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22.06.30

事業構想学群の卒業生・小野永莉子さんが仙台市章の認知構造について調査/小地沢研究室/価値創造デザイン学類

事業構想学群の小地沢研究室では、都市・地域・社会デザイン、住民参加によるまちづくり、社会教育等の分野における実践的な支援を通した研究に取り組んでいます。事業構想学群を今春卒業した小野永莉子さん(小地沢研究室所属)は、県章や市章も何かしらの地域イメージを内包しているのではないかと考え、『都道府県章の色の認識と緑色の印象評価―宮城県と栃木県を事例に―』と題した卒業研究に取り組み、2022年度日本建築学会東北支部第8回建築デザイン発表会で、『市章・県章の色の認識と緑色の印象評価』と題して発表しました。

緑色の宮城県章と栃木県章の比較調査
イメージカラーを認知しているほど県章も認知している?

昨今の地域づくり・まちづくりでは、かつて都市計画家のケヴィン・リンチが著作『都市のイメージ』で「ミーニング(個人的な解釈)は記録できない」と考えたように、地域のイメージが個々人にどのように認識されているか確認する技法の開発が期待されています。

小野さんはまず、県章に採用されている”色”も地域のイメージを形成している要素の1つととらえました。また、宮城県章の比較対象として「県民の日」を設定しさまざまな取組みを行っている栃木県章のほうが、県民による認知度が高くなるのではないか、と仮説を立て、両県民を対象にそれぞれの地域のイメージカラーと、県章の認知度に関するアンケート調査を実施しました。

アンケート調査の結果は、地域のイメージカラーを「緑色である」と認知している人ほど、県章の認知度も高いことがわかりました。また、宮城県章には、松島を象徴する「こい青みの緑」が用いられていますが、宮城県民が地域のイメージカラーとしてとらえているのは、より明るい緑色であることもわかりました。

古くから使われている「仙台市章」に対して抱く色のイメージ:地域のイメージを明らかにする

仙台市章(仙台市の紋章)は、三ツ引両(竪引両)から考案されたもので、仙台市の「仙」の字を図案化しています。伊達家では、この三ツ引両を「竹に雀」よりも古くから使ったようで、仙台城内の書院、場内櫓の巴瓦、社寺建築にも見られます(仙台市ウェブサイトより引用)。その一方で、古くから使われていたため、仙台市章は色の規定がありません。

そこで小野さんは、「杜の都」という言葉のイメージから、仙台市民は仙台市章が緑色であるとのイメージを抱いているのではないかと考え、仙台市章に8パターンの着色を施し、どれが仙台市章のイメージに近いか、仙台市民を対象とした調査を行いました【図1】。

※【図1】黒色、式典で用いられる市章旗の紫色、記者会見ボードの2色の緑色について、それぞれ図と地を反転させた計8パターン。

調査の結果、図色が薄緑色の図版(左下の図版)を選択した回答者が半数近くにのぼりました。そこで小野さんは、2022年2月に開催された宮城大学卒業研究制作展において、仙台市内の街路樹にも採用されている植物をモチーフに3パターンの図版を作成し、5色の緑色について図と地を反転させた10パターンを展示し、来場者に仙台市のイメージに近いものを選択してもらう実験を行いました。その結果、植物のような意味を持った図版でも、地色が薄緑色の図版を選択した回答者が半数近くにのぼりました。

この結果から小野さんは、伊達家の家紋である三ツ引両(竪引両)をもとに「仙」の字が図案化された仙台市章は、地域のイメージカラーである薄緑色のイメージを持ちつつも、同時に仙台市民には図としての「仙」の字が明確に認知されていると結論づけました。

指導教員である小地沢准教授は「これまでも地域のイメージカラーに関する研究は多数行われていますが、地域のイメージを図化したシンボルの認知度が、地域のイメージカラーの認知と相関があると明らかにできたことは斬新な発見です。加えて、色の規定がない仙台市章が緑色のシンボルであると認知されていること自体、とてもおもしろい発見なのですが、さらに色のイメージよりも図化されたシンボルの意味合いのほうに認知の重きがあることは大変興味深いです」とコメントを寄せています。

指導教員プロフィール

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