本プロジェクトは、平成24年度から利府町と本学地域連携センターとのあいだで、様々な計画づくりを通して協働するなど、行政と大学とが時間をかけて連携するなかで生まれてきたという背景があります。本学からは、コンセプトづくりに風見正三教授が関わった他、計画づくりや地域住民とのワークショップ、ロゴデザインなどのプロセスで佐々木秀之准教授、当時宮城大学大学院に所属していた桃生和成氏、デザイン情報学科機関誌DECADEのデザインなどを手掛け本学のデザイン教育に深く関わる渡邉武海氏のほか、多くの本学学生が携わってきました。


今回、このプロジェクトの架け橋として最も重要な役割を担ってきた利府町秘書政策室政策班の櫻井貴徳さんに、本プロジェクトで宮城大学と協働することになったきっかけや、公共施設としての「tsumiki」の魅力などについてお話いただきました。

※利府町秘書政策室政策班、櫻井貴徳 主任主査

――今回グッドデザイン賞を受賞した「tsumiki」プロジェクトの経緯を教えてください

2015年ごろでしょうか、町の将来展望と取り組む施策をまとめる機会があったのですが「時代が大きく変革していく中で、誰もがワクワクするまちをつくりたい」「利府町ならではの特性をしっかりと見つめ直そう」という思いが私たちに強くありました。

利府町は交通の拠点が集中していて、仙台市をはじめ7つの市町村と隣接しています。日本三景松島の一角をなす海が広がり、おいしい梨もある。実際に訪れると豊富な資源に驚かれる方が多いです。また、子育て支援にも先進的に取り組んできたので若者が多く、グランディ21(宮城県総合運動公園)でイベントが行われる際は国内国外問わず多くの人が集まります。

一方で、宮城大学の学生と行なった戦略づくりワークショップで「駅前がさびしい」という意見がありました。仙台のベッドタウンとして発展するなかで、暮らしの満足度とは別に、エネルギーを持った若い世代の集う場が消えつつあった現実もありました。

ちょうど町民や町議会から“市民活動サポートセンター”を作ってはどうかという意見もあり、「駅前の賑わいづくり」「仕事づくり」「市民活動」など複合的な課題を一体的に解決するものとして、利府町独自の戦略の核に据えたのが、この「tsumiki」プロジェクトです。

――宮城大学とは、どのような経緯で協働しましたか?

「tsumiki」プロジェクトの実現にあたっては、若いエネルギーが集まって生まれるワクワク感のような、新たな魅力の創出が鍵となります。そのためには、行政だけでなく、宮城大学をはじめとした様々な仲間を巻き込んだ連携事業として組み立てる必要がありました。

そこで、まず「tsumiki」をつくるための「Rifu-Co-Labo」という施設づくりのワークショップチームを立ち上げましたが、このワークショップチームが、「tsumiki」実現までの重要なメンバーとなりました。

私は以前、利府町から宮城大学に3年間出向して働いていて、その時に縁のあった風見先生・佐々木先生に相談し、当時、宮城大学の大学院に所属していた桃生さんや、本学冊子のデザインを多く手掛ける渡邉武海さんが所属していた(一社)GrannyRideto、彼らを巻き込んだ「Rifu-Co-Labo」ワークショップをつくりました。

※左から桃生和成、渡邉武海、櫻井氏、鎌田功紀政策班長(現秘書政策室長)、佐々木秀之准教授

このワークショップには、町内の若者が参加したほか、宮城大学の学生も多く参加してくれました。町と大学、民間、そして町民が一体となって、施設の機能、デザイン、名称やロゴマーク、使用料金などを話し合ったことが成功の鍵だったと思います。

――プロジェクトを進める上で苦労された点などはありますか?

