新着情報

23.01.25

食産業学研究科の矢崎湧紀さんが第20回日本機能性食品医用学会において優秀賞を受賞/食品機能学研究室

食品機能学研究室(西川研究室)では、宮城県を中心とする東北地方の産業振興、地域連携を目的に、魚介類などの海洋資源から機能性食品素材の抽出・精製、並びに効果・効能に関する研究をしています。このたび、研究室に所属する矢崎湧紀さんが12月3日~4日に開催された第20回日本機能性食品医用学会において発表した演題「経口サケグレリンは血流ではなく迷走神経を介して作用するのか:サケグレリンの機能性食品化へのアプローチ」で優秀賞を受賞しました。

廃棄される未利用水産資源の有効活用を目指して
シロサケの胃に含まれる「グレリン」機能性食品としての可能性に着目

シロサケは北海道や東北地方においてとても重要な水産資源として漁獲されています。シロサケは別名、目近(メジカ)、時鮭(トキシラズ)などとも呼ばれ、秋鮭といって秋の味覚として親しまれていますが、シロサケなどの水産資源を加工する際、胃を含む内臓は廃棄されていることをご存じでしょうか。

抽出したサケグレリン

研究チームは、この廃棄されるシロサケの胃-その中にある「グレリン」と呼ばれるペプチドホルモンに着目しました。グレリンは魚類を含む脊椎動物の胃に存在し、生体の摂食調節:空腹時に食物を食べるように脳へシグナルを送り食欲を増加させる調節に関係します。

これまで、サケグレリンを経口投与すること摂食亢進作用や成長ホルモン分泌促進作用、抗炎症作用などの生理作用があることが明らかになっており、研究チームは、シロサケのグレリンを抽出したグレリン含有サケ胃抽出物(salmon Stomach Extract:sSE)を作製、天然由来の新規機能性食品素材として利用できるのではないかと考えました。

有益な生理作用があるがまだわからないことの多い「サケグレリン」の機能
消化・吸収メカニズムの解明と、神経伝達シグナルの解明に挑む

しかし、機能性食品素材として利用するには、サケグレリンはまだわからないことが多くあります。上記の生理作用があることは明らかになっていますが、経口投与されたサケグレリンがどのようなメカニズムで生理作用を促しているかは不明でした。そこで研究チームは今回、動物実験等を行ってサケグレリンの消化・吸収メカニズムの解明と、神経伝達シグナルの解明に取り組みました。

その結果、サケグレリンは腸内では速やかに消化されるものの、門脈血中(腸などの臓器から肝臓に入る静脈)に現れないことから、腸管では吸収されていない可能性があることがわかりました。また、運動神経のひとつである迷走神経を切離したマウスと迷走神経未処理マウスにサケグレリンを胃内投与した結果、迷走神経未処理マウスでは肝臓のIGF-1(細胞の増殖や分化の促進を調節する成長因子)の遺伝子発現が有意に増加することを確認しました。つまり、経口サケグレリンは腸管で吸収されず、胃のグレリン受容体に結合して迷走神経を介して生理作用を促している可能性が強く示唆される結果となりました。

更なる根拠を得るためには、グレリン受容体の働きを薬理的に阻害した実験や、カプサイシンを用いた迷走神経遮断による長期的な実験を行う必要がありますが、今回の研究成果はサケグレリンの機能性食品素材としての可能性を拓く第一歩になると考えられます。

矢崎さんは「これまでに経口によるペプチドは消化され、生理作用はないと考えられていましたが、我々の研究においてサケグレリンが経口でも作用することを確認できました。この発見は今後の機能性食品素材としての利用に大きく貢献すると思います。これからも自身の研究を発展させ、更なる研究成果を出していきたいと思います。」とコメントしています。

業績概要

  • 第20回日本機能性食品医用学会(2022年12月3、4日開催)一般演題優秀賞
  • 一般演題 2 機能性食品成分投与による生体への影響「経口サケグレリンは血流ではなく迷走神経を介して作用するのか:サケグレリンの機能性食品化へのアプローチ」
  • 矢崎湧紀(食産業学研究科)、森本紗羅、木原 稔、海谷啓之、片山秀和、西川正純(食産業学群教授)

日本機能性食品医用学会

わが国は今後益々高齢者社会に向かい、「健康日本21」政策を具体的に方向付けた「健康増進法」の内容も示され、具体的に食生活の改善などが謳われている。「機能性食品」は欧米でも「functional food」と訳され、すでに学会等で一般的に使われており、関連演題、製品もうなぎ昇りに増えている。一方わが国では「特別用途食品」「特定保健用食品」「健康食品」という名称が使われ、さらに厚生労働省による「病者用食品」の認可作業も進んでいる。機能性食品をとりまくわが国の現状は、多種多様な製品が一般市場に出回っており、中にはイメージだけが先行しているものも多いと考えられる。本会はこれを科学的に研究し、明らかな科学的「エビデンス」のある機能性食品の医用普及により国民の健康促進並びに生活習慣病の予防に役立つことを願って設立した。

指導教員プロフィール

西川教授がDHAに関する研究で日本脂質栄養学会のランズ賞を受賞

TOP