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新着情報

22.07.01

小地沢研究室が参画した「将監地区複合センター(仙台市泉区)」が2022年5月にオープンしました/価値創造デザイン学類

事業構想学群の小地沢将之准教授は、都市・地域・社会デザイン、住民参加によるまちづくり、社会教育等の分野における実践的な支援を通した研究に取り組んでいます。小地沢研究室が長年にわたって参画し、新しい住民参加プロセスを構築してきた、仙台市の将監地区における3館の複合施設が「将監地区複合センター」として、2022年5月にオープンしました。施設の複合化に際して、地域住民により新たな要素として「いつでも誰でも使える複合施設」が発案され「みんなのサロン」が施設のコアとなる位置に配置される計画となっています。公共施設において利用の自由度が高い空間をどのように運営するか、地域住民による実証実験を行いながら実現に至ったことが、このプロジェクトの大きなポイントです。

将監地区複合センターについて

国が進める公共施設管理の適正化の実現に向けて、仙台市では「公共施設総合マネジメントプラン」を策定し、施設機能に着目した管理・整備手法や民間活力の導入、推進体制の整備などに取り組んでいます。将監地区では、地域協働モデル事業として、公共施設3館の複合化が進められ、NPO法人コミュニティ(代表理事:小地沢准教授)と工作室齊藤彰一級建築士事務所による共同体で、住民参加のワークショップの実施と施設の基本計画の策定を行いました。複合センターの核となる将監市民センターは、主たる事業として科学実験やダンスを通した子どもチャレンジ講座、高齢者向けの将監寿大学、地域の団体との共催によるふれあいコンサートなどを行っています。

将監地区は、昭和40年代に造成された住宅地で、自然に恵まれた住みやすい地域です。将監には憩いの場として将監沼(将監風致公園)があります。春には見事な桜並木が多くの市民に親しまれています。また、夏から秋にかけて沼のほとりのコンサートや自然を活かしたイベントが多く開催されています。


「公共施設複合化に際してのプレデザイン」※2020年8月記事

事業構想学群の小地沢将之准教授は、都市・地域・社会デザイン、住民参加によるまちづくり、社会教育等の分野における実践的な支援を通した研究に取り組んでいます。仙台市の将監地区における3館の複合化に際した新しい住民参加プロセスのデザインが高い評価を受けています。

維持管理コストの削減のため、公共施設が直面する「複合化」の課題

公共施設とは、地方公共団体等により整備されている市町村役場/公立学校/博物館や美術館といった文化施設/公立病院など、私たちに公共サービスが提供される場所をいいます。これらは、税金を財源に整備され、私たちは無料あるいは安い料金で利用することができます。これらの公共施設は、1955年以降の高度経済成長期に最も多く整備されました。

高度経済成長期から50年以上が経過した現在、人口減少と高齢化により医療や福祉などに多くの財源が消費されるような社会の変化に伴い、かつての規模を維持した更新が難しくなりました。さらに、多くの施設は老朽化により、同時期に更新しなければならない状況が発生しました。この事態に対応するため、公共施設の維持管理にかかるコスト削減を目的として、国は2014年、市町村などの地方公共団体に対し中長期的な維持管理のための「公共施設等総合管理計画」の策定を促しました。また、この計画に基づいた“公共施設の長寿命化”や“施設の複合化”に財政支援を行う方針も併せて打ち出したことによって、全国各地で「公共施設等総合管理計画」の策定が行われています。

公共施設の複合化は、さまざまな機能が合わさることで施設の魅力の向上が期待できる一方で、複合化する施設の全体面積を縮減しなければならないルールを果たすために、かえって不便になってしまうような可能性も持ち合わせています。計画にあたっては、施設を利用する住民の意見を活かした、綿密な視点が必要となります。

地域住民が「みんなのサロン」発案、複合化のみでない可能性を模索

仙台市においても公共施設等総合管理計画に相当する「公共施設総合マネジメントプラン」が策定され、これに基づく公共施設の再編が進められています。将監地区(仙台市泉区)では、市民センター、児童センター、老人憩の家の3館の複合化が進められてきました。計画にあたっては、2017年に地域住民や施設利用者の意見を交わし1年間を通して実施したワークショップで、以下の4点が議論されました。

①延べ床面積の縮減
②工事期間中に施設を休館させない方策づくり
③複合化の効果の最大化(単なる施設の併設に陥らない施設計画)
④面積や複合対象の制約によって従来通りの使い方ができなくなることへの方策づくり

この過程で、地域住民により新たな要素として「⑤いつでも誰でも使える複合施設」が発案され「みんなのサロン」が施設のコアとなる位置に配置される計画となりました。

2018年以降は、市当局が想定していた計画に加えて“管理運営を地域住民自身が担う可能性”を模索するため、準備委員会が組織され「みんなのサロン」のような利用の自由度が高い空間をどのように運営するか、実証実験が行われています。

“地域住民が参加するプロセス自体をデザインする”その新しい価値

これまでも、地域住民が意見を交わし、計画に反映させるという取り組みは多くの事例がありました。しかし、反映される意見の偏りや、話し合いの場自体の形骸化などが課題となるケースが多くあります。今回のプロジェクトは、複合化する全体面積の縮減など、社会の変革期における事業上の困難な制約があったにもかかわらず、地域住民や施設利用者が当事者意識をもって解決に取り組み、さらには複合施設の管理運営を地域住民自身が担う可能性までも模索された先進的な事例です。

専門家が複合施設の基本計画づくりを一方的に先導するのではなく、地域住民の不安を拭い取りながら、その実現可能性を検証する実証実験にも関与し、公共施設の新しい運営の姿が模索されたこと、こうした点が高く評価され、本プロジェクトは2020年度の第6回日本建築学会東北支部建築デザイン発表賞を受賞しました。

公共施設に係る維持管理コストや管理運営の負担の削減は、全国各地で喫緊の課題となっています。しかし、選択によっては、これまで活用できていた旧来の公共施設が廃止されたり、存続できたとしても魅力的ではない施設となったり、場合によっては、住民に大きな管理負担を負わせるケースでさえ発生する場合があります。このプロジェクトはまだ実践の途上ですが、望まれないケースを回避できる可能性を立証し、今後も続く公共施設の再編や、地方公共団体・地域住民にとっても、満足される公共施設づくりの実現につながる大きな意義のあるものであると考えられています。

小地沢准教授は、以下のメッセージを寄せています。「私たちの生活において、集落の中心には小中学校や公民館などの公共施設があることが当たり前である時代が続いてきました。一方で、地方公共団体の財政を鑑みると、故郷の懐かしい風景へのノスタルジーだけではこれらの公共施設を守り切れない現状にあります。都市計画においてもいまだ、集落スケールでの拠点形成については、明確な方針が定められていません。しかしながら、防災の拠点、あるいは地域包括ケアの拠点の必要性を考えると、小学校や中学校の学区のスケール感はちょうどよく、いま一度、集落の拠点形成のあり方については検討されるべきであると私は考えています。こういった視点で、都市計画における集落の拠点形成のあり方や、公共施設の適切な機能維持のあり方について、引き続き研究や実践を続けていきたいと考えています。」

日本建築学会東北支部建築デザイン発表賞とは

一般社団法人日本建築学会は、会員相互の協力によって、建築に関する学術・技術・芸術の進歩発達をはかることを目的とする学術団体です。現在、会員は3万5千名余にのぼり、会員の所属は研究教育機関、総合建設業、設計事務所をはじめ、官公庁、公社公団、建築材料・機器メーカー、コンサルタント、学生など多岐にわたっています。

「日本建築学会東北支部建築デザイン発表賞」は、東北地方の建築デザインの発展に寄与しうる会員の取組みについて、講演発表を行った中から、特に優れた講演発表に与えられる賞です。今年度は、応募講演全 10 題の中からオンライン上での審査により選定されました。

研究者プロフィール

まちづくりプロジェクトの教科書

まちづくりプロジェクトの教科書

本書は、町内会・自治会で活躍する皆さんや行政職員、NPOなどの皆さんを想定し、これから初めてまちづくり活動に取り組まれる方はもちろんのこと、これまでまちづくり活動に取り組んできた皆さんのリスタートも応援する書籍です。プロジェクトの基本となる「QCD」、目的・目標の設定、課題解決を導くための方法論や地域資源の発掘や活用、などといった基本に始まり、企画書の書き方、仲間集め(広報や資金調達)の仕方など、計画や実行段階の具体的な流れについても紹介しています。ステークホルダー(利害関係者)との対話の仕方についても扱っています。

〇発行元:森北出版
〇出版年月:2020年5月28日
〇ISBN:978-4627553613
〇著者:小地沢 将之(事業構想学群 准教授)

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