すべてがとんとん拍子に進んだわけではなく、正直なところ、庁内部の調整や議会への説明などには相当な労力を要しましたし、精神的にも疲れました。

当時の上司である鎌田功紀政策班長(現秘書政策室長)からは「辞表1枚と顛末書5枚を胸ポケットに入れながらでもこのプロジェクトは進めよう」との熱い励ましを受けて進めました。

スケジュールの話をすると、このプロジェクトを立ち上げたのが6月で、「tsumiki」のオープンは同じ年の11月。正直、あり得ないスケジュールです(笑)それでも、6か月の間に住民意見を取り入れながら実施設計を行ない備品発注までして建設をすすめ、条例も整備し、オープンすることができました。

風見先生にはプロデューサーとして、実働として佐々木先生をはじめとした学生たちの力を借りるなど、様々な場面で宮城大学の協力を得て、2016年11月19日になんとか「tsumiki」をオープンすることができました。

特に佐々木先生とは、時には喧々諤々とした議論で熱いエネルギーをぶつけ合うことができ(笑)、プロジェクト推進の立役者のひとりとなっていただいたことを感謝しています。

――「tsumiki」のユニークな点や、大切だと考えるポイントはどのようなところでしょうか

こういった施設づくり、通常は行政が内容を考えて民間業者に建築を発注することが多いのですが、「tsumiki」では、施設づくりの初期の時点で、住民に意見やアイデアを出し合っていただきました。これによって、参加者たちのマインドが「行政がやる取組」ではなく「自分たちがやる取組」というように「自分事」に思ってもらえたことがとても重要だったと思います。

話し合いを熱心に重ねることで、若い世代の柔軟な発想とデザインを取り入れることができた。このポイントに関しては、施設のオープン以降においても大切にすべき視点だと感じています。

行政職員の視点からすると本当は「完璧に出来上がった状態」で運営をスタートしたかったのですが、「tsumiki」はそうではなく、オープン当初はテーブルや椅子の調達やレイアウトに頭を抱えていました。ところが、あるイベント終了後、桃生さんが「みなさん、明日の『tsumiki』のレイアウトは皆さんにお任せしますので、並べ替えを手伝ってください」と言ったことで、気づかされたことがあります。

「tsumiki」はみんなの施設なので、みんなが使いやすいようにすればよい、必要なものがあればみんなで考え、足りないものがあれば協働してつくりましょうということです。

行政がすべて完璧にやってしまうのではなく、利用者や住民が自分たちで行なえる「まちづくりの余白」を残すこと、このポイントは、オープンから4年が経つ今でも大切にしています。

――今後の「tsumiki」利活用のための構想などについてお聞かせください

「tsumiki」は大きな費用をかけて建築し、大きなランニングを要するこれまでの公共施設と異なり、使い方自由なワンルームの空間で、費用を抑えながら施設の機能をしっかりと果たしています。

「つみきで遊ぶように使い方は自由。みんなで積み上げたり、重ねたり、組み合わせたりするうちに、新しい形が生まれます。」というコンセプトのとおり、「まちづくりの余白」を大切にしながら、住民や利用者が自分たちでその機能や設備を付け加えたり、変えたりしていくことで、持続可能な施設運営を行なえる新しい公共施設の先進的な事例です。

また、ワークショップの時に参加者が「公共施設ってなんか行きにくいかも」という発言が胸に残っていて、カフェ的な雰囲気づくりを心掛けました。「これからの行政にはデザインの力も重要になる」ということを、宮城大学への出向時に学んでいたので、若い世代が集まる場とするためには、このようなデザインの観点も必要ではないかと思います。

この4年間をみると、確実に新しい何かが生まれてきたと感じられることが、利府町のまちづくりにおいて大きな成果だと思います。

仙台市のベッドタウンという満足度の高い暮らしに「ワクワク感」がプラスされることは、まちの活性化につながると思いますし、このワクワク感をこれからも少しずつ広げていくことが今後の課題だと考えています。


グッドデザイン賞とは

グッドデザイン賞は、1957年に創設された日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みです。デザインを通じて産業や生活文化を高める運動として、国内外の多くの企業やデザイナーが参加しています。これまで受賞件数50,000件以上にのぼり、受賞のシンボルである「Gマーク」は、よいデザインを示すシンボルマークとして広く親しまれています。製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど、私たちを取りまくさまざまなものごとに贈られます。かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、その質を評価・顕彰しています。

研究者プロフィール

TOP