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新着情報

24.01.06

中村恵太さんらによる「植物における微小管関連因子AIR9の微小管制御」が細胞⾻格研究会 -Plant Cytoskeleton 2023-最優秀学生発表賞を授賞/食産業学研究科

植物分子遺伝育種学研究室(日渡祐二教授)は、植物分子遺伝学、植物細胞生理学、発生進化学を専門分野として、食料・バイオマス増産に関わる有用形質の制御メカニズムについて基礎研究を行っています。9月に開催された細胞⾻格研究会 -Plant Cytoskeleton 2023-において、植物分子遺伝育種学研究室(日渡研究室)に所属する中村恵太さんが、植物の微小管おと細胞伸長の制御機構の研究を「ヒメツリガネゴケにおける微小管関連因子AIR9の機能解析」として発表、最優秀学生発表賞を授賞しました。

植物の伸長や分裂を理解する重要な研究テーマの1つ
“微小管関連因子による微小管制御”の解明

細胞が拡大したり、2つの細胞に分かれたりすることは、それぞれ細胞伸長、細胞分裂と呼ばれますが、これらの現象は植物の成長に不可欠です。そのため、植物のバイオマスを増産するためには、細胞伸長や細胞分裂がどのような分子機構によって進行するのかを明らかにすることが大事です。今回の研究で扱う「微小管」は、細胞骨格と呼ばれる真核生物に共通な細胞小器官の1つで、細胞の伸長や分裂の進行に必須な機能をもっています。例えば、伸長や分裂の過程では、微小管の向きが揃ったり、微小管同士が集合したりするなど「微小管の組織化」が起こり、特徴的な微小管構造体が形成されます(図1)。

図1 微小管によって作り出される構造体、分裂期の紡錘体は微小管が集合して作られる構造体である。緑色が微小管、紫色が染色体を表す。

細胞骨格の微小管はすべての真核細胞に存在するもので、仮に細胞を我々の身体で例えるならまさに“骨格”の役割にあたるものです。植物のみならず、動物や酵母菌においても、微小管がどのように組織化して微小管構造体が作られて、細胞の成長や分裂にはたらくのかを分子レベルで明らかにする研究が行われています。特に微小管に対する「微小管関連因子」の機能や制御メカニズムを解明することは、微小管組織化の分子的なしくみの理解に必須な研究方法の1つとなっています。これは、微小管の組織化にはたらく微小管関連因子が、おのおのの因子によって微小管への作用が異なるためです。

ヒメツリガネゴケを用いて
陸上植物が行う微小管制御の分子メカニズムに迫る

コケ植物は、植物陸上化の初期段階でほかの植物と分かれた植物で、そのうちヒメツリガネゴケは、コケ植物のモデルとして実験によく使用されています。このヒメツリガネゴケは、細胞の観察が簡単で、遺伝子の組換えが容易であることから、細胞伸長や細胞分裂を研究するモデル系として使われています。

ヒメツリガネゴケと同じように、モデル植物としてよく使われるシロイヌナズナを用いた研究により、被子植物については、微小管制御に関わる微小管関連因子が網羅的に調べてられてきました。それらの因子のうち「AIR9」と呼ばれる因子は細胞伸長や分裂に関与する可能性に示されていましたが、どのように微小管制御にはたらくかはほとんど明らかになっていませんでした。

本研究は、ヒメツリガネゴケを用いてAIR9の機能を解析することによりAIR9を介した微小管制御の分子メカニズムを明らかにするとともに、ヒメツリガネゴケの知見と、これまでの被子植物の知見と比較することで、陸上植物における微小管制御機構の共通基盤を理解することを目的としています。

ヒメツリガネゴケの微小管因子のひとつ「AIR9」が
微小管の束化に関与し、細胞の伸長に機能することを発見

図2 ヒメツリガネゴケの原糸体と茎葉体

ヒメツリガネゴケは、原糸体と呼ばれる糸状の細胞をもっています。この細胞は先端成長と呼ばれる成長のしかたで伸長します。

さらに、原糸体の細胞から、葉と茎をもつ茎葉体ができます。茎葉体の細胞は拡散成長と呼ばれる成長のしかたで伸長します(図2)。

まずヒメツリガネゴケのAIR9が細胞のどこに蓄積しているかをライブイメージング法で調べたところ、間期の原糸体では、細胞質微小管、細胞膜近傍に存在し、特に伸長領域の細胞質微小管が集合し束になっているところで顕著に蓄積していました。

また、間期の茎葉体では、表層微小管に存在していることがわかりました。

次にAIR9の遺伝子を壊して、AIR9の機能を欠失した変異体を作出し、微小管や細胞伸長を調べたところAIR9機能が完全に欠失した場合、原糸体の伸長領域の微小管の束が異常となり、コントロールと比べて伸長が乱れることを見出しました。また、茎葉体の細胞の伸長も異常になることもわかりました。さらに細胞にAIR9を過剰に蓄積させると、原糸体および茎葉体の微小管が束化することもわかりました。これらの結果から、ヒメツリガネゴケAIR9は微小管の束化にはたらき、細胞伸長に作用する仮説を提唱することができました。

指導教員である日渡教授は「微小管の組織化は細胞の正常なふるまいに必須です。今回は、AIR9を介した微小管制御の一端が解明できました。しかし、1つの発見があると、また新たな疑問が生じるもので、微小管に対するAIR9の機能についても解明すべき点が残されています。今後も、AIR9の機能解析を進めて、微小管の組織化の分子メカニズム、そして微小管を介した細胞伸長や細胞分裂のしくみを解明して、植物生産の基盤技術の発展に寄与していきたいと考えています。」とコメントを寄せました。

研究情報の詳細

  • 授賞名:細胞⾻格研究会 -Plant Cytoskeleton 2023-最優秀学生発表賞
  • 業績名:微小管関連因子AIR9の機能解明
  • 著者:中村 恵太、日渡 祐二(食産業学群教授)
    ※本研究は科研費(2 3 K 0 5 8 0 5)の助成を受けて行われています。

指導教員プロフィール

